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【超短編小説】5年ぶりの帰郷

 忙しかった。
 それが言い訳にならない事はわかっているけれど、5年実家に帰らないというのは自分でも薄情すぎたと思う。

 仲が悪いわけではない。ましてや憎いわけでも、忘れたわけでもない。
 ただ忙しくて忙しくて、5年である。
 海外を飛び回る仕事をしていたのもあった。
 でもそれらは全て言い訳だ。
 帰ろうと思えば帰れた。
 だから言い訳だ。

 ようやく帰ってきた故郷は、ずいぶんと変わってしまっていた。
 もともと田舎だったけれど、それでもあったデパートのたぐいがなくなっていた。
 もう車で小一時間走らねば買い物もできない。

 実家の家も古びてしまっていた。
 チャイムを鳴らすとでてきたのは、5年順当に歳をとった母だった。

「あらあ。よく帰ってきたわねえ。もう戻ってこないかと思ったじゃない」
 そう言う母に、
「連絡はいつも入れてただろ? 忙しかったんだよ」
 と照れ隠し半分の強がりを言う。
 家に入る。いつもと同じ場所に陣取っていた父が、
「よう!」
 と声をかけてくる。
 これまた5年の月日を感じさせる。髪がまえより白くなり、後退している。
「親父、歳とったなあ」
「お前もだぞ。みんな変わっていく」
 変わっていく。その言葉が胸にずしりとくる。

 母が、
 「あなたの部屋そのままにしてあるから、荷物置いてきなさい」
 そう言う。うなずいて5年ぶりの自室へと足を踏み入れる。
「本当だ。変わってねえや」
 家具の配置も、行き届いた掃除も、5年前のまま。
 それは妙に俺を安心させた。

 荷物を置いて両親のもとに戻る。
 そこで笑っている両親は歳こそとったが、昔と変わらず見えた。
「いろいろ変わっちまうものもあるけど、やっぱり親父たちは変わらないじゃんか」
 親父が、
「なんだそれは! 俺たちが成長してねえって事か?」
 そう怒ってみせるが、本気でないことはわかる。
「退化してるとか言われなくて、よかったじゃないですか」
 母が笑って言う。
「それもそうか」
 親父も母の言葉に笑う。

・・・帰ってきてよかったな。
「こんどはさ・・・」
 もっと早く帰るよ。そうつぶやいた後半は両親には聞こえなかっただろう。

「え?」
 二人が聞き返す。
「なんでもねえ! 腹減った。飯食べたい」
 そう言って5年前の席に座り込んだ。

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