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3-7. 未来への鍵は、過去の歴史の泥の中にある。

  本田技研工業最高顧問 藤沢武夫

 本田宗一郎社長とのコンビで名副社長と謳われた藤沢武夫のこの言葉を伝えるのは、昭和58年から本田技研工業の社長を務めた久米是志である。

 シビックが発売されて勢いのいい頃、クレームが増え始めたのを心配して、すでに第一線を退いた最高顧問の藤沢武夫が出社してきて、幹部に招集をかけた。
 そして幹部たちを集めると、
「お前たちシビックを出して先進的とか、ホンダらしさとか言っているけれど、本田らしさって何だ?」
と聞いたという。

「答えられずにいると、『先進的とかいって先ばかり見てチャラチャラやるのがホンダらしさだと思ったら大間違いだ』と頭からやられた。驚きました。だって、『未来が大切だ、未来に目を向けろ』というのが、おやじさん(本田宗一郎)の口癖でしたからね」(久米是志)。

 そして藤沢は、こう言ったという。

「本当に先を考えるなら、自分たちの過去の歴史をふり返りなさい。それも失敗した泥の中をもう一度しっかりと見つめなさい。そこに未来への鍵があるはずだ」

 そこで久米はこの言葉を参考に、クレームについての意見を幹部クラスの人たちに提出してもらい、部屋の壁に張って何日も眺めた。
 その結果、どうやら、クレームが寄せられた点に関してクレームが発生することを彼らが考えていなかったらしいということに気がついたという。

「品質向上とかクレームとかいうが、要は製品を出荷するまでにどれだけ状況を知り把握するか、それが大切だということに気がついたんです」(久米是志)

 それから久米は、クレームばかりでなく、製品を出荷するまでのあらゆる失敗の状況を想定し、洗い出すことに力を入れたのである。いわば、ホンダの先進的であるがゆえの抜け穴、行き過ぎを軌道修正したわけである。
 こうした経験から、「過去の泥の中をもう一度探ってみる」ことは非常に重要だというのが、久米の意見である。

 同じように「過去の失敗が重要だ」と主張をするのは、石川島播磨重工業の元副社長で日本科学技術連盟会長も務めた高橋貞雄である。



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