星野源に拒否反応を起こすまでの話

【募集ではない】超有名漫画家を題材にしたドラマにも出演していたことが懐かしい俳優は、それ以前からバンド活動とともにソロ活動も並行し、十年以上前にくも膜下出血で二度の手術を経験する憂き目に遭ったもののソロ歌手としてリリースしたシングルが10万枚以上の売り上げを連発した件(女優&歌手は衝撃の結婚報道がなされてからも安定した名声を保ち現在に至る)
(元YMOメンバーは生きる伝説で、何十年も前から音楽業界を牽引して尊敬されるミュージシャンであり、支持は若い世代においても衰えず、近年も男性歌手との交流により話題になった)

どうせ確定で地獄に行くと言われている滝川ガレソが、何やらすごそうな情報をツイートした日がもはや懐かしい。それは夜のことで、純粋にインターネット限定でしか広まっていない情報だったが、かなり話題になっていた。これに対するメディアの動きも早く、早い話ガレソが言っていることは悪質なデマであることが発表され、噂の男性歌手の名誉は守られた。あれからどうなったのか知らないが、ガレソは今日も元気にやっているのだろう。
ガレソが流した怪しいタレコミに実名は記されていなかったが、予測できる材料はあり、それはつまりあの人のことではないかという推理は早い内に出ていた。私はというと、やはり星野のゲンさんのことを指しているのだろうと、とりあえず心に留めるばかりだった。私は現代の俳優や歌手に詳しいわけではないので、別の誰かだろうと主張する知識もない。星野に関するスクープだとしたら大変なことだ(他の誰でも大変だが)。しかし、それは本当だろうかという疑念ももっていたことも一応書き添えたい。

物議をかもした日から数日後、私は「心の友」と呼んでやまない人と会う機会があった。話題はあれこれ移る中で、どういう流れか忘れたが、心の友が星野の名前を出してきた。心の友は、私が星野に向けて感じている印象を知っている。そして星野をめぐるインターネットでの騒動のことも知っていた。私は「あれはどういうことだろうねえ」と曖昧なことを言うしかなかった。それだけで終えるわけにもいかず、結局は「まあ正直嬉しい気持ちがないと言ったら嘘になるよね」という本心を暴露するまでにいたったのだった。
はっきり言って私は星野源に苦手意識を抱いている。そういうわけで星野のメディアへの露出度が下がるなら結構な話だとどうしても思ってしまう。ただし私の苦手意識は、星野がミュージシャンとしている時の話で、俳優業に関しては無知なのでどうでもいい。最近の騒動にしても、内容は不倫だったのだが、それもどうでもいい話だ。結婚しようが不倫して離婚しようと、私には関係のない話でしかない。例の話が本当だとして、不道徳だなどと非難するつもりはない。単にミュージシャンとしての星野をどうしても忌避してしまうのだ。私の音楽の趣味は完全に時代に取り残されており、古いもの(ほとんどが英米の音楽)しか受け付けない感性になっているので、「新譜」というだけで嫌悪する傾向にあるほどだが、星野に関しては特殊だ。星野で拒否反応を起こすようになったのには明確な理由があり、その歴史は長い。自分ではどうしようもない過程を経て、嫌になってしまったのだ。今回は、私がこんな風になってしまった理由三つを記すことにする。ちなみに、星野の容姿に関しても興味がない。歌が下手だという批判もよく見るが、歌というのは上手ければ良いというものではないと考えているため、歌唱力について苦情をつける気はまったくない。

理由1:猛烈に気持ち悪い歌を耳にした

それは確か2011年頃のことだった。私は行きつけの中古レコード店でいつものようにCDやレコードを物色していた。その店には私の好みの盤が多数売られている店ではあったが、店員の趣味は全然違うところに向かっていて、店内BGMは大抵私の気に入らないものばかりだった。私は音楽が聞こえると嫌でも耳を傾ける癖をもつが、なるべく無心に自分の興味のある盤を探すことにしていた。しかしその日の私は違った。例の通り、私には良さがわからない音楽がかかっていて、それは日本語の歌だった。それだけなら問題ないのだが、その歌の歌詞はあまりにも気味が悪いものだった。問題の歌詞をなんとなく記すと、頭の匂いを嗅いで臭いなって思ってどうたらこうたらというものだ。私は人間の生理的なものが苦手だ。漫画を見て、空腹だったり美味しそうな食べ物を見たり、眠っていたりしている人が垂らす液体の表現を目にすることも好まない。生理的なものが苦手と言ったって、生き物として仕方がないものがあることは知っている。ただし、それをあえて表現してみせて、人間や人生の真理を言い当てたという態度が嫌いだったのだ。歌詞とは美辞麗句に過ぎず、メインとなっているのはサウンドにあると思っている私は、穿った見方をした歌詞が目立つ曲に対して猛烈な嫌悪感を抱いてしまう。私が一瞬で嫌いになった曲は、星野ファンなら誰もが知る重要な曲なのだろう。あえてそういう歌詞にすることによって生まれる意味や効果というのも理解できなくはないが、やはり気持ち悪いと思った。
世の中には、人間の真理を穿ちさえすれば偉いに決まっていると思い込んでいる節がある。アニメ『らき☆すた』を見ていると、泉こなたがやたらと「~~が臭くってさあ」みたいな話をしていた。それが他の美少女アニメで描かれる綺麗なだけの世界とは一線を画している証拠なのだという解説を見たことがある。それが何だというのだろう。ただそういうことをやっただけに過ぎないと思う。クリエイター特有の現実に帰れという視聴者への説教だろうか(アニメを作っている時点で最も戻れていないのは制作者だ)。こういうシーンに限らず、京都アニメーションはアニメにあからさまな作為を入れることがあり、そこが飽き足りないところだ。
閑話休題。私が星野の音楽を聴いた最初は、例の身の毛もよだつ歌だった。ただし、この時点の私は、この気持ちが悪い歌を歌っているのが誰なのかまだ知らない。ただ歌い手知らずの不気味な歌として長年にわたって記憶され、ふとした瞬間に思い浮かんでは罵倒することで鎮めていたのだった。

理由2:あまりに無知

時は流れて2016年、星野はすっかり歌手として大成した。一連のヒット曲は2016年前後に生まれている。私の耳にも星野の名と曲は聞こえた。以前手に取って読んだ『地平線の相談』という対談本で、細野晴臣の相手をしているのがあの星野だという認識になった。その本を手に取ったのは、表紙が私の好きな細野晴臣のアルバム『泰安洋行』を模したデザインになっていて、見た瞬間に気になったからだ。その本で細野晴臣と話をしている謎の若者はようやく謎でなくなった。星野について知ってゆく内に、私がそれなりに熱意をもって見ていた連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」にも星野が出演していたこともわかった。SAKEROCKというバンド名も見た覚えがある(曲は知らない)。
どうも思っていたより昔から星野の影を見ていたことがわかり、私は親近感をもちはじめた。一連のヒット曲も、私が受け付けない流行曲とはやや違ったものを感じて、これはもしかすると私が現在の音楽に歩み寄れる端緒となれるのではないかと小さな期待を抱いたものだ。星野のウィキペディアのページを見ると、R&B、ソウルミュージックから多くのことを学んだらしく、それが現在の音楽活動に結びついているとのことだ。星野の音楽の造詣は深く、私が好むものと共通している可能性が高い。
しかしそれは私の思い過ごしだった。発端は、星野のラジオ番組「オールナイトニッポン」に細野晴臣がゲスト出演した際のやりとりの書き起こし記事を読んだことだった。番組では「イントロがヤバい曲」という人気コーナーがあったらしく、細野はイントロが素晴らしい曲を三曲選んでプレゼンした。その三曲とは、エディー・コクランの「Summertime Blues」、フリーの「All Right Now」、デイル・ホーキンズの「Susie Q」だ。いずれもロックンロールの古典だ。この三曲の題名を見た星野は、あろうことか「全部知らない曲です」と言ったのだ。私にとっては信じがたいことだった。あり得ないと思った。
古いけれどすごく有名で後世に残るものは、どのコンテンツにしても必ず存在するものだ。実際に鑑賞したかどうかはともかく、名前を見てもピンとこない人がいた場合、「あんまり詳しいわけではないのだな」と思うのは自然なことだ。
星野は基礎的なことを知らない。その割に、直後には「Summertime Blues」を「知ってると思います」と言い始め、わかったようなそうでないような反応を見せている。「All Right Now」に関しては実際にイントロを聞くと「知ってました」と感嘆しているが、あまりにも遅すぎる。題名を見た瞬間にわかっていて当然だ。「Susie Q」については、「原曲はいまはじめて聞きました」と答えている。原曲ではないヴァージョンがどれを指しているのか、星野は明確に言っていない。その後の番組の流れを鑑みると、細野が(当時の)ニュー・アルバムでカヴァーしたヴァージョンを聴いたという意味ではないだろうか。だとするなら星野はCCRのヴァージョンを知らないという可能性が浮上する。
あまりにも星野は有名な曲を知っていない。私は一度、細野を崇めるためにわざと無知を装っているのではないかと考えたが、そんな態度をとられて喜ぶ細野ではない。なぜなら知っていて何もおかしくない曲ばかりだからだ。同じように、自分の価値を誇示しないための韜晦なのではないかとも思ったが、それにしても身をやつしすぎている。星野は本当にまともに音楽を聴いていないことになる。
星野は2023年にこう言っている。「音楽ってなんかマウントに利用されたりするんで。なんか、ちょっとした知識で「そんなに詳しくないのに語るな」みたいに言われやすいっていうのがあって」、それは「マジでダサいからやめてほしい」行為だと星野は考えている。確かに音楽の知識で大きな顔をする人間は虚しいと私も思う。ただし、「Summertime Blues」「All Right Now」「Susie Q」を知らないというのは、「マウントをとられる」程度の話ではなく、純粋に驚かれても文句が言えないくらいの始末だ。
人はいつまで経っても知らないことだらけだ。知らないのならば絶えず吸収し続ければ良い。それにしても2017年当時34歳だった星野がまだその三曲を知らないとは、どういう音楽遍歴を辿ってきたのだろうか。改めてウィキペディアを参照すると、マイケル・ジャクソン、プリンス、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、アイズレー・ブラザーズ、ディアンジェロに感化されているとのことで、それなら仕方ないかと、私はとりあえず納得するのだった。

正直、星野がエディー・コクランやフリーやデイル・ホーキンズを知らなくても構わないのだ。私の友人の多くは古い音楽に詳しくないが、だからと言って私は彼らを馬鹿にしたりはしない。私がアイドルグループの若いメンバーたちに「諸君はビートルズを聴いているか。聴かないのは恥だ」と主張していたら、私こそがみっともない人間になる。もしロックンロールの歴史と実例を概観したい場合に、はじめてそれらの音楽は必修となる。そうでない人間が知らなければならない義理はない。
つまり星野は、私の友人やなんとか48のメンバーと同じということだ。古典的な音楽を知らなくても問題ないタレントとして活動しているということであり、そのことに罪はない。罪があるのならば、私は大半のタレントを断罪しなくてはならない。問題があるとすれば、私が余計な期待をかけていたことにある。メディアでの持て囃され方を見て、勝手に英米のロック/ポップ・ミュージックに詳しいのだろうと思い込んでいた私が悪かったのだ。星野はニューオーリンズの音楽に傾倒していたという話も聞くが、まあそういうことが言いたくなる時期もあるだろう。私もそうだった。

星野があまりに無知だと知って、私は失望した。ただし、そのことだけで星野を苦手に感じるわけはなかった。印象がプラスになるかと思えたが結局ゼロに戻っただけのことだ。決してマイナスの印象をもったわけではない。別に注目に値する人ではなかったのだなと思っただけのことだ。

理由3:細野晴臣と交流がある

こんなにものを知らない人間が細野晴臣と仲が良いだなんて、世の中はおかしい。単純に私の嫉妬だ。知識の面だけなら私にこそ権利がある。しかし人間関係とは、何を知っているかどうかで決まるものではない。

まとめ

以上、大きな理由を三つ並べた。時系列に直すと、気持ち悪い歌を聞いた→星野という歌手を認識する→思っていたより無知だったことを知る→こんな人が細野晴臣と関係している→あの気持ち悪い歌の作者は星野だった、ということになる。三つの理由が有機的に溶け合うことで、私の星野への印象はマイナスへと転じたのだった。特に2011年に気持ち悪い歌を聞いたという経験は大きな痛手で、なぜこんな伏線が貼られていたのだろうと考えてしまう。理由1さえなければ、ただ私の好むところではない歌手がいるのだな程度の認識で留まれたはずだ。理由3が付随する可能性も高かっただろうが、細野晴臣は多くのミュージシャンに尊敬される人だから、私が好まない人間がいたとしても不思議ではないし、そういう人達と向き合うつもりもなかっただろう。ただもう理由1によって、私の心は傷つけられ、それが何年も後に活性化してしまったのだ。なんという因果な話だろうか。理由1が星野と結びついた時の私の心は、「お前だったのかァ!?」の叫びでいっぱいだった。それももはや懐かしいことだ。

あれから日本の音楽業界は、米津、YOASOBI、あいみょん、adoと新しい存在が次々と台頭している。最近は星野の名前が挙がるのも、ほどほどになった気がする。だから私の精神も安らかになりそうなものだが、なかなか警戒は解けない。星野はインターネットの世界との相性がそれなりに良い。2020年には図らずも安倍元総理と衝撃のコラボを果たしたものだ。星野はアニメやゲームへの関心も高く、彼が何らかの作品について言及するとネットでニュースになる。先述の『地平線の相談』という本でも星野は細野に『はるみねーしょん』を教えており、わざわざそんなことを言うかねと思ったものだ。というわけで、私は星野の名前を目にする度に心をざわつかせているのだった。最近のガレソによる怪しいタレコミを見て、朗らかな気持ちになったのはもちろん私の美しくない心だ。繰り返すが星野のミュージシャン以外の活動は私にとって本当にどうでも構わないのであり、仮に不道徳なことを裏でやっていたとしても、それは関係ない話なのだ。

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