街の匂い

小さく古びたたばこ屋の前を通った時、
街の匂いがした。
公園の緑の角を曲がる時、胸がちくりとした。
あるはずのない記憶を思い出す。
どこで嗅いだかも忘れた匂いが懐かしく、
例えばそれは子供の頃みたいな感じ。

外に出るとモワッと言う音と共に
夏が来ると感じたり、
コンビニのアイスコーナーで
バニラのアイスよりもソーダのアイスに目がいったり、
そんな些細なことで夏が近づいたと感じる。

汗ばんだ肌に砂がつく。
指と指の間が切れる。
昨日食べたご飯の味とひとりぼっちの音。
蝉が鳴くまで始まらない。暑さが揺れるまで始まらない。
わたしの夏は始まらない。

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