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DMS断片考察(OZ_赤いケシの花)



プリコンで出したDMS卒論の中に入れられなかった考察の一部です。
NANとファウストも原作に当たって考察していきたかったんですが、あまりにも無計画執筆すぎて断念しました。来年のライブ次第ではまたDMS本出せるようにちまちま進められるかな…

1.   赤いケシの花と二人の少年は何をもたらしたのか

1.1.   疑問点

まず一つ目は、結末が正反対になっていること。キャストありきのミュージカルであるため、キャラクター設定、ストーリー展開ともにモチーフの物語から変更があるのはDMS全体に言えることだが、特にこのOZにおいては主人公の辿る結末が正反対になる。ドロシーをモチーフとしたテオがオズの国に留まり、トトをモチーフとしたテリー[1]がカンザスの我が家に帰る。またオズの魔法使いも原作[i]では気球に乗って元の場所に戻っていくが、OZでは変わらず統治を続けている。[2]
二つ目は、赤いケシの花のシーンの存在感が大きすぎることだ。

1.2.   赤いケシの花

先ほどと逆の順序になるが、まずは赤いケシの存在感について考察したい。
存在感が大きすぎるというのは主観だが、正直絵本でしかオズの魔法使いを知らなかったため、私自身は最初完全オリジナルシーンかと思っていた。原作は児童向け文学だが、かなりの数派生作品が展開されており、有名なのは「Over the Rainbow」で知られる映画「オズの魔法使」(1939)だろう。今回のOZはビジュアルについてこの映画の影響をかなり大きく受けている一方でストーリー展開は原作をモチーフとしている。ケシのシーンについても、映画版では最初からドロシーと対立した西の魔女が妨害行為として赤いケシの花を大量に咲かせ、ドロシーとトトとライオンは眠ってしまいそうになるが、西の魔女と同様に最初からドロシーの味方として登場する北の良い魔女であるグリンダ[3]が雪を降らせて事なきを得ている。本人たちはほぼ何もしていない上に、映画全体の5%の4分程度しか尺がない。[4](ちなみに演出都合は承知しているが、マンチキンのシーンは14分ある。)
また、原作では「死に誘うケシの花畑」という章が設けられてはいるものの、ケシの花畑が出てくるのは章の後半からであり、章を跨いだ描写を含めても全体の5%程度[5]にあたる。また、ライオンは仲間に置いて行かれており、偶然の流れでネズミたちに救われている。(原作はアメリカ社会の風刺作品の一面もあるという説も出るくらいなので、残酷でドライな瞬間が結構ある。) 私の絵本の記憶は辿れなかったため、読み聞かせ動画[ii]を確認したが、ケシの実のシーンは含まれていなかった。(映画版の子役が事務所から麻薬を飲まされていた疑惑とのグロテスクさがとんでもないので、ストーリー転換とは別の考慮で子供向けの作品では削除されている可能性もある。)
単純な数だけの比較になってしまうが、OZ内では劇中歌を除き本編は16章で構成される[6]うちの2章「危険な花畑」「救出大作戦」の合計12分半が赤いケシの花についてのシーンとなっている。また、ブックレット内の用語集でも地名や魔法の道具と並んで「赤いケシの花」の説明が記載され、「Dreaming of OZ」という物語の中でも重要なポイントになっているのは事実である。

次にこれだけOZの中で大きく取り上げられているシーンの意味を確認したい。赤いケシの花を巡って起こったストーリーを整理しよう。テオとテリーが出会った仲間、ライオン、かかし、ブリキ男のそれぞれの力で困難を解決する。偉大な魔法使いたちの示唆めいた会話を挟み、道中に現れた赤いケシの花畑にライオンとテオ、テリーははしゃぎ、ケシの香りを効果で強烈な眠気に襲われる。しかしブリキとかかしではライオンを運ぶことが出来ないので、テオだけがケシ畑から救出されるも、テリーはライオンを見捨てずにその場に残ることを選ぶ。ケシ畑から脱した3人も仲間を見捨てて夢を叶えることはできないと、かかしのアイデアでテリーとライオンも救いに行く、というあらすじだ。[7]
この次のグリンダのセリフがこのシーンの教訓になっている。

危険や誘惑は思ったよりも身近に、そしてそれが安全で美しいものかのように存在していることを彼らは学んだことでしょう……。平穏であることが、いかに尊く、当たり前でないことは、失ってみて初めてわかることなのかもしれません[8]

「Dreaming of OZ」DISC2 track01「救出大作戦」5:20~5:43

このセリフは花畑でのテリーの「冒険は危険だった」、そして冒頭でのテオに対する「物語の様に血沸き肉躍る冒険がしたくないのか」という発言にかかっている。ドロシーと同様に灰色の街である故郷に戻る決意をするテリーは、「オズの魔法使い」というモチーフでも示されている「退屈な平穏の尊さ」を自分自身と仲間の命を天秤にかける中で、学んでいる。
それではテオはどうだろう。まず、甘美で危険な冒険を意味する「赤いケシの花畑」のなか魔法の国に魅入られ始めているテオ[9]は、そのケシの効果によってかつてカンザスで自身の叔父たちがこっそり自分について話しているのを聴いてしまったことを思い出した。これは貧しい暮らし向きでテオを引き取ったことが、叔父夫婦にとっては良くてもテオにとっても最善ではなかったかもしれない、と叔父夫婦が実は悩んでいたことが明らかになる。このシーンはラストのテオとテリーの別れに繋がる。テオには既に戻るべき平穏な日々はなく、彼に選ぶことが出来るのは「オズの国で挑戦を続ける」か、「叔父叔母と3人でも今までよりも厳しい生活に戻る」かの二つに一つだった。
OZにおいて、赤いケシの花はつまらない平穏の反対にある、魅力的で危険な冒険を意味し、この「Dreaming of OZ」の物語全体を象徴する花となっている。

1.3.   二つの結末

赤いケシの花から二人がそれぞれ全く逆の大きな気づきを得た後、大人になるという同じ過程を通じて二人は反対の結末を選ぶこととなった。
本当に欲しいものは、そのことに気が付いていないだけで最初から手の中にある。ブリキ男もかかしもライオンもテリーも、本当に欲しいものは最初から持っていたが、挑戦という過程を得たからこそ、そのことに気が付いた。テオが最初から持っていたものは「魔法使いの素質」と「一歩踏み出す力」だったのだろうか。
マンチキンで目が覚めたテオのシーンでは死んだ魔女の代わりに統治を求められ、やってみなければ何も変わらないからとテリーを探しにいく。テオ役の瑛二の書き込みは一人になって自我が芽生えた[10]と書かれていた。
少なくとも、カンザスにいたころのテオが欲しいものを持っていたのかは物語からは分からない。吹けば飛ぶような平穏と望んでいない人生経験[11]だけだった。逆にテリーが持っていたのは、安定した立場や生活と変化のない人生だった。これだけあまりにも違う二人がそれぞれを尊重して、喧嘩をしながらも友情をはぐくんでていたことこそ大きな財産であると思うが、そのことは厳しい冒険の中でも変わらなかった。彼らが冒険で得た「故郷の尊さ」も「魔法の力」もやはりお互いに正反対であったが、「人を羨まず嫉妬せず、自分に配られたカードの中から将来を選ぶこと」。このことが、別々の将来を選んだ二人から得られる「Dreaming of OZ」の最後のテーマであると考えている。

冒頭のテオとテリーの発言から逆転する構造上、テオの決断は無謀な子どもの夢にも見える。しかし、叔父叔母のテオ自身が選んだ未来を進んでほしい[12]という願いと叔父叔母の生活の心配の上で、良い魔法使いの統治を求めるマンチキンで、テオ自身の手で求めていた平穏な日常の獲得に挑戦する事は決して美しい冒険に囚われた行動ではない。
この行動は知恵で魔法の国の偉大な統治者となった、オズの魔法使いから冒頭のシーンで投げかけられた問いに対する明確なアンサーとして成立している。

夢や憧れだけでは生きられない。何を求め、何を成すのか。その成り行きを見させてもらおう。この旅の果てに見つける答えとやらを……[13]

「Dreaming of OZ」 DISC1 track03 「銀の靴」7:20~7:32

注釈

[1] 「OZ 入場者特典 会場限定ドラマCD」トラック2:帝ナギasテリー 0 :20参照
[2] 本当に全然関係ないですが、原作ではオズの魔法使いが気球に乗ってエメラルドシティからいなくなってしまうのでかかしが次の統治者に指名されるので、ヴァンさんと瑛一さんの権力譲渡…新選組のこと思い出しますね。
[3] 「Dreaming of OZ」及び原作小説ではグリンダは南の国クワドリングの魔女だが、映画「オズの魔法使」では北の魔女になっている。
[4] ヴィクター・フレミング.オズの魔法使(邦題). ジュディ・ガーランド出演.1939.MGM.PrimeVideoより53:36~57:45
[5] ライマン・フランク・ボーム(2012)『オズの魔法使い』(河野万里子訳)新潮文庫 pp82~96
[6] 「Dreaming of OZ」DISC1 track02-07,09-11とDISC2 track01,03-07,09 左に示したtrackを、劇中歌を除いた本編とした。
[7] 同作DISC1 track10,11 DISC2 track01を要約
[8] 同作DISC2 track01「救出大作戦」5:20~5:43から引用
[9] 「Dreaming of OZ」台本 pp87参照
[10]  同作台本 pp18参照
[11] 同作pp4 に「父は蒸発、母は病死し、親戚に引き取られた」旨記載あり。その中で都会から田舎町であるカンザスに移ってきた。
[12] 「Dreaming of OZ」DISC2 track07「良い魔法使いグリンダ」 5:30~6:40参照
[13]  同作DISC1 track03 「銀の靴」7:20~7:32から引用

[i] ライマン・フランク・ボーム(2012)『オズの魔法使い』(河野万里子訳)新潮文庫
[ii] 【絵本】オズの魔法使い(オズのまほうつかい)【読み聞かせ】第2話 世界の童話
https://youtu.be/W5zuXZtgZMo?feature=shared


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