『テイキング・チャンス』(2009) ストローブル海兵隊中佐の日記に基づく実話
ストローブル海兵隊中佐が、戦死者の遺体を故郷へと移送する任務中につけていた日記を、後にエッセイとして発表、それを映画化した作品です。
ケヴィン・ベーコン演じる劇中のストローブル海兵隊中佐の経歴(17歳で入隊、湾岸戦争に従軍など)も事実に即しています。仕事を選ばない俳優の一人であるケヴィン・ベーコンですが、本作での演技は素晴らしい。
有料放送局の作品にもかかわらず血生臭い描写はほとんど無く、台詞や表情で間接的に惨い遺体の損傷を描く演出も良い(遺体の洗浄の場面で一瞬映るバイオハザード・バッグからも、惨い負傷であることが伺える)。
ともすれば、戦争の美化や軍隊礼賛、アメリカ愛国主義の映画になりかねないのですが、政治色の薄い映画に仕上げており、HBO作品の中でも高い評価を受けている一本です。
なお、ストローブル中佐は本作のミリタリー・コンサルタントを務め、脚本にも関わています。
さて、本作品は戦争の美化や単純なアメリカ愛国主義の映画ではないと書きました。この話は観る人が観れば、ストローブル中佐自身がイラク戦争に懐疑的なのではないか?と気が付くからです。中佐(大隊長クラス)にもなればイラクへ行っても、自ら銃を持って撃ち合うようなことはまずなく、戦死したり負傷する可能性は殆んど無い。1年間家族とは会えなくなるかもしれないが、それは職業軍人として仕方ないことです。イラクに行かないことで、本国で肩身の狭い思いをしているより、イラクへ行けば本国でのオフィスワークに戻ってきても箔が付くうえ、大佐への昇進も見えてきます(17歳で一兵卒から志願して大佐にまで行けば最高の出世)。
一見すると若い志願兵が毎日のようにイラクで戦死している一方で、職業軍人である自分がデスクワークを希望したことで罪悪感を感じているだけに見えます。しかし、ちょっと見方を変えれば、海兵隊員であることを誇りに思う職業軍人でありながら、内心は戦争に懐疑的であることの葛藤とも取れるのです。実は職業軍人が、やや反戦的な気持ちになることは珍しいことではありません。若いころは血気盛んで国や大義のために戦う事を厭わなくても、歳を重ね、結婚して子供もできれば、命や死、戦争に対する考え方もおのずと変わってきます。
マイケル・ストローブルは、この任務の3年後に41歳で中佐のまま退役しています。
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2018年2月21日に日本でレビュー済み
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