サムライ

サムライ

ここは場末のBAR M&N

暗雲垂れ込める蝉羽月(6月の薄い着物を着始める月)、

今日も客の入りが少ないこの店では、赤いリボンを首に巻いた看板猫のハチワレ猫、ねねが顔を洗っていた。

みつはそんなねねに、

「ねぇねぇ、ねねったら、顔なんか洗わないでよ、こんなに曇って雨も降ってるのに、更に強く雨が降っちゃうじゃない。」と、いぶかしげに言うと、ねねは

「しょうがないじゃない、こうしなきゃ落ち着かないんだから、猫の性よ。」

猫のねねが喋っても、物怖じせずみつは、

「こうなりゃもうヤケだわ、あめあめふれふれ~♪」と歌っていた。

と、チリンチリン♪小気味よくカウベルが鳴り、
お客が入ったようだ。

ずぶ濡れのサラリーマン風の男ソウタが来店した。

ソウタが何だかがっかりしているように見えて、ねねが、

「にゃによ、どうしたの?ねね様に教えて?」

そんなねねにソウタは、

『んん??しゃべる猫?面白いな?』と思いながら、寂しそうな顔をして

「やあ、ねね様、俺はソウタ。近くの会社で社員をやってるんだけど、今夜も合コンに頑張って参加したんだけど、残念ながら僕には花の精はなびかなかったらしい。」

ぼそぼそ喋るソウタ。
どうやらソウタは、合コンで女性に振られたらしい。
ソウタは、ソウタで、大和撫子のような綺麗でおとなしくて従順無垢な子が好みだったが、合コンでは、キャッキャキャッキャ騒いでは男を手玉に取りそうな雰囲気かつ、三高の男を餌食にしそうなタイプの女ばかりだった。

「今の子たちって、皆あぁなんですかねぇ?」期待はずれな女子しかこの世にはいないのか?と心の中で自問自答するソウタに

「女性のことを花の精って例えるあたり、カッコつけて失敗するようなタイプにゃんね~、もっと気取らなくてもいい相手を探したら?例えば、友達の紹介とかでにゃ。」
あくびをしながら、ねねはのんびりそう言った。

「ありがとう、ねね様、みつさん、何か勇気が出るようなやつを一杯くれ。」

みつは考えた。
大和魂を揺さぶるような名前のカクテルのことを。

「そうですねぇ、こんなのはいかがですか?」みつは、カクテルの準備をしだす。

材料…日本酒…40㎖
   ライムジュース…20㎖
   レモンジュース…1tsp

作り方…材料をミキシンググラスに注いで、ステアしてカクテルグラスに注ぐ。

サムライ10度中辛口の出来上がり

「元気を出してまたこれで頑張ってくださいね、どうぞ」
とみつはソウタの前にカクテルを微笑みながらやさしく差し出す。

ソウタはそれをグーっと飲み干すと

「くーっ!!こいつぁ効くねぇ!!キリっとしてサッパリする!!また頑張るよ、みつさん、ねね様!!」
と元気よく言い、BARを去っていった。

チリンチリン♪また小気味いいカウベルの音。

そんなソウタの背中を見ながらねねは

フンスと余裕しゃくしゃくの鼻息を出しながら、
「人間は大変にゃねー、猫になれば、メスはモテモテにゃん。」と言えば、皮肉ぽっくみつが、

「モテても困ることはあるんじゃないの~?」と言うと、ねねは

「それもそうにゃねー?」
とまた、余裕しゃくしゃくの表情。

どうやらねねは猫界ではモテるらしい。

サムライのカクテル言葉は、『あなたを守る』ですが、ソウタ君にも守るべき相手が見つかるといいですね

チリンチリン♪

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