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5-6. ミドルは自分を抑えてはいけない。

 アサヒビール会長 樋口廣太郎

 会社の中でも、個性を発揮しろという意見は少なくない。しかし、樋口のこの言葉は、これまでの常識を覆す言葉でもある。
 中間管理職といわれる部課長クラスは、上下に挟まれて課題の解決を迫られる階層である。業務ではまず課題解決が重要であり、自己の意志を殺してでも、立場や役割を優先させることが求められる……というのがこれまでの考え方であった。

 しかし、と樋口は言う。

「いまのミドルは、節度さえ心得ていれば、やりたいことをやって、思い残すことはないという人生を送るべきだ。俺はこれだけ我慢したのに、何でうまくいかないのかと嘆くよりも、自分がやりたいことをきちっと整理してやったらどうか」

と言う。

 なぜなら、40代はクオリティライフ、つまり質の高い生活の実現を目指すべきであり、40代の過ごし方がその後の人生に大きく影響するからだ、と言うのである。

 樋口の主張によれば、ミドルは、会社での仕事上の生活だけでなく、その後の自分の人生の過ごし方を前提にした仕事の仕方を考えることが求められているということになる。

 時代は大きく変わったのだ。いかに変化に気づくか、あるいは対処するか、は重要な点だが、来島ドックの坪内寿夫は、自戒の念も含めて、トップは強く自省しなければならないと言う。

「トップは自分を殺さなければいかん」(坪内寿夫)

 その一つの理由は、従業員を始め、銀行や取引き先の信頼を得るためでもある。

「昔、社長は門構えの大きな家に住んで、お手伝いさんを置き、大旦那として威厳を保っていた。しかし、ワシの経営はこうした威厳によるのではなく、社員との信頼関係による。働いている人は自分の会社の社長と他の会社の社長とをよく比較しているものだ」

 だから、社長は絶対に信頼できるという印象を従業員に与えるように努力しなければいけない。そのためには、あらゆることを犠牲にして欲望を押さえなければいけない……と言うのである。

 小林一三の倫理観ではないが、こうしたことを経営者に再度見直してほしいものである。


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