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 5-14. 周りが誉め始めたら、危険な兆候だ。

帝人相談役・元社長 徳末知夫

「調子が出る」という言葉は良い意味で使われることが多いが、それに引き換え「調子に乗る」という言葉は、どうも悪い意味で使われることのほうが多いようだ。
 徳末知夫は、社長時代に工場を訪問した時の経験から、自らを戒めるために、表題の言葉をいつも思い出すことにしていると言う。
 工場訪問の経験とは次のような経験である。

 社長の工場訪問はめったにないことでもあり、工場側は手ぐすね引いて待っている。そのため、至れり尽くせりの扱いになる。
 車を玄関に着ければ、すぐに社員が飛び出してきてドアを開ける。玄関の自動ドアもすでに開けられており、エレベータもドアを開けて待っている……と申し分ない。

 そんな時間を過ごしたあとで、本社に戻ってくると、エレベータがなかなか来ない。待たされているうちに、「あ、ここは本社だった」と気づいて苦笑させられる。わずかなあいだ、工場で厚遇されただけで、エレベータはボタンを自分で押さなければ来ないという単純なことも忘れさせる……と徳末は言うのである。

少しでも在任中に業績が上がると、ちやほやされて偉くなったように思わされたり、自分の力だと過信したりしてしまう。凡人にはありがちなことだが、徳末すら、辞めたあと、自分がそうなっていたことがよくわかったという。
そして、こう言うのである。

「トップも、己のことしか目に入らなくなったらおしまいだ。だから、一つの知恵として、私は、周りの人が褒め言葉を口にし始めた時には、危ないな、と気をつけている」

 同じようなことを、先代の堤 康次郎から教えられた、と言うのは堤 義明である。


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