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01.唐の時代の映画ロケが、日本で行われるわけ

                     (映画「黒衣の刺客)より)

 「恋々風塵」「冬冬的假期 (トントンの夏休み)」「覇王別姫」「悲情城市」などで知られる台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の映画「黒衣の刺客」があります。
 2015年に封切られ、第68回カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得した作品で、唐代の中国を舞台に、暗殺者として育てられた孤独な女刺客が、自らの過酷な運命に翻弄され心揺れるさまを描いたものです。主演のスー・チーに、妻夫木聡らが共演しています。
 この映画、舞台は中国での唐の話なのですが、屋敷などの場面は日本の京都や奈良、兵庫の古刹でロケが行われているのです。
 
 なぜ、唐の時代の作品が日本で?と思いますが、「唐の時代の建物に近い構造を中国で探すのは非常に難しいというのがその理由です。奈良の唐招提寺が修理中で、屋根を解体しているのを見たら、すべてではなく、古くなった一部だけを取り換えていました。そういうことが代々受け継がれてきたので、構造がずっと残るんだなと感心しました。
 普通なら大金をかけて唐の街をセットで組み立てるところですが、自然や風景は中国、建物は日本でロケをして完成させることができたので、費用をかけずに映画が撮れました。」とホウ監督。

 唐の時代と言えば、7世紀から9世紀ころで、日本では、法隆寺が700年初め、薬師寺はその半世紀ほど後、唐出身の鑑真が開基である唐招提寺はそのまた半世紀ほど後と、ちょうど時代が重なるのです。
 そして残念なことに、唐の時代の古い建物は中国には残されておらず、日本の法隆寺や薬師寺、唐招提寺などの両塔の伽藍形式が、世界で唯一残されている貴重な遺産・・・というわけなのです。実は世界的に見ても、古い寺社・仏閣の木造建築物はほとんど日本にあるのです。
 
 日本では、法隆寺以降、伽藍(寺社建築)様式の変化があり、法隆寺は高麗尺(朝鮮の尺=356.4ミリ)で建てられていますが、薬師寺は唐尺(=297ミリ)という中国の尺度で建てられています。
 1995年に亡くなった文化功労者の宮大工・西岡常一棟梁は、「法隆寺伽藍は朝鮮から技術者が入ってきて指導にあたったが、薬師寺は、直接、大陸からえらい入が来たんやないか」と、推測しています。
 
 世界にある1000年以上の石づくりの建築物が、酸性雨などの影響で崩壊しつつある中で、時代を経てもなお美しさを保って屹立している日本の木づくりの寺社。メンテナンスに当たっての日本人の英知が保ってきたものです。
 
 時代が変わっても、為政者が変わっても、手を入れつつ、1300年間も維持し続ける文化を私たちは世界に誇っていいと思います。

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