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   裸の王様


むかし むかし ある国に、威厳のある立派な王さまがいました。
王さまは、めったに笑うことがありません。
いつも怖そうな顔をしているので、皆から恐れられています。
しかし、王さまのおかげで国は豊かで、国民は幸せに暮らしています。
そんな王さまですが、困ったことがありました。
王さまはとてもおしゃれで、誰よりも目立つ、豪華な服でなければ着ないのです。
そのため家来たちは、国じゅうをまわって、腕のよい服の仕立て屋を、探さなければなりません。

実は王さまは、自分に自信が持てないので、
豪華な服を着て、立派な王さまのフリをしているのです。
王さまにとって服は、自分を守る鎧のようなものなのです。

ある日、となりの国から、腕の良い服の仕立て屋を名乗る、二人の男がやってきました。
「王さま、世界でいちばん美しい布を持ってきました」
一人の男が自信たっぷりに言いました。
「ほんとうか、はやく見せなさい!」
王さまは、身を乗り出して、言いました。
すると、何やらゴソゴソと、カバンから取り出しました。
しかし、手には何も持っていません。
「王さま、これがその布でございます」
男たちは、王さまの前で、布を広げるフリをしました。
「この布は、心の醜い人間には見えない、不思議な布でございます」
男たちは、平然とした顔で、言い放ったのです。
王さまと家来たちは、何も見えないのに、見えないとは、言えなくなってしまいました。
心が醜いと、思われたくないからです。
本当は弱くて臆病な王さまは、仕方なく男たちにたくさんお金を払い、言うとうりに服を作ることにしました。

数日がたち、男たちが服を持ってきて、王さまに見えない服を着せ、大げさに褒めたたえました。
「素晴らしくお似合いです」「どこから見ても、世界一の王さまです」
王さまは、男たちにおだてられ、有頂天です。
そして、とんでもない事を、言い出したのです。
「これから街に行き、パレードをする」
家来たちは、男たちがウソをついていると気づいていたので、とてもあわてます。
しかし、王さまの命令には、従うしかありません。

見えない服を着た王さまは、大勢の衛兵や家来を引きつれて、街にやってきました。

王さまのパレードは、それは華やかで、街じゅうの家から人々が集まって来ました。
ところが、王さまが裸で歩いているので、皆んなとても驚き声も出ません。
し〜んと静まり返った中、とつぜん一人の子供が叫びました。
「王さまは裸だ!」「裸の王さまだ!」
その場にいる大人たちは、王さまが怒りだすのではないかと、ビクビクしています。
王さまは、子供の声に気づいていましたが、胸を張って堂々と歩きつづけました。
すると、近くにいた子供たちも、いっせいに叫びます。
「裸の王さま!」「裸の王さま!」
もう誰にも止められません。
それどころか、笑いをこらえていた大人たちも、いっせいに笑いだしたのです。
これにはさすがの王さまも、恥ずかしくなって、逃げ出してしまいました。

お城に逃げ帰った王さまは、部屋に閉じこもってしまいました。
本当は弱くて臆病な王さまは、すっかり自信を無くしてしまったのです。
そして、弱くて臆病な王さまは、鎧を脱ぎ捨てました。

     おしまい

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