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『イントゥ・ザ・スカイ ~気球で未来を変えたふたり~ 』(2019)    『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメイン共演

イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーによる1862年の気球による高度記録を描いた、いちおう伝記冒険映画ということらしいが、気球操縦者のヘンリー・コックスウェルを、架空の女性アメリア・レンに置き換えている。世界初の女性職業気球乗りのフランス人ソフィー・ブランシャールが、アメリアのモデルになっているが、ブランシャールはこの40年以上前に気球事故で死亡しているし、ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台にしたサイエンス・アドヴェンチャーと思ったほうがいいかもしれない。

『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメインが再共演。これが、アメリカのスーパーヒーローもの俳優出演なら、とたんにお子さま向けファンタジーになってしまうのだが、実力派イギリス俳優陣の演技により、大人が楽しめる作品になっている。名優トム・コートネイも出演。ジェームズの父親を演じているが、コートネイのちょっとしたセリフがクライマックスの伏線になっていたりする。
実在した男性ヘンリー・コックスウェルを架空の女性に置き換えたことに関して批判もあるようだが、意図は理解できるし(PC/ポリティカル・コレクトネスではない)、ドラマとして成功している。実質的にはフェリシティ・ジョーンズが主役と言っていいだろう。コックスウェルはイギリス海軍将校の息子で、軍人になるべく育てられたが、歯医者になり、なぜか職業気球操縦者として偉業を成し遂げた人物で、彼は彼で興味深い人物ではあるが。
気象学者であるグレーシャーは、グリニッジ天文台の気象部門に勤めていたが、気象観測よりも、空の先がどうなっているのか知りたかったようだ。成層圏の概念がまだ無い時代だから、空の先、つまり宇宙に興味があったのかもしれない。

アメリカではプライム・ヴィデオでのリリースに先立ち劇場公開されているが(映画賞ノミネート条件を満たすため)、日本でも来年2020年1月17日から劇場公開されるようだ。空中のシーンの大部分はIMAXフォーマット、音声はドルビーアトモスなので、お金を出して劇場で観賞するのも良いかもしれない。
またIMAXのシーンとそうでないシーンで画面のアスペクト・レシオが変わるのだが、まったく気にならない編集になっている。
飛行中のシーンだけでなく、地上のシーンもお金がかかっていそうで、イギリスのコスチューム・プレイ好きも納得の出来だ。このクオリティでシャーロック・ホームズなんかも映画化してほしい。

【以下、核心や結末に関する記述あり】
実際には鳩は伝書鳩としての目的ではなく、鳩の変化から危険を察知するつもりだったようだ(結局ほとんどの鳩が死んでも飛行を続けるのだが)。高度5マイル(8000m)で気温はマイナス20度、グレーシャーは減圧症と低酸素血症で意識を失いかけていた。コックスウェルは高度を下げる判断をしたが、ガスを放出するためのバルブラインがロープに絡んでおり、コックスウェルはかごから身を乗り出して絡まったロープを解きほぐし、バルブラインを咥えて引っ張り、ガスを放出させた。この時、気球は高度11000mを突破し成層圏に突入していたと推測され、グレーシャーは完全に意識を失っていた…。
本作品はドラマティックな演出はあるものの、実際に映画同様の危険な状況だったようだ。ちなみに最高気球高度は1960年に米空軍の実験で31,330mという記録があるのだが、ほぼ宇宙服に近いような完全与圧服を着用している。

さて、本作品はヴィクトリア朝版『ゼロ・グラビティ』とも言えるし、監督も意識しているかもしれない。しかしストーリーはというと、空の彼方を夢見る主人公が、嵐を抜けて、未知の領域を冒険して、また地上に戻ってくる話だ。
あれ?これもしかして『オズの魔法使』なのでは…?

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2019年12月20日に日本でレビュー済み

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