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星野アイと藤山寛美 ㉚

『推しの子』がこうも人気になった理由は幾つもあると思われるが、やはりその中核となるのは、星野アイの性格の複雑さではないかと私は思う。

絶対的に可愛いアイドルなのに、なにか闇を抱えていそうだ。

黒川あかねがアイをプロファイリングするシーンは印象に残るが、

>「承認欲求 満たされている」「発達障害の傾向」
「思春期の段階で性交渉があった子特有のバランスの悪さ」
「友人関係 薄そう?友達 なかった?」
「異性関係は何かある」「家庭環境は劣悪」
「結婚願望はない」

などなど・・・大ヒットした主題歌『アイドル』にしても、
これは言うまでもなく一般化したアイドルを歌っている訳ではなく、言ってみれば『星野アイのテーマ』と改題しても良いくらいにアイの事を歌っているのであり、

煌びやかな嘘で飾ったアイの作り出す不思議な魅力ある世界と、

その内面から響いて来そうな、無意識のような、転調の部分であろう。

はいはいあの子は特別です から先の部分の不気味さだ。(『アイドル』

アイは全ての夢を手に入れようとする目前で、失敗し、崩れさる。けれど、一番欲しかった「愛」だけは、やっと手にすることが出来たのだ。


さて、藤山寛美だが、

彼も喜劇王、名優、日本で1番客を呼べる役者など名声を手に入れ、派手に金をばら撒いた。アホと呼ばれるくらいの浪費をして愛されていたが、

家庭での暮らしはいたって質素であり、家族からは相手にしてもらえなかった。

まあ、家にはあまり金を入れなかったし、家で暮らすのも限られていたから、冷たくされても文句は言えない。冗談を言っても「どこが面白いねん」とあしらわれていたようだ。

昨日の記事には
>騙されたりして借金が当時の金で1億8千万円

と、書いてしまったが、今日図書館で調べてみると、実際にはそんなものではなかったようだ。盟友桂米朝との最後の対談で寛美自らが吐露していた。

寛美  いや、まあここできょう初めて言いますけども、これは「ほんまの話しましょう」というのやから言いまっせ。あれから私についてたマネージャーがね、えらいことしましてな、18億いかれたんです。これ初めてきょうこの電波に乗せて言うんです。
米朝  へえ。
寛美  ところがね、役者、50過ぎてからまた騙されたら人に笑われますわ。しかしながら、私がじーっときいたのはね、演舞場の三日目だ。最後に「何ぼやね」と言うたら、初め7億言うたんだ。それから9億言うた。11億言うてた。12億言うてた。ほんまにしまいに「どうやねん」と言うたら、18億になった。その時に東急ホテルの、忘れもしません、101号室で。18億の殴り方っておまっか。わし、誰かに聞きたかったな。殴れないし、殴ったら暴力で訴えられまっしゃろ。
米朝  また殴ったって、18億殴ろうと思うたら、こっちの手がもたん。
寛美  ところが、それも別にその男が子供や女に車やなんかを買うたと言いまんねけど、私は、おかしいななと。それからずっとうちの嫁はんが皆行った。そしたら、「おたくのマネージャーさんのおかげで、うちの子供を学校へやって、嫁にやれました」いうところが何軒もでてきた。後で調べたら金利だけで3億、4億払うとりまんのや。

『一芸一談』 桂米朝  ちくま文庫

これは1990年3月26日に中座の楽屋で収録された対談で、寛美は同年の5月21日に60歳で肝硬変のため死去しているのだ。

寛美の借金は、19年かけて返済された事になっている筈だが、対談の先を読むと、どうやらこの時点でもまだ少し残っていたようである。

嘘吐きの星野アイの闇と、アホで簡単に騙されてしまう寛美の闇は、どちらが深いのだろうか?

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