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民間出身者の目線で自治体のデジタル化を進める【広島県三原市インタビュー】

広島県の東部、瀬戸内に面する三原市。本noteではこれまで、ゼロトラストへ積極的に取り組んでいる自治体として、広島県にインタビューをしてきました。今回はそんな広島県における基礎自治体のひとつである三原市で、自治体がデジタル化を進める上での思いを伺ってきました。

― 令和3年度、就任された当時のお話をお聞かせください。

デジタル化戦略課の創設と同じくして、私はデジタル化戦略監に就任しました。就任した当初驚いたのは、紙とハンコの多さです。職員みんなが出勤簿にハンコを押す姿を見て、平成元年の自分が社会人になったばかり、前職の企業に就職したばかりの頃を思い出しましたね(笑)。ハンコで業務が成り立っている文化を変えたいという思いもあり、労務システムの導入やワークフローの利用拡充を働きかけました。
また、当時はコロナ禍の真っ只中だったというのもあり、同年の9月には庁内の一部業務でテレワークを開始しました。市の業務が止まるなど、コロナが原因で市民の方々へ迷惑をかけるわけにはいかないという思いから、私にとっては一丁目一番地の課題でした。とはいっても、今思えば当時のテレワーク環境が職員にとって快適なものではなかったかもしれません。

― DXにより利便性が向上する一方、変化を好まない方もいらっしゃると思いますが、その点はいかがでしたか?

就任当初から、庁内の直接的な反対意見はありません。もちろん、変えたくないと思われている方も一定数はいらっしゃるかもしれません。“今までやってきた形で業務を続けたい”という思いは理解できますが、そうも言っていられない時代になりつつあります。
三原市はここ数年で、豪雨災害や新型コロナウイルス感染症など、今まで経験したことのない脅威に直面しました。私ども職員は、このような未知のリスクから市民を守ることに対して迅速に取り組まなければいけません。また、日本国内の人口が減少している局面において、本市の行政運営をどのように継続させていくのか、どのように質的な向上を実現させていくのか、という課題に対しても職員は解決策を策定していく必要があります。その時間を創り出すためにも、自分たちが今まで行っていた庁内の事務作業をすべて自動化・無人化していくことが重要であると、会議や研修などさまざまな場面で伝えているところです。

― 増田様が就任された背景に、三原市によるデジタルファースト宣言というものがあると聞きました。どのようなものなのでしょうか。

私が就任する前年の令和2年8月に、岡田吉弘市長が新しく誕生し、三原市が抱える社会課題の解決としてデジタルを活用していきたいとの思いから、デジタルファースト宣言を発表しました。私にとって興味深かったのは“誰一人取り残さない”という政策方針です。前職の民間企業では、商品やサービスの開発を進めていく際に、販売のターゲットとするお客様を絞り込むことが重要でした。ですが、行政運営はそこに住んでいらっしゃる住民の多様性を重んじた、“誰一人取り残されない”、それぞれに幸せな暮らしを実感できるような施策を生み出すことが重要であり、今その難しさや大変さを実感しているところです。

― DXを推進すると、個人情報取り扱いなどで懸念が生まれそうですよね。

たしかに平成27年の日本年金機構によるデータ流出事件以降、自治体のネットワークは“マイナンバー利用事務系”、“基幹システム系(LGWAN)”、“インターネット接続系”の三層分離を物理的に行っており、三原市も今まですべて、ファイアウォールによって閉ざされた環境下で主に業務システムを運用しておりました。ですが近年、非常に業務効率化に繋がるような秀逸なソフトウェアが、インターネットを介したクラウド上でサービス、つまりSaaSとして提供されることが増えてきました。私もSaaSの利用はデジタル化推進していく上で欠かせないものだと認識しております。ですが、その前提条件として、職員が利用する個々の端末がネットワーク内外に関係なくすべての通信から守られるようなセキュリティシステムが必要になります。

― なるほど、ゼロトラストの考え方ですね。
以前、広島県の桑原様にインタビューした際、次期セキュリティクラウドの一環として、αモデルの基礎自治体に対してもEDRを導入すると伺いました。まさに、三原市が当てはまると思うのですが、どのように受け止められているのでしょうか。

ぜひ導入したい、と思いました。将来的にβモデルへ移行も検討しておりますが、従来のようなエンドポイントと境界防御では機密性の確保、延いては職員の業務を維持できません。働き方改革が進めば、仕事場は庁内だけではなくなります。その時、市民の皆さんに説明できるようにするためにも、EDRをはじめとしたゼロトラストの考え方は必要になってくると思います。

また、われわれ基礎自治体の悩みとして、自分たちだけで大掛かりなセキュリティにコストをかけるのはとても難しいというのがあります。特にSOCなどのような監視・運用は大きな課題でした。今回のような共同調達やセキュリティクラウドは非常にありがたい存在です。

YouTube動画にもご登場いただいています!

【インタビュー】広島県三原市#1「デジタル化の取り組み」【コラボ】

【インタビュー】広島県三原市#2「セキュリティクラウドとの関係性」【コラボ】

ライター:橋本 悠佑