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002.損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル(旧川崎銀行横浜支店)

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物002/馬車道通り≫

 

上層部に全面ミラーガラスを生かした斬新さが目を引きます。
3階建てのビルを上に伸ばして高層ビルにし、上層階の外壁が全面ミラーガラスになりました。
改装前に使われていた外壁を下層階に生かしています。窓の上に三角形のペディメントを配し、
イタリア風の石組みが落ち着いたたたずまいを見せています。
古さと新しさが不思議とマッチしています。

 旧川崎銀行横浜支店として関東大震災の前年大正11(1922)年に建てられたものです。現在は損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビルとしてオフィスビルに生まれ変わっています。馬車道に面して県立歴史博物館の隣にあるビルで、横浜市の認定歴史的建造物になっています。
 横浜・元町生まれで、妻木頼黄の元で仕事をした矢部又吉の設計です。矢部は、後で紹介する031ストロングビル(現ダイワロイネットホテル)の設計者でもあり、両方に共通した、どっしりしたドイツ建築の重厚感が感じられます。
 矢部がドイツ・ベルリン工科大学で学んだことから、ドイツ・ルネサンス風の重厚な外観の建物が作られましたが、老朽化が進んだために平成元(1989)年に、おもてのデザイン(ファサード)を活かす方式でビルが改築されました。

入口入ったところに空間を設け、側面の入り口に使われていたものを復元しています。
もともとも建物の階層の様子が見られるように展示されています。落ち着いた空間で、
これが掲示されているスペースを室内楽などのコンサート会場にも活用できそうです。

■功を奏したミラーガラスの透明感
 そして、さらに2009年、大幅な改築が行われました。改造に際して、ミラーガラスを入れています。クラシックなデザインのビルとミラーガラスの組み合わせは違和感を持つ人もあると思いますが、晴れた日には空のブルーと溶け合って、独特の透明感を醸し出しています。
この設計は、馬車道の景観保護という観点から、保存と活用という視点からもいろいろな議論のきっかけになった改装でしたが、何年かをへて改めて見ると、見事に新旧がマッチして、その斬新さは、開港時代から時代の最先端を切り開いていた馬車道を象徴するような建物になっています。
 下層部にファサードをはめ込んでいますが、ガラスの構造部分と一体となって、意外としっくりいっているのです。外から見ても、低層部の落ち着いた意匠と、空を思わせるミラーグラスがふしぎとなじんでいます。こういうケースを見ると、さすがにプロの仕事と敬服します。
 復元した部分は、おもてだけでなく、側面にも生かされていて、1,2階の間で石からミラーガラスに変化していますが、つなぎ分がうまく処理されていて、近くで見ても違和感がまるでありません。

復元した部分は正面だけでなく、側面にも使われており、側道を歩いていると、
ミラーガラスが目に入らずに、昔のままという感じがして違和感がありません。

 ドイツ・ルネサンスの、装飾の多い、重みのある建物を保存・復元するにあたってミラーガラスを合わせるという無謀ともいえるような発想は、ほとんど人は、えっ?と思い、違和感をもつのではないでしょうか。真逆のような発想で、素人にはなかなか思いつきません。それが実にうまく溶け合っていい雰囲気を出しているのです。人にもよるでしょうが、違和感がない、というより、何度も見ているうちに、非常に好もしく思えてきます。
 下層部の川崎銀行時代の建物は、窓の上部にペディメント(ひさしのような三角部)をつけ、左右に突き抜けたローマ時代の付け柱をつけて、しっかりした石積みを主張しています。重厚な安定感あふれるデザインは、いかにも銀行としての信頼感を醸成しています。
 正面入り口の上部の装飾は、カイコの蚕種をモチーフにしたもののようですね。何やら、生糸検査所(006)のモチーフに合わせてデザインされているような感じがします。

1階正面入り口のデザインはそのまま踏襲。正面の2階部分を使った装飾は、
蚕種のようなデザインが入れられている。

 思い切った改装・復元ですが、このクラシック✖最新技術という水と油と思えるような異質の組み合わせが功を奏していて、平成1年にはこの改装にあたって、建築業協会賞を受賞しています。溶け合った乳化とはちがった異文化の相互補完というか、良い感じだ。
 歴史的な建造物について、保存・活用という観点から、正面だけでなく、外観意匠のポイントを活かした新しい考え方を実践した先駆的な例として多くの人にぜひ見てほしいビルです。
●所在地:横浜市中区弁天通5-70
 

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