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世界に轟く"天才"の捌き

こんにちは。お久しぶりのnoteです。

遂に終了した4/8、4/9のボクシングウィーク。ボクシングファンにとっては年に一度レベルのお祭りだった。その中で、印象に残った試合の感想を順に書いていこうと思う。
と言っても、ちょっと今月中に全部書ける自信がないほどの濃密な2日間だったため、もし先延ばしになったとしても、どうか広い心で許していただきたい。

まず4/8。ご存知Prime Video Presents Live Boxing第4弾だ。全体を通して見れば本当に期待に違わぬ凄い興行だった。
今回はその1試合目。キコ・マルチネス(スペイン) vs 阿部麗也のIBF世界フェザー級挑戦者決定戦についてだ。

結果は、3-0の大差判定勝ちで阿部が世界王座獲得に王手をかけた。2人が119-109を付けるという文字通りの完勝だった。相手は大ベテラン、強打のキコ・マルチネスだったが、2Rに一瞬膝を折られたアッパー以外はほとんど危なげなくと言って良い試合運びで捌き切った。解説の長谷川、村田両元チャンプの、称えつつも、世界王座に向けては更なる進化が必要かもしれないとのコメントがやや辛口に思えたくらい、個人的には最高に近いパフォーマンスだったと感じた。

確かにストップ出来ればインパクトも含めてより良かったのかもしれないが、私としては、阿部のような技巧派アウトボクサーにとっては、むしろあの展開を12R耐え抜いて勝ち切ったということの方が価値があると思っている。ましてや、逃してしまうと決して再び掴めるとは限らない、挑戦者決定戦のチャンス。1発逆転の術を心得るマルチネス相手に、インパクトを求めてリスクを冒しに行く必要などないのだから。

もしかすると、過去のキコ・マルチネスの試合をよく見ていて、最近は見ていなかったという方の中には、やはりマルチネスは衰えたなという印象を持った方もいたかもしれない。だが、実はそれが意外とそういうわけでもない。確かにスピードや反応などは落ちているだろうが、そこを補うベテランらしい老練な戦い方を確立し、最近はむしろ第二の全盛期とも言えるほど調子が良かったのだ。

2021年2月には、スーパーフェザー級プロスペクトのゼルファ・バレット(イギリス)と、相手の土俵であるスーパーフェザー級契約12回戦で対戦し、期待度の高いバレットを強力なプレスで押し込み続けて苦しめた。その試合は、私含め、ファンからマルチネス勝ちとの声も多く上がる内容だったが、ホームであるバレットにやや有利な判定が出て敗れてしまった。しかし、自分より一回り大きいバレットにバックステップを踏ませ続けたその戦いぶりからは、ベテランの妙味すら感じさせた。

その後11月には、3度目となるフェザー級王座挑戦で、技巧派のスイッチヒッター、キッド・ガラハド(カタール)に4Rまで完封されながらも、起死回生の1発で劇的な大逆転KO勝ち。1度目の計量でオーバーしてしまうほどの減量苦と戦っていたガラハドのスタミナの消耗を見逃さず、ニックネーム通りのセンセーショナルなノックアウトを演出して2階級制覇を達成してみせた。技術では勝てないと見るや、得意のプレスで相手を削りながら1発を狙い続け、最終的には狙い通り見事に1発でひっくり返したその戦いぶりを見て、私はマルチネスは再びピークに入ったと確信したものだ。

その後、元IBF王者のジョシュ・ウォーリントン(イギリス)との5年越しの再戦に敗れて初防衛には失敗してしまうも、再起戦で世界ランク8位の英国人プロスペクト、ジョーダン・ギルを4度倒して圧勝し、キコ・マルチネス未だ強しを証明したのが約5か月前のこと。世界ランク2位の座は、その勝利によって掴んだ文句なしの地位であり、今の彼の実力にも十分見合ったものだったと言える。(ちなみに、今回は2位と3位による挑戦者決定戦だったが、本来は1位と2位を空位にしておき、世界ランカー同士によるエリミネーター戦での勝者をそれぞれ1位と2位に据えるというのがIBFの基本的なランキング制度だ。そして原則1位が最優先の指名挑戦者、2位が次期挑戦者となる)

そんなマルチネスを華麗なフットワークでフルラウンド寄せ付けなかったのだから、阿部の技術が十分世界に届き得ると証明したと言って間違いないだろう。途中明らかにマルチネスの勢いが落ちたのは、最近のマルチネスの試合を見る限りでは、決して衰えのせいだけではなく、阿部の正確なブローによるダメージで削られたことが1番の理由だと思う。文句なしの世界ランク1位だ。あれだけ緊張感を切らすことなく、常にフットワークを刻み続けられる体力、精神力はとてつもない。ディフェンスワークやポイントメーク術も間違いなく世界レベル。自信を持って世界のベルトに挑んで欲しい。

標的となるIBF王者は、日本時間5/28に行われる、ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ) vs マイケル・コンラン(アイルランド)の勝者だ。いずれも強敵には違いないが、どちらが勝っても阿部にも大いにチャンスがあると思う。両者の特徴を一言で紹介すると、現王者ロペスは変則的なスタイルで、タフネスと強打を武器とするファイター、挑戦者のコンランは元五輪銅メダリストで、技巧を売りにするスイッチヒッターだ。

ロペス vs コンランは指名防衛戦ではないため、この試合の勝者には、次戦にでもすぐにIBFから阿部との指名戦が指令されることも考えられる。コンランが勝った場合はなかなか難しいかもしれないが、ロペスが勝った場合には、日本開催に持ち込める可能性も大いにあり、そうなれば久しぶりの日本人フェザー級世界王者誕生の瞬間を日本で見られるかもしれない。
いずれにせよ、"天才"阿部麗也の悲願の世界挑戦は年内開催が濃厚だと考えて良いのではないだろうか。大いに楽しみにしたいと思う。
まずは5/28、注目だ。

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