見出し画像

6-12. 敗者は復活できる。

 千代田火災海上保険元社長 川村忠男

 川村忠男は、戦後すぐの就職活動でやっとのことで千代田火災に入社。それも、いくつもの会社に断られ、かなり難産の末の入社である。しかも、入社試験の成績は8人中の8番目だったという。

 就職してからも、組合に入って騒いだために北海道へやられ、その後も、常磐炭坑の仕事では組合の委員長に押されたおかげで、長いあいだ課長代理で据え置きになる。
 委員長を辞めてからも、静岡、高松、札幌……と異動させられた。その間、当時の社長手島恒二郎とやりあったこともあり、「川村は一生、本社に戻すな」と言われたという経歴の持ち主である。

 その川村が、72年に本社に戻ってからは自動車保険を担当するようになり、役員に昇進する。そして常務に進んだところで、突然、手島から「社長をやれ」という指示を受ける。

「どうして社長になれたのか不思議なのですが、結局は『敗者も復活できる』というルールのようなものがあるのでしょう」

と川村は振り返る。
 そして、それ以来、川村は失敗した社員たちにも、再度復活のチャンスを与えるように心がけてきたという。

 しかし、川村の復活は他力のものではない。
「どんな境遇でも仕事が面白かったから、やる気は失いませんでした。何よりいろんな取引き先と仲良くなり、公私の区別なく付き合うことができたので、仕事が苦にならなかった」
と言う。仕事への情熱は人一倍のものがあったのである。

 敗者は復活するというよりも、努力や情熱が正しく発揮されれば報われると言えばいいのか、あるいはどこかで誰かが見ていると言えばいいのか、世の中の仕組みは一筋縄ではないようである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?