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6-10. 何もないことは、何でも持てる可能性があること。

 松下電送顧問・元会長 木野親之

 木野が松下電送にやってきた昭和30年代末、東方電機という社名だった同社は、社屋はぼろぼろ、定年はないから80歳の庶務課長がいる。しかも、労組が強くて赤旗が下りたことがなく、あるのは借金と赤字という状態だった。

 その再建を頼まれて松下本社から派遣された木野は、その状況を知って腹を括るしかなかった。そして、断崖に身を置いてみると、かえって新しいものの見方ができたと言うのである。

「貧乏人の我が身を金持ちと比べても仕方がない。普通は無いことに不満を抱くが、実は逆ではないか」と思い至ると、今度は逆に、

「何も持っていないということは、何でも持てる可能性、無限に向上する可能性がある」

ということに気がついた、と言うのである。
「そうやって見てみると、それなりに人間はいる、技術もある、曲がりなりにも販路もあった。ゼロではない。これをもとに、みんなで良くなろう」という方向に導いてゆくことで再建は徐々に進んだという。

 最近の学生たちは就職に当たって、「成長性」や「安定性」を指標に会社を選ぶ。
 木野に言わせると、これは、“先輩の築いたものの上に座ろうとしている”からだ。そうではなく、

「成長性もない、安定性もないといわれる会社だからこそ、自分が入社して改善する余地が無限にあると考えてほしい」

と言うのである。

 そう言われると、恐いものがなくなるから不思議である。


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