太陽神像キングバック 第2話「今、害する者への滅をここに」

「行け」

遺跡から出現した神像は僕の言葉と共に動き始める。
大きく踏み込んだ一歩で僕を跨ぐ。振動で地面が大きく揺れる。

ゆっくりとした動きで神像は歩く。
すると、敵である砂の国の巨人の1体が神像に気が付く。

敵は槍を構えると警戒しながら神像に近づいてくる。
神像側もゆっくりと近づいて行き、槍が届くほどの距離になったとき、敵は槍を突き立てた。

ガキンっとぶつかり合う衝突音が鳴り響く。
しかし、神像はそれでもゆっくりと前に進む。

そう、槍の刺突はまるで効果がなかったのだ。

驚いた様子の敵は焦った動きで何度も神像に槍を突き立てるも、神像の動きを止めることは叶わない。

それどころか槍が刃の根元から折れてしまった。

まるで人のように動揺する敵の前に神像はそびえ立つ。

神像の高さは10mほど、敵と比べても1mも大きくない。しかし、初めて見る異質な存在に畏怖した敵は身を縮こませてしまったため、神像が見下ろす形となっている。

「やれ」

僕の言葉で神像は拳を下から振り上げて、敵の腹を殴る。
めり込んだ拳をそのまま殴り抜き、敵を前へ吹っ飛ばす。

敵は大きく宙を舞い、町の外へと落ちる。

開口一番、誰しもが目撃するほど派手に倒した。
これに気が付かないほど敵はバカではないだろう。しかし、これでいい。
これ以上、町を襲わせるわけにはいかない。

集まれ、ここを狙いに来い。

「はあはあ」
そこで治は膝を着き、息を荒立てる。

「石神君! 大丈夫⁉」
ステラが僕に駆け寄る。

「大丈夫、大丈夫、もう少しだから」

身体から凄い勢いで力が吸われていくのを感じる。
しかし心の中では冷静で、今自分が持ち得る全てを持って、出来ることを成す。
その最適解のようなものが息をするように、溢れ出てきて、それが神像に注がれる。

これはきっとそういうものなのだ。

意志の投影。
願望の実現。

今、害する者への滅をここに。

続々と集まった砂の国の巨人たちは徒党を組んで神像の前へと現れる。

分散せずに一ヶ所に集まる奴らはまるで、個として弱くとも、多として強いことを、自身の一力と勘違いした脆弱な人間たちのようであった。

「はあはあ、うまい具合に群れやがった。だが、これでいい」
息の上がる僕の顔には自然とニヤケが生まれていた。

「太陽の力を得てして放て!」

僕の言葉で神像は右手を掲げる。
すると、遥か上空から一筋の光が神像の手に落ちて来る。

光のエネルギーは神像の右手に集まり留まる。
そして、神像はその右手を敵たちに向ける。

「太陽の伊吹(サン・ブレス)!」

神像の右手から集められた光のエネルギーを一斉放射する。
放たれた太陽の伊吹が群れた敵たちに当たった直後、爆発を起こし、敵を蹴散らす。

爆発の後、立ち上がる者はいない。敵は排除に成功したのだろう。

だが、その時とてつもない脱力感に襲われる。

「……」

立つことなど出来なくなり、倒れそうになる僕をステラは受け止める。

「石神君、石神君!」

僕に必死に声を掛けるステラを見ながら、どうしようもない安心感を抱いて僕は意識を手放した。

■病室

僕は目を開ける。
見慣れない天井、ぼーっとしているうちに記憶が鮮明になってくる。

「敵が攻めてきて!」

僕が勢いよく起き上がると、寝ていたベッドにステラが伏せて眠っている。

「……あの後、何があったか知らないけど。君が無事で良かった」

今、この場でステラの安否が確認出来たのは良かった。

どれくらい寝ていたのだろうか?
その間もステラは僕を看ていてくれたんだろう。今、動いて起こしては悪いな。

部屋を見渡す。特にこれと言って目新しいところはない。
ふと気になって窓から外を見る。

そこからは広場のようなが見え、そこにはひと際目立つものが鎮座していた。
それは遺跡の中心にいたはずの神像だ。

「なんであんなところに……」

ボーっとしていたが、次第に記憶が掘り起こされている。

「いや、あれは僕が動かした」
頭を押さえて考え込む。
しかし、動かしたことは覚えていても、動かした方法が思い出せない。

「石神君?」

僕が動揺していると、ステラが目を覚ます。

「……ステラ」
「よかった、もう目を覚まさないかと」
ステラはそう言って、目に涙を浮かべる。

「ありがとう」

なぜか、その言葉が自然と口から出てきた。
こんな僕を心配してくれる。そんな優しい君は、守らなければいけない。
そのためなら、次も神像をも動かして見せる。

そう心に決めてステラに微笑みかけた。

■外

医者によれば体に異常はないようで、ステラと共に外に出る。

街はひどい有様で焼け残った家屋、あらゆる建造物が倒壊している。
そして神像が居座る広場にやってくる。

「(あの時は夢中で分からなかったがここは広場だったのか、民家に攻撃が当たらなくて良かった)」

神像を見上げる。
神像は片膝を着けて動かない。

「神像様を動かしたのは石神君なんだよね?」
ステラは心配したような表情で聞いて来る。

「ああ、そうだよ。実感はまだないけれど」
「そ、そうなんだ……」
ステラは少し複雑そうな表情だ。

「それがどうしたのか?」
素直に疑問をぶつける。

「石神君、今なら間に合う。今、この国を出れば、君は戦争に関わる必要はないよ」
「?」
神妙な顔でそう言うステラに対して僕はそれがどういう意味なのか分からなかった。

そんな僕にステラは詰め寄り、服の袖を引っ張る。

「まだ! みんなは気が付いてない、でももしあなたが神像を動かすと知れたらあなたはきっと戦わされることになる。だからっ!」

必死に訴えかけるステラに僕はあることを感じる。
ステラは優しいんだと、僕が戦いの道具として利用されることを危惧している。

「いいよ、僕なら」
「え?」

「僕を利用してみんなが助かるのならそれでいい」
僕はステラの抱く罪悪感を緩和すべく振舞う。

「……違う、違うよ」
ステラは拳を握ってプルプルしている。

「ステラ?」
「この国には戦える人はいない! 君一人いても結果(敗戦)は変わらない。君はこの国の人じゃない、戦う必要がないよ」
今のステラには感情がこもっている。

「……わかった、戦わない。でも僕にはいく場所なんてないんだ」
石神はステラから目を逸らしてそう言った。

「そうだよね、石神君も不安なのに、こんなこと言ってごめんなさい」
ステラは深く頭を下げる。

「謝ることなんてない、僕のためを思っての言葉だろ?」
「うん。私は君の味方だから」
覚悟を決めた顔で僕の手を握った。

「君は優しいな」
僕は思わずそう言った。

すると、ステラは僕の手を握る手を放して背を向けてしまう。

「そんなことないよ」
ステラの声色はとても冷たく、決して踏み込めない一線のように感じた。

その時だった。

「出てこい! こいつを動かした奴だ!」

声の方を向くと、三人組の男たちが神像にもたれかかっていた。

「誰だ、あいつらは?」
男たちは素肌を隠すようにローブのような服を身にまとっていた。

「……あの服装、土の国の連中だわ」
ステラの顔が歪む。

「この間攻めてきた連中か」
僕は連中を睨む。
その時、ステラは僕の腕を強く握る。

「ダメだよ」
ステラは心配した顔でこちらを見ている。

「……分かってる」
僕たちは気づかれないように小さい声で会話をしているうちに、辺りが騒がしくなってくる。異変に気が付いた住民たちがぞろぞろと出てきたからだ。

「出てこい! それともここでこいつを破壊してもいいんだぞ!」

男の一人が輪っかのアクセサリーが付いた髪飾りを宙に投げる。
すると、髪飾りが砕け散り、以前街を襲撃してきた砂の巨人が現れる。

砂の巨人は神像に向けて手斧を振り上げる。
「十秒だ。それで出てこないなら、像を破壊し、街もつぶすぞ!」

周りは騒然としている。
ステラは僕の腕に強くしがみつく。

十秒、経った。

「そうか、ならやれ!」
砂の巨人は手斧を振り下ろそうとする、その時だった。

「そこまでだ!」
「⁉」

隣にいた10歳くらいの少年が声を荒げる。

砂の巨人は動きを止める。

「おいらだ! おいらが神像様を動かした!」
「ノール!」
周りの大人たちはノールと言われる少年を止めようするが、前に飛び出る。

「お前か?」
土の国の連中はノールを睨む。

「そうだ! だから、おいらがいなくなれば神像も街も壊す必要はないはずだ!」
ノールは恐怖で震えながらも訴える。

「そうだな、お前が死ねばわざわざ壊す必要もないなぁ」
男たちはニヤリと笑っている。

「ノール……」
ステラの知り合いでもあるようで震えている。

僕はなにをしているんだ。

目の前の少年が勇気を振り絞っているというのに、なんだこの様は?

目が熱い。

治の目が黒から虹色へと変化していく。

なんだ?

思考が流れ込んでくる。

あの少年の思考が流れ込んでくる。

「(今まで神像様に守ってもらったんだ! 今度は僕が守る番だ!)」

そして、土の国の連中の思考も流れ込んでくる。

「(このガキの真偽はともかく、破壊だ。略奪こそ、戦争の醍醐味だよなぁ)」

「処刑だ! やっちまえ!」

砂の巨人は少年に向けて斧を振り下ろす。

「守れ!」

ガキンと鈍い音が鳴る。
その時、動いた神像は背中で砂の巨人の手斧から少年を守った。

「あ、動いてる」
ノールは涙目で腰を抜かしており、その前に既に治が立っている。

「ごめん、ステラ。僕は自分にしかなれないようだ」

「ごめんなさい、ありがとう」
複雑な表情をしてステラはノールの元に駆け寄って来る。

「やっぱそのガキは偽物。そしてお前をやれば俺たちは大出世だぜぇ。いくぞ!」
残りの二人も同じ髪飾りを宙に投げる。そして砂の巨人が現れ、それぞれ剣、チェーン付きハンマーを持っている。

「こっちはキングバックが三体もいるんだ、なぶり殺しにしてやる」

砂の巨人はゆっくりとにじり寄ってくる。神像はそれにゆったりとした様子で対面する。

「ステラ、その子は連れて離れててくれ、すぐ終わらせる」

そう言って治はしっかりと戦う敵を見る。

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