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新米PI日記 「カウンターオファー」

面接が終わると次のステップはオファーレターをもらえるかどうか。つまり雇用契約書をもらうことにあります。ただ、それで終わるわけではなく、カウンターオファーというステップもあることをご存知ですか?
今回は雇用契約の最終ステップのお話です。

意外に早かったオファーレター

8月下旬に終わった3回目の最終面接。最後にセンター長と面談したときに、採用された場合の異動希望日を聞かれました。次のグラントの提出日のことなどを考慮し、2024年1月くらいを検討していると伝えました。すると、それならできるだけ早くオファーレターを準備しましょうと言われました。
アメリカの”できるだけ早く”なので2,3ヶ月はかかることを予想していましたが、驚いたことに最終面接から1週間後にはメールでオファーレターをもらいました。通常オファーレターには、どのポジションでのオファーか(私の場合はアシスタント・プロフェッサーのポジション)、どの部門のPI(研究室の主催者)か、要求される職務内容、そして給料が記載されています。そして、PIポジションでの応募となるため、スタートアップといって研究施設側から支給される研究費(人件費、物品購入費、研究費、経費など)がいくらで、それが何年間支給されるかも記載があります。これにはいろいろなバージョンがあるようで、3年間のサポートだったり、5年間のサポートだったり。スタートアップの費用も期間内に使い切らないといけなかったり、使用しなければずっと繰り越しできる場合もあります。給料とスタートアップが別になっている場合もあれば、スタートアップの中に自分の給料が含まれる場合もあるそうです。
私の場合は、給料とスタートアップは別で、スタートアップのサポート期間は5年、またスタートアップは繰り越しができず5年以内に使い切る必要があるものでした。この内容に満足であれば書類にサインしてメールすればいよいよ雇用手続きが始まります。

伝家の宝刀、カウンターオファー!!

「カウンターオファー(counteroffer)」とは、雇用条件に関する交渉の一環として行われることです。具体的には、雇用者から提示された就職のオファー(給与、福利厚生、勤務条件など)に対して、求職者がより良い条件を求めて雇用条件の調整をお願いすることです。例えば、給与が期待に満たない場合、求職者は自分のスキルや市場価値を根拠にして、より高い給与や改善された条件を求めるカウンターオファーを雇用者に提出することがあります。
オファーをもらった場合、当たり前ですが就活先に異動するのか、それとも今いる職場にそのまま残るのか、ということを決断しないといけません。就活しているということは、通常は現在の職場に残ることが条件的に必ずしも満足できていなかったり、さらなる好条件の職場に移りたくてしている訳ですが、他の職場から引き抜きにあっているとなると、それをもとに現在の勤務先に勤務条件の交渉をすることもできます。
私の場合は、独立のためのグラントが獲得できたとき(2023年4月)に、そのときの職場で昇進・昇給でないか確認したときには、アシスタント・プロフェッサーなどの大学職員のポジションに昇進することは難しく、給料は上げれるものの私の希望の額までには達しなさそうなことが分かりました。そこで、今回もらったオファーの内容をその当時の勤務先の責任者に提示し、そのまま職場に残った場合に雇用条件をどれくらい善処できるのか交渉してみました。ただし、この交渉はお互いの関係性を見誤ってしまうと職場に残る選択肢が全くなくなる可能性もあると思うので慎重に行う必要がありそうです。このときに、いい条件でのオファーがもらえると、さらに就活先のオファーにカウンターオファーをかけることができて、条件をもっと良いものにできないか依頼をすることができます。

決断の日は日本から

このやり取りをしている間は、ちょうど学会参加などがあり日本に4年ぶりに一時帰国していたときでした。その当時の職場の心臓胸部外科の教授、研究チームのディレクターと希望する雇用条件について日本時間の深夜にZoomミーティングしたのは懐かしい思い出です。雇用条件変更についての結論がでるまでしばらく時間がかるとの話でしたので、待っている間は、異動するときに一番問題となる「グラントの異動依頼の手続き」を始めていました。PIで就活する人は基本的にどこかからかグラントを取得しています。そのため、施設を移る場合はグラントを移す手続きも必要となりますが、それに必要な書類はまあまあ多くその手続の処理も時間がかかります。私の場合は、私が異動する理由をかいた書類1枚、異動先で新しいメンターをもつことを説明した書類1枚、異動先の研究室の施設長の許可書類が1枚必要だったのその書類の準備を始めていました(他にもグラント管理者の変更依頼書、グラント資金の収支報告書やプロトコールと呼ばれる動物実験計画書などの提出も必要です)。
9月下旬にはその当時の職場からの新しい雇用条件も提示してもらい、異動するのか職場に残るのか決断をする日が迫っていました。提示された雇用条件は随分と自分の状況を考慮してもらった内容にはなっていましたが、就活先から提示された雇用条件はそれでもかなり条件がいいものでした。8年以上を過ごして、良いこと悪いこと全てを知り尽くした職場を去るのには勇気もいります。いくら新しい職場で良い条件を提示されてても「実際赴任してみると話と随分違った」ということもあるあるなので。すでにPIとして独立している友人や家族とも何回も話し合いをして、最終的に自分の結論をメールでそれぞれの施設に送信したのは、出身大学の医局に挨拶にいく途中に泊まっていた旅館の部屋からでした。
アメリカへの研究留学を決めたときに続いて、自分の人生において2回目の大きな人生の転換点となる決断であり、方向性が決まったことの安心感と、これからどうなっていくか分からないことの不安感と複雑な感情に包まれました。

アメリカの転職裏話

アメリカでは数年で転職を繰り返すことも珍しくないと聞いたことがある人も多いと思います。興味深い話として、「アメリカでみんなが転職を繰り返す理由」があります。1つ目は、職場が合わないと、そこで努力して環境を良くしていくより転職したほうが楽ということ、2つ目に、転職するときは通常、前の職場より好条件で雇用してもらえる、というのがあります。笑い話しとして、「本人の取得している技術はほとんど同じでも転職を繰り返すことで給料が上がっていく」という夢のような転職ライフも存在するとかないとか。もちろん、突然職場を首になるリスクもあるアメリカの就職事情。それを羨ましいと思うのか、やばいと思うのかはあなた次第です。

次は、退職から就職への流れについてご紹介したいと思います。


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