6-11. 清貧であることは、いつでも美徳であるわけではない。
ソニー名誉会長 盛田昭夫
「清貧」という言葉は、我慢の美学として日本人に好まれる言葉であり、それを守れる人間は高く評価される傾向にある。
しかし、それは“いつも”正しいわけではない、と言うのが盛田昭夫である。
ソニーが世界の市場にいち早く進出し、国際的に高く評価されてきた歴史については、その先兵となってアメリカ市場を開拓してきた盛田昭夫を抜きに語るわけにはいかない。
盛田は、副社長時代の昭和38年、アメリカ国内での市場開拓に本格的に取り組むために、一家でニューヨークに移り住んだ。
その時、盛田は「ソニーのためになるのだから、思い切り贅沢な生活をさせてくれ」と井深に頼んだという。
アメリカでは夫婦同伴のパーティや休日レジャーを通じて親交を深める。プライベートな交際が、事業の拡大にも大きな役割を果たす。
そこで、盛田は、こうしたプライベートな交際を通じてソニーの業績に影響を与えるような最高水準の人脈を築き上げるためには、それなりの環境を用意したいと考えて、井深に提案したのである。
その結果、盛田はニューヨークの最高級居住地、五番街の中でもひときわ豪華なアパートに住み、国際的な人脈を作っていった。ソニーのその後の事業展開にこうした豊富な人脈が大いに役立ったことは言うまでもない。
これはまた、ソニー会長の大賀についても言える。
大賀が留学時代に音楽を基盤にドイツなどで築いた人脈は、ソニーにとっては貴重な財産になったのである。
「清貧であることは、いつでも美徳であるわけではない」
人脈作りから生み出されたソニーの哲学であるが、物事は、その状況により大きく変わるという教えでもある。
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