ハーベイ・ウォールバンガー

ハーベイ・ウォールバンガー

空気も湿気を帯び、ムシムシして暑い夜、ここ場末のBAR M&Nでは…

みつがお気に入りのRevolution’sの真夏をピアノで弾き語りしていた。

ねねはというと、猫用のかき氷を目の前にして…

「あっついにゃんねぇ…毛皮にゃんかいらないにゃん!!」
と騒いでいた。

音ちゃんは、そんなねねに、

「じゃあ、何ならアタイがバリカンでトラ刈りにしてあげてもいいぜ!!」

「ひぃー!!同じネコ科でもそれにゃけは勘弁!!せっかくの美貌がぁー!!」

いつものドタバタ劇を展開していると…

チリンチリン♪

誰か来店したようだ。

オーバーオールを着て、大きな眼鏡をかけた子が元気いっぱいに、

「ごめんくださーい!!私、地元紙取材班のアカネっていいます!あー!!素敵なインテリアのBAR!!え?ピアノもあるの!?かっこいい曲弾けるなんて、素敵なマスター!!何もかもおっしゃれー!!」

「何にゃん?あの子?ウルサイにゃんね?」迷惑そうにねねが喋ると、

「えー!?にゃんこが喋ってるー!!写メってもいいですか??ネットにアップしても良いですか??」

「い…良いにゃんけど、肖像権ってもんがあるにゃん。それにアタシは、モデル代高いにゃんよ!!」

「分かりました、1ちゅるちゅるでどうですか?」

「安い!!」

「2ちゅるちゅる!!」
「まだまだ!!」

「3ちゅるちゅるでは!?」

「乗った!!」

「待った!!ちゅるちゅるは、良い子にしていた時、特別に一本だけの約束だったわよね!?」ストップをかけたみつにねねは、

「みつー様!!そんにゃぁー!!ご無体なー!!」その場に泣き崩れるねね

「それにしても、ネットにアップするような立派なお店じゃないと思うけどなぁー?」

みつは、そう呟くと

「そんなことないですよ!!こんな素敵なBARにお客さんが来ないなんてもったいない!!」

「人が多いと、騒がしくて嫌だし、お客さんの人数の分カクテルを作る量も多くなるし、アルバイトを雇うほど人件費はないし、第一、口コミってのが嫌。」不満を漏らすと今度は、

「じゃあ、ネット友達を呼んできますよ!!」

「ヤラセにゃん。」呆れ顔のねね

「じゃあ、どうしろと!?」困惑するアカネ

「私達のペースのままでやらせて。」ふーっと大きくため息をつきながらみつが言う。

「キー!ムカつく!!このお店のクレーム投稿、キャッちゃんねるにカキコしてやるんだから!!」アカネが反論すると、

「やれるもんならやってみろよ!!このアタイがボコボコにしてやんぜ!!」怒鳴りながら握りこぶしを作る音ちゃん。

「ひいっ!!」小さく悲鳴を漏らすアカネ

「まあまあ、音ちゃん、落ち着いて」みつが音ちゃんを制した。そして、みつが言うには、

「アカネちゃん、あなたがしているのは、個人情報保護法違反です。」

「ええー!!なんでー!?」
ねねも言う。

「まず、うちのBARの悪口をネットで流すとするにゃん、そして、うちのBARが潰れたとして、誰がその責任を負うにゃん!?
ねね様のエサ代もちゅるちゅる代も、トイレ代でさえも、このみつが稼いでくれるにゃんよ!?それだけでも、いくらかかると思ってるにゃんよ!?
単純計算で一か月一万円もするにゃんよ!?」

「生き物を飼うっていうのはそういうこと。
病気なんかして動物病院にねねを連れて行ったときなんか、血液検査や、注射や点滴、お薬代だけでで一日一万五千円かかった時もあったし、猫は、腎臓が弱くなりやすいんだけど、膀胱炎で血尿が出たときは、三日連続で2~3本注射打ちに行って、一日一万飛んだり隣町だったから、高速使ったりして、ガソリン代も飛んだわね。」みつも付け加えた。

「ひえ~!!ねねちゃん、大事にされてるのねー!!」驚愕するアカネに

「当ったり前にゃん!!だからねね様は人間の100才まで生きているし、みつのことが大のお気に入りにゃん」

みつに身体を摺り寄せるねね。

「それに、キャッちゃんねるにカキコしたって、マトモな人間に相手なんかされないで、逆に叩かれて潰されて終わりなのは目に見えるわ。」みつはまるで見たことがあるように言う。

「じゃあ、アンチ上等、炎上覚悟でカキコします!!」
鼻息を荒くしてい言い放つアカネにみつは問う

「でもね、アカネちゃん、上には上がいて、ハッカーに逆探知かけられて、あなた自身の個人情報晒されたり、ウイルスにデバイスを汚染されたり、そんなことがきっかけでストーカーに追い回されたりしたら嫌じゃない!?
(作者の勝手な想像です。実際はどうか分かりませんが。良い子の皆さんは、ネットを使うときはウィルスセキュリティーソフトを使ってくださいね。)」

「そしたら、警察呼びますよ!!」
あんまりにアナログな考えにため息をつきながらみつは、

「アカネちゃん、あなた、考えが甘いわね。そんなの無駄よ。この世の中で、あなたの投稿を見ている人たちがどれだけいるか数えたりしたことある?
私のブログもあるんだけど、普段は過疎地で10人アクセスするかしないかの時もあるんだけど、少し変わった記事を書くだけでその数が100を超えててゾッとしたことがあるわ。」

「それにね、私が一番嫌なのはね…」

アカネはごくっと唾を飲み込むと…

「もしもあなたの投稿を見たとして、友達じゃなくても、その他の人達が見て、親切ご丁寧にもあなたの兄弟姉妹に知らせでもする、そして、その人達が、あろうことか親に知らせる!!そしたら、色んな人に迷惑がかかるわよねぇ!?」

「それだけじゃなく…」

「まだあるんですか!?」

「友達だと思っていた人が、愉快犯で、私達のゴタゴタを見て喜んでいるのよ!!
私は、そういうのが大っ嫌い!!あ゛ー!!苛立つわー!!ちくしょー!!!!」

ダン!!バーカウンターを激しく蹴り飛ばすみつ!!

「み…みつ…水飲むにゃんか!?」

更に、うあ゛ー!!うあ゛ー!!と頭を抱えながら叫ぶみつ!!

「落ち着け…みつ…な…な…?薬飲むか?」

普段大人しいみつは、怒りエネルギーを備蓄しすぎていて、怒りスイッチに触れると暴走してしまうのだ。

なので、怒りをコントロールしたくて、怒りを小出しにしたくても、ちょっと怒っただけでも、相当怒ってると勘違いされ、周りから制される始末だった。

「ひっ…ひぃー!!ごめんなさい!!」

みつは、病院から出されている頓服の水薬を飲むと、

「まぁ、分かればよろしい。」

落ち着きを取り戻し、逆立ったねねの毛を撫でながら、

「ごめんねぇ~、ねね、怖かったねぇ~、悪かったねぇ~ちゅるちゅるあげようねぇ~。」

ご機嫌伺いをすると

「ほんとにもう!毎回毎回ビックリするんにゃよ!!」
「音ちゃん、ごめんなさい、迷惑かけました。」

大丈夫だよ!!

「それにしても、あなた、インターネット依存症になっている可能性あるわね。」

「はい…実は私、目立ちたがり屋の淋しい人間なんです。
私の周りには、友達らしい友達はいなくて、ネットにいれば、誰かがかまってくれる、カキコすれば、皆が喜んでくれる。」涙目になりながらアカネは続ける。

「でも、皆にはそれぞれ生活があって…分かってる、分かってるんですが、
それでもかまってちゃんを続けて、知らず知らずに誰かを傷つけていたり、アンチ上等、炎上上等でやってきました。
だから、文句言われても、相手をしてもらえていると思って嬉しかった。
例えアンチでも、戦いあった戦友みたいで、まんざらでもなかったんです。」

そんな様子を見ながらみつはアカネをなだめるように

「残念ですが、そんな薄っぺらい文字だけの世界では、友情は、生まれません。
特に、キャッちゃんねるではね。足の引っ張り合いしかしてないもん。
あなたが傷つくのは、目に見えてるわ。
それに、ネットを介して知り合った友達は、本当の友達にはなれないと思っていて。
なれるのは、ごく少人数だと思って。」

「なぜですか?」アカネはみつに問う。

「あなたが本当に困った時、その場に来てくれる人はいますか?
あなたを心から心配してくれる人はいますか?
もちろん、ネットがすべて悪いとは思いませんが、そこで真実を教えてくれる人はいますか?」

「んー、えーとー…。…いないと思います。」

「だと思った。」見透かしたようにみつが言う。

「それに、ネットで喧嘩になりそうだとか、気に入らない人は、すぐにブロックしましょう。後々面倒になるだけだから。」

ふぅっとため息をつきながら、みつは続ける

「人の生活リズムには、朝起きて、ご飯を食べて、学校や会社に行って、また家に帰ってきて、ご飯を食べて、家族団らんをしてまた寝て一日が始まるんだけど…。
その中にインターネットをする時間があると思うんだけど、別に、身体に害がないくらいなら言うことないんだけど、その時間があまりにも長すぎて、のめりこみすぎると、脳がマヒして、ごはん食べなくてもいいや、お風呂?めんどくさい、徹夜しちゃった、でも、後で寝ればいいや、家から外に出たくない、何だかやる気なくなっちゃった…。
なんてうちに、うつやなんかの精神的疾患にもなりかねないからね!!」

「は…はい…。」病気になるのって怖いなぁと思いながらもアカネは返事をした。

「それじゃ、私はカクテルの準備をするから、そっちでねねと音ちゃんと女子会してて。」

材料…ウォッカ…45㎖
   オレンジジュース…適量
   ガリアーノ…2tsp
スライスオレンジ

作り方…氷を入れたグラスにウォッカを注ぎ、冷えたオレンジジュースで満たして、軽くステアし、最後にガリアーノを浮かべるように入れる、好みでスライスオレンジを飾り…。

ハーベイ・ウォールバンガー15度中口の出来上がり

どうぞ。

ごくっ…

「スクリュードライバーに甘くてスパイシーな香りがするわ…!!」

このカクテルの言葉は、失意、視線を感じて
諸説ありますが、ハーベイという人が酔っぱらって壁に頭をぶちつけたことから付けられた名前。

自分の行動には気を付けましょう!!

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