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春爛漫 ㊾

北国の桜はGWの頃になる。

桜と言えば花見をした思い出は何度もあるが、その時の主役は酒であり、料理であり、友たちであり、花なんてほとんど見ちゃいない。

大抵、カセットコンロを持って行き、焼肉やら小籠包など食べる。野外で食すと何でも美味く感じるものである。


私の家から中学校は遠くて、歩いて4、50分くらいの距離があった。遠いので、少しでもショートカットする為に、いつも城跡の中を抜けて通った。

そんな通学路に、いつ頃か同行する友が出来た、同じ歳のS君である。

彼は学年でもトップクラスの秀才であったが、運動は大の苦手。

顔も特徴があって、ちょっと怪異、分かり易く表現するならゴリラのようなご面相なのであった。そのせいか、極端な人見知りで、内向的で、表情がとても暗かった。

そういうSに、何故か私は興味を持って近づいて話しかけていた(3年間ずっと違うクラスだった)。S君は立派な家に住んでいて、お父さんは画家なのであった。もしかすると画家という職業に憧れがあったからかも知れない。

S君からは拒否される事もなく、そのまま中学卒業まで毎日同行した。学校までの通り道だったので、毎朝彼の家まで迎えに行った。

もちろん、道中色んな話をした。S君は、最初の頃は無口で聞き役だったが、少しづつ打ち解けて、何でも話すようになった。けれどあくまでもはしゃぐ事はなく、地味で静かな男だった。噛めば噛むほど味の出る、そんなタイプの人だった。

2人で通り抜けた城跡は、公園になっており、何千、何万という程の桜が植えられていた。

だから、春になるとその桜が芽をつける頃から、1部咲、2部咲きと、だんだんと華やいで行き、満開になって、やがては散って行く様を、眺める事が出来たのである。

花見とは、このくらい時間をかけてやるものなのかも知れない。

この頃、ちょうどテレビアニメの『赤毛のアン』が放送されていた。高畑勲の素晴らしい名作だ。

あのオープニングの「きこえるかしら」では、馬車の御者となったアンが、どこまでも続く野原を駆け抜け、やがて森に入り、桜らしき花の中を進む、


森は、次には枯葉が雨の様に降り注ぎ、そして荘厳な冬、吹雪の景色へと変わるのだ。カナダの大自然の風景を活写したものだが、

私とS君が、あの頃2人で観ていた風景は、正に『赤毛のアン』そのままであった、いや、あのオープニングと比べても、勝るとも劣らないほど美しい世界を歩いていたのだ。なんと贅沢な通学路であった事か。

中学までの道程は長かったが、少しも苦には感じなかった。

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