太陽神像キングバック 第３話「選ばれた存在」
「今度こそかち割ってやる！」
砂の巨人は神像に向けて手斧を振り下ろす。
ガキンと鈍い音が鳴る。
手斧が神像の左肩に直撃する。しかし、神像も傷一つ付いていない。
神像はすかさず左手で砂の巨人の手斧を握る右手を掴む。
「は、放せ！」
「やれ」
治の静かな命令で神像は右手刀を砂の巨人の左肩に叩き込む。
神像の手刀は砂の巨人の胸辺りまでめり込む。
「う、嘘だろ」
土の国の一人が泡を吹いて倒れる。それと同時に手刀をくらわせた砂の巨人はその場に崩れる。
「畳みかける！」
今度は剣を持ったタイプが斬りつけてくる。
その時、治の目が一瞬光る。
「躱せ」
神像は倒した砂の巨人から手斧を奪い、そしてそのまま体をよじって剣の一撃を避ける。
「避けただと！」
神像の動きは決して速いと言えない。
だが、まるで剣の攻撃する場所が分かっているかのような動きで回避している。
それもそのはず、今の治は敵の思考が目を通して流れ込んでいる。
常に一歩先を見ている治の操る神像に攻撃は当たらない。
剣の攻撃を避けながら、接近した神像はそのまま手斧を振り下ろして剣を持った砂の巨人を縦に両断した。
そしてもう一人、土の国の男が泡を吹いて倒れる。
「残り一体」
治は残った一人の顔を見る。
「く、来るなぁ！」
すっかり怯えた表情を浮かべた男は後ずさりをしている。
残った砂の巨人はチェーンを頭上で回転させる。
「こ、こんなはずじゃ、あ、当たれぇ！」
回転したチェーンを放す。そしてチェーンの先に付いたトゲトゲの球体は神像の頭部へ飛んでいく。
しかし、神像は首を傾けてこれをあっさりと避ける。それどころか、空振ったチェーンを掴む。
「あ、ああ」
「終わりだ」
そのまま神像はチェーンを持った砂の巨人に向けて手斧を投げる。
投げた手斧は砂の巨人の頭部に直撃し、巨人は膝を着いたのちその場に崩れ落ちる。
同時に残りの一人も泡を吹いて倒れた。
「終わった。はあはあ」
それまで冷静で汗一つかかなかった治は急に息切れを起こし、額に汗を浮かべる。
「だ、大丈夫⁉」
ステラが駆けつけてくる。
「あ、ああ、大丈夫。このくらい……」
治は目元を押さえて、ふらつく。それをステラが受け止める。
「石神君！ 早く神像様とのリンクを切って！ このままじゃ体力を吸われ続ける！」
「リンク？ 切る？」
治は分かっていないような表情を浮かべる。
「（そうか！ キングバックは髪飾りを介して収納、展開をする。でも、石神君には神像様との契約の髪飾りはない）」
「ステラ、ごめん」
その言葉を最後に治は糸が切れたように意識を失う。
「石神君！ 石神君！」
ステラが揺さぶるが治はぐったりとしている。そしてステラは神像を見るが、神像の目は光を失い、その場に座り込む。
「（繋いだら繋ぎっぱなし、神像様は一度動かせば、石神君の力が尽きるまで止まらない）」
ステラは治を抱きかかえながら深刻な顔を浮かべる。
■路地
「話のとおりだな、部下たちのフラットでは相手にならないか」
「部下の仇は討たねえとなあ、ルイン？」
冷静そうな青髪の青年と眉間にしわを寄せる金髪の青年が少し離れた路地から事の全てを見ていた。
「焦るなコルト。キングバックが破壊された程度では操者は死なない。まだ神像の力が未知数な今、迂闊な行動は避けろ」
「そうだな！ もうあいつらどうでもいいわ！」
「……はあ、だからお前と組みたくなかったんだ」
青髪の青年ルインは大きくため息をつく。
「そう言うなって、俺に着いて来れるのはお前くらいだからよぉ」
「お前に合わせられるのが私くらいなだけだ！」
「そうかもなぁ、でも、今チャンスじゃねえか？」
金髪の青年コルトは目を細めてステラたちを指差す。
「おそらく今ぶっ倒れた奴が神像の操者だ。未熟なのか知らんが今、絶対に神像は動かん」
「……（こいつ、妙なとこ鋭いな）」
「どうするよ？」
「そもそもあれは異例種だ。普通キングバックは一人の人間に一体契約される。そしてどんな姿、武器をもつかは操者によって変わる。だが、神像はどうだ？ 既に現存するものに契約をしている。ならば、操者が一人とは限らないかもしれない」
「そんなのあいつぶっ殺してからでよくない？」
コルトは呆れた表情を浮かべる。
「俺たちの目的はあくまで神像の奪取だ。起動方法も知らないまま持って帰っても意味ないだろ？（それに、俺自身の目的のためにももう少し情報が欲しい）」
ルインは顔をしかめる。
「相変わらず回りくどいなぁ、持って帰ってからでもいいだろぉ」
コルトは少しイライラした様子になってきている。
「あのなぁ」
「よし！ こんなときは読唇術だ！」
コルトは閃いたと言わんばかりの様子だ。
「おい！ それだけはやめろと……」
ルインが止めようとしたときには既に遅く、コルトは目を瞑り、耳を傾け頷き始める。
「うん、うんうん、「お前たち土の国の雑魚どもなんて何人かかって来ても一緒だぁ、それともビビッてちびりながら帰ってママのおっぱいでも堪能してろぉ」……だとぉ！」
コルトは高い声で勝手に治のアフレコをしたのち、激昂する。
「いや、言ってない言ってない。あいつ気絶してるし」
「うるせえ！ こんなに馬鹿にされて何もしないとは土の国の戦士に恥じる行いだぁ！ ルイン、いくぞ！」
そう言うとコルトは治たちの元に走り出す。
「あーもう！ なんなんだあいつ！」
ルインは怒りを露わにしながら、コルトの後を追う。
寝息を立てる治を支えているステラの前に助走をつけてジャンプしてきたコルトが現れる。
「よぉ姉ちゃん。そこの寝坊助と話があんだけどいいかなぁ？」
「あ、新手⁉」
明らかに自国の人間ではない人物の到来にステラは身構えてより強く治を抱える。
「女の子に抱きしめてもらっていい身分だなぁ。あー腹立ってきた」
そう言ってコルトは後ろの髪を止めていた髪飾りを外す。
「待て、少し落ち着け」
すると、追いついて来たルインがコルトの肩を掴む。
「（もう一人⁉）」
ステラは顔を歪ませる。
「君、悪いことは言わない。その彼を我々に引き渡してはくれないだろうか？」
「……彼をどうするんですか？」
「煮るなり焼くなり、まあ無事じゃあ済まねえなぁ、かっかっか」
「お前は黙っていろ！ 君、今気にするは自分の身だと思わないか？」
「何を偉そうに……」
ステラは少し俯いてそう呟いた。
「何？」
「侵略者風情が、ベラベラと自分の都合を喋ってんじゃないわ！ 私たちの国から出て行きなさい！ さもなくば殺す！」
すると、これまでのステラの様子とは打って変わって、明確な殺意を帯びた鋭い目つきで二人を睨む。
「ぎゃはは、なんだコイツ面白ぇじゃん！ 殺してみろよ！ いけサンドレイク！」
コルトは手にした髪飾りと宙に投げる。すると、そこから西部劇のガンマンのような見た目で両手にリボルバー銃を持った９ｍはある巨人が現れる。
「やめろ！」
「うっせえルイン。二人まとめてぶっ飛ばしてやるよぉ」
そう言うとコルトのサンドレイクはリボルバーをステラたちに向ける。
「やめるんだ、コルト！」
「人間スッキリさせて生きるのが大事だろう？ こいつら撃たねえとスッキリしねえ」
「本当に、やめるんだ」
ルインは焦ったような口調でコルトを止める。
「さっきからなんだよ、ルイ……⁉」
その時、コルトとルインの間に青い紫陽花の模様が入った甲冑と和風の袖と袴を着た人型のような何かが左右に手にした剣でそれぞれの首元を捉えていた。
「小型タイプ……お前、いつの間に」
コルトは目を大きく開けてステラを見る。
「少しでも動けば首を刎ねますよ」
ステラの声色はひどく冷たく、コルトとルインの二人を凍てつかせる。
「どうやら、俺たちの負けらしい。サンドレイクを引っ込めろ」
「……ああ、分かった。この女相手に早さ勝負なんて仕掛ける気がしねえな。この状況で瞬き一つしない。大した玉だ」
そう言うと、サンドレイクは粉々に砕け散り、髪飾りの姿に戻る。
「両手を上げてゆっくりと後ろに下がりなさい」
ステラの言葉の通り、二人は手を上げてゆっくりと下がる。
「神像よりもいいもんに出会えたぜ。じゃあな」
コルトはそう言うと街の外へ向けて走り出し、ルインもその後を追って行った。
二人が見えなくなったところで、剣を手にした人型は砕け散り、集まった破片は紫陽花の髪飾りへと変化する。
ステラはその髪飾りを拾うと髪に付けることなく懐にしまう。
「また、あなたに助けられちゃったわね」
ステラは複雑そうな顔をする。
「もう行かなくちゃ」
ステラは治に肩を回してゆっくりと歩き始める。
■過去、暗く湿気のある部屋
部屋の片隅で縮こまっている少女を男は責めるように見下ろす。
「ステラ立て、訓練の時間だぞ」
「お父さん。もう無理だよ」
パンッと叩く音が鳴る。
「何を言っているんだ！ お前は選ばれた存在なんだ、それが分からないのか！」
男は少女の胸ぐらを掴む。
「う、うぅ、私には出来ないです。戦えない……」
「何故わからないんだ！ 力を持つ者が戦わなくて誰が戦うというんだ！ 戦え！ 母さんの仇を、敵を殺せ！」
男は少女を強く揺さぶる。その時、男の背後には甲冑の人型が剣を振り上げていた。
■病室
「う、お父さん……」
ベットで寝る治の傍で布団に伏して寝ていたステラは涙を流す。
ステラは目を覚ますと酷い顔で涙を拭う。
治は倒れて丸二日寝込んでいる。
その時、病室の扉が開く。ステラはビクッとした様子で扉の方を見る。
「そう身構えるなよ、私だ」
けだるげな表情の白衣を着た女性が入って来る。
「リュグレ先生……」
「心配かい？」
疲れた顔のステラの隣にリュグレは座る。
「はい……」
「彼に自分重ね合わせているね」
「……私はどうすればいいのでしょうか？」
「さあ？ でも人間自分以外の何者にもなれない、だから彼なりの答えを認めてあげればいいんじゃないかな？」
ステラはじっと治の寝顔を見る。
「私とは違う、か」
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