地方大学からみたcvpaper.challenge

筆者:相澤宏旭

cvpaper.challenge advent calendar 2021の12/14 担当の相澤宏旭です.今年の3月に岐阜大学 加藤研究室で博士号を取得し,4月から広島大学 栗田研究室で助教をしています.cvpaper.challengeへはM2の春休みくらいときに参加した記憶があり,おそらく今年で5年目になります.cvpaper.challengeでは研究メンバーとして主に画像生成について取り組み,GANを使った新規視点画像生成に関する研究(WACV'21)GANのDisentanglement Learningに関する研究(ICPR'20)の二本を形に残すことができました.このアドベントカレンダーでは,片岡さんからの依頼通り,他の記事と同じく論文化までの裏側を紹介しようと思いましたが,cvpaper.challengeは日本のコンピュータビジョンを盛り上げるというミッションも掲げている割には,参加した時から変わらず,メンバーは関東圏の大学生/院生がほとんどという現状のため,「地方大学からみたcvpaper.challenge」という切り口で私とcvpaper.challengeを振り返ろうと思います.このadvent calenderから,地方大学でcvpaper.challengeに興味があるけど躊躇している学生,地方大学で力を持て余している学生,地方大学で頑張る・頑張りたい学生へ,cvpaper.challengeというコミュニティを知って興味を持ってもらえたら嬉しいです.

振り返りにあたり,地方大学についてネガティブに読み取れる箇所もあるかと思いますがご了承ください.

cvpaper.challengeとの出会いと参加前の印象

cvpaper.challenge参加当時から片岡さんがコンピュータビジョン分野の今を映し、新しいトレンドを創り出すというcvpaper.challengeの理念を実現するために,日本のコンピュータビジョンを盛り上げたいと事あるごとに話していたのを覚えています.この話を初めて聞いたのが,当時,指導教員だった加藤先生にお願いして聴講参加したCVPR2016でのバンケット会場でした.片岡さんとはこのとき初めてお会いし,何も実績のない聴講しているだけの地方の学生に「一緒に論文を読んで研究をしましょう」と声をかけてもらいました.今でも覚えているくらい印象に残っている出来事ですが,ここからすぐに参加したわけではありませんでした.当時からCVPR速報のような形でcvpaper.challengeの存在は知っており,加藤先生からも勧められていましたが,岐阜とつくばの距離(新幹線を利用して3時間以上),関東圏の大学のみで構成されたメンバーからくる疎外感,外部のコミュニティで研究をする自信不足といった理由から参加を躊躇していました.また,当時は一人でも論文をそれなりに読んでるからcvpaper.challengeへ参加しなくても大丈夫というようなことを浅はかながら考えていました[^1].結局,読破チャレンジに参加してみないかというメールを片岡さんから再度いただくまでは自分から参加しようとはしていませんでした.参加前はこのような私でしたが,ここからはこの気持ちがどう変化していったかを書こうと思います.

[^1]: 研究室配属当時(2016年)はSegNetやResNet全盛期のころで深層学習がおもしろく,一人で論文を多読していました.

外部のコミュニティへの参加

大学とcvpaper.challengeの拠点であるつくばの距離が遠いというのは地方に引きこもって一人で研究する最大の言い訳でした.関東圏と比較すると,地方大学の学生にとってこの言い訳は研究活動,勉強会への参加機会,他大学の研究室の交流,就活を阻害するとても大きな障壁です.さらに,外部のコミュニティへ参加するというのは勇気に加えて,お金と時間も必要になってきます.コロナの影響で,距離的な制約は無くなりましたが,それでもやはりオンライン上で知らないコミュニティへ入っていくのは大変です.

そう言う意味では,あくまでも研究メンバーとしてcvpaper.challengeの運営をみると,こういった障壁をできるだけ取り除き,本気で関東圏だけではなく地方も含めて日本のコンピュータビジョンを盛り上げるために,研究活動を活発化する仕組みを作りをしている印象です.例えば,slackやzoomでの進捗共有や議論,読破チャレンジのシステム作りなどで様々な工夫が実験的に取り組まれていたりします(詳しくは,山本さんの記事など).また,AI-SCHOLARさんやResearchPortさんなどのサポート(詳しくは,ResearchPortさんの記事)もあったりと目には見えない改善がたくさんあります.コロナ前の参加当時のcvpaper.challengeのエピソードになってしまいますが,読破チャレンジの論文読み会,研究メンバー同士の月1の全体ミーティング,締め切り前の執筆追い込み合宿,定期的な外部公開の勉強会,MIRU/SSII/ViEWで行われる現地懇親会,年末の研究合宿などの多数のイベントが開催されていました[^2].地方大学という同分野の同年代との交流が少ない場所にいた私にとって,cvpaper.challengeは同じ目標と志を持った同年代の仲間ができる魅力的な環境でした[^3].こういった運営とメンバーの皆さんの優しさのおかげか,今も疎外感なく楽しめています.

[^2]: 詳しくはcvpaper.challengeのリクルートページのスライドをご参照ください.
[^3]: 私は2018年のMIRU若手プログラムに参加しましたがこちらも同年代と知り合える場としてよかったです.

読破チャレンジ

cvpaper.challengeの独自性は「読破チャレンジ」だと思っています.これはCVPR, ICCV, ECCVなど主要コンピュータビジョンの国際会議の論文をすべて読むというチャレンジで,簡単なものではありません.外部から見ていると,最新トレンドのキャッチアップのために論文をたくさん読んで日本語でまとめているだけと思われるかもしれません.実際,M2当時の私はそのような印象を持っており,すべての論文に目を通さなくても関連する研究や興味のある研究だけを自分の力で読めばいいと考えていました.

ですが,論文を読むというだけでもcvpaper.challengeに参加したメリットがありました.読破チャレンジではグループになって論文を読み進めたり,コロナ前は論文紹介のような場があったのですが,参加してみると,読み手によって目の付けどころが違っていたり,論文に書かれていること以上のことを議論していたりと,一人で読んでいるだけでは気づけないことが多くありました.特に,外部の論文読み会が少ない地方からすると,多角的な視点から論文を読むというのは研究室内だけでは非常に難しいです.また単純に量が多いため,論文を紹介し合えるというのはそれだけでメリットです.地方大学で力を持て余している学生にとっては他の所属の研究分野が違う人とも議論できるという点で非常におすすめです.

また,地方大学に限らないかもしれませんがよくある悩みとして,論文を読むモチベーションの維持の難しさがあるかと思います.cvpaper.challenge参加前は,当時所属していた研究室でも月に数十本以上論文を読む同期や先輩は研究室におらず,孤独感を感じつつも論文を読んでいました.また,研究室に配属された当初のことを思い返すと,論文の読み方がわからず,苦労した思い出があります.cvpaper.challengeでは,こういった初めて論文を読む人へのサポートもありますし,読破するという同じ目的をもった方と一緒に論文を読むためモチベーションの維持は容易でした.cvpaper.challengeは特に地方の大学生からすると,研究室内に自発的に論文を読む学生がたくさんいる研究室出身の学生や論文読み会に容易にアクセスできる学生が黙々と論文をまとめているというイメージがあるかもしれません(少なくとも私はそのイメージでした).実際に参加してみるとそんなことはないです.最近の読破チャレンジはノルマもなく気軽に参加できるので,少しでも興味があれば試しに参加してみると良いかもしれません.

論文執筆

cvpaper.challengeのメンバーはインパクトのある研究を目標に問題設定のブレストから論文執筆,そして採択後のアピールまでを考えて研究をしています.私のcvpaper.challengeで行った研究を今思い返すと,締め切り前の辛い時期やリジェクトが続いたりと良くないことばかり思い出しますが,インパクトのある研究を目指してチャレンジした経験は地方大学ではなかなか経験できない貴重なものでした.

私のこれまでを思い返すと,英語でフルペーパーを書くことも,深層学習に関する論文ノウハウがない環境ではかなり大変でした[^4].cvpaper.challengeでは,このような執筆経験がなくてもインパクトのある研究への挑戦を全力でサポートしてくれます.

具体的なエピソードを挙げると,D1のインターンシップで取り組んだ新規視点画像生成の研究では,インターン開始前からテーマの議論,開始後は計算資源の提供から日々の密な議論,執筆を開始してからは図1から提案手法のプロモーションビデオの作成まで至る所の改善のアドバイス,Reviewerのお気持ちの汲み取り方からRebuttalの執筆方法などなど...CVPRの投稿のすべてのノウハウをMicrosoft CMTの使い方すらわかっていない地方の学生の私に親身に共有してもらいました.そのおかげもあり,このときのインターンの期間は3ヶ月ほどでかなり限られた時間でしたが,なんとかCVPR2019へ投稿することができました.地方大学にいると,このようなノウハウの伝授だけでなく,CVPRへ投稿するためのスピード感を感じることすら難しいかと思います.こういった研究のプロセスを身をもって体感できるのはcvpaper.challengeならではです.また,この経験を通して,自分に何が不足しているのかを正確に自覚できたことも良かったです.

もう一つ続きのエピソードを述べると,D2での新規視点画像生成への応用を目指したDisentanglement Learningの研究があります.このテーマはかなり自由に設定させてもらい,主に片岡さんと産総研 佐藤さんとのSkypeミーティングと月一の頻度でcvpaper.challenge全体の現地ミーティングで進めていました.このときは,力量不足を感じたD1の研究から少しでも改善できるよう,テーマの設定から論文投稿まで自分の力で取り組むことを意識して取り組みました.とはいえ,悩んだ時はすぐに相談して,議論してもらっていました.特筆すべきこととして,この年から,cvpaper.challengeでCVPRへ投稿する人が産総研で集まって執筆する合宿が締め切り1,2週間前くらいから開かれるようになりました.地方大学にいると,研究室内にCVPRなどの会議へ挑戦する人が複数いるとは限らないかもしれません.実際に,私も投稿する大変さを共有する人が周りにおらず,なかなか執筆に身が入らなかったことを覚えています.そう言った意味で,こういった執筆合宿は非常に助けになりました.そのおかげもあり,この研究はCVPR2020へ投稿できました.

二本ともCVPRへ投稿することはできましたが,まだまだ力量不足でリジェクト,いくつかの再投稿を経て,最終的にWACVとICPRに採択されました.特に,一本目は片岡さんと研究をした思い入れのある研究だったので採択の難易度に関わらずとても嬉しかったことを覚えています.また二本目の研究についても,(片岡さんからのサポートもありましたが大半を)自分自身の力で取り組めたというのはとても大きな自信になりました.これら二本の経験とメンバーとして5年目になって思うことは,cvpaper.challengeはトップカンファレンスへの採択が第一目標ではなく,その過程の研究プロセスを学ぶことと,議論と研究の楽しさを知ってもらうことに重きを置いているコミュニティであるという印象です.実際に,学んだ経験は,D3時,研究室のM2の後輩と私で論文をICCV2021へ投稿する際に生きました.結果的に,ICCVにはリジェクトされてしまいましたが,片岡さんのサポートなしに,何もなかった地方大学の学生からCVPR/ICCVへの打席に立つことができるようになれたことは採択以上に嬉しい実感でした.とはいえ,まだまだアイデア,クオリティ,計画性という面でも力量不足で,日々頑張っております.

[^4]: cvpaper.challenge参加前の当時M1の私もどのように執筆したらいいかわからず,中部大学の山下先生にサポートしてもらってCVPR2017 Workshopへの投稿に挑戦したことがありました

最後に

自分語りのような文章になってしまいましたが,ここまで読んでいただき,ありがとうございました.大学の研究室以外にも,cvpaper.challengeには熱意のある学生,頑張ろうとする学生が全力で研究に取り組める環境があるということが伝われば嬉しいです.

振り返りにあたり,地方大学についてネガティブに読み取れる箇所もあるかと思いますが,岐阜大学では,加藤先生,山本和彦先生,速水悟先生から研究の楽しさを学び,最大限の議論とサポートをしていただきました.また,cvpaper.challengeでは,特に片岡さんと佐藤さんから,執筆などの技術的なことから,本質的な問題を作ることの大切さ,また議論する楽しさを学びました.そして,広島大学 栗田研に所属してからは,ここからさらに進んで,10年後にも残るような洗練されたアイデアを数学を使って実現できるような研究者を目指し,精進しています.

地方大学で頑張ろうとしている人,地方大学で力を持て余している人,一緒にcvpaper.challengeで研究をしませんか?

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