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045.ハンマーヘッドクレーン

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物042/みなとみらい・新港地区周辺≫
 *大正3(1914)年に新港8号ふ頭に設置された50トンのハンマーヘッドクレーン。ハンマーヘッドクレーンというのは通称で、クレーンの種類でいえば、カンチレバークレーンです。
 
 
生糸貿易の盛況と海運事業が反映する中で、大桟橋だけでは間に合わなくなり、明治32(1899)年に横浜港の内湾の埋め立てを開始、大正3(1914)年に新港ふ頭が完成します。その際に、荷役のエースとして8号岸壁の埠頭に設置されたのが、1913年にイギリスのコーワンス・シェルドン社で製造された50トンのハンマーヘッドクレーンです。形が金槌に似たT型で、50トンの荷重まで吊り上げが可能。横浜港のクレーン第1号です。
それまでは積み荷の運搬、荷役作業の中心は、沖に停泊した貨物船からはしけに積み替え、埠頭で人力で積み替えるという作業でした。水深の深いふ頭が完成し、大型のクレーンが据え付けられたことで、一気に重量物を扱うことが可能になり、貿易の質が一気に変わりました。
 高さ約25.2m、旋回半径最小6.6m、最大18m、公称揚力50tとされていましたが、試運転時は67tでした。動力に電力が必要でしたが、貨物の一時保管倉庫の照明用にも電力が必要だったことから、停電などで港湾機能に支障の出ないよう、埠頭構内に独自の発電所を設けました。
 発電所は、石炭火力発電装置により直流電気・毎秒電圧500Vの能力を備え、送電ケーブルを地下埋設としています。特に、港湾貨物の量は時期によって繁閑があり、電力使用量は一定しません。増減が甚だしいことから費用節約のため、蓄電装置も設けられた、当時としては画期的な設備でした。

クレーン用の電源のための発電所と、発電所内の機関室
(ともに、大蔵省「横浜税関新設備写真帖」)

 しかし、大正12(1923)年の関東大震災で発電所建屋が崩壊してしまい、独自発電所からの電力供給ができなくなり、購入電力に切り替えられてしようが継続されました。ハンマーヘッドクレーンと設置されたふ頭は関東大震災でも倒壊しませんでした。これは、特に、埠頭の建設にあたって、ニューマチックケーソンと呼ばれる、空気を送った箱を海底に沈めて掘削・基礎工事を行うという最新の工法を使ったことで、埠頭の基盤がしっかり作られていたたまと考えられます。
 ■ハンマーヘッドパークの誕生—290mの埠頭に

ハンマーヘッドクレーンがあった地区は再開発されて、2019年11月には新しいふ頭が作られ、
多くの飲食店、ホテルを備えた国際ターミナルとしてオープンした。
国際埠頭に着眼したダイヤモンド・プリンセスとハンマーヘッドクレーン。

 戦後は昭和31(1956)年まで連合国軍総司令部(GHQ)に接収され、使えない状態が続きました。接収解除後、しばらくは港湾輸送が活況で使われましたが、1970(昭和45)年代になると、コンテナ輸送が中心になり、港湾機能の中心が大型のガントリークレーンなどを備えた山下ふ頭や本牧埠頭、大黒埠頭に移ったことから、役割を失い、平成13(2001)年にその役割を終えました。
 ハンマーヘッドクレーンは新港の岸壁にいまもそのまま残されていて、経産省のすすめる「近代化産業遺産」に登録されています。いまでも、通電すれば稼働するといわれていますが、この時代に作られたイギリス製のクレーンは、横浜のほかにも長崎造船所と佐世保造船所に各1基残されるだけになりました。貴重な産業遺産です。
 横浜市ではこのクレーンを拠点に、「ハンマーヘッドパーク」として再開発を進め、令和が元(2019)年11月、大型客船が着岸できる客船岸壁とともに「新港ふ頭客船ターミナル 横浜ハンマーヘッド」がオープンしまた。
 客船ターミナル・商業施設・ホテルなどからなる地上5階建ての複合施設で、1階が商業施設およびCIQ(税関・イミグレーション・検疫)、ホテルエントランス、2階が商業施設およびホテル(インターコンチネンタル横浜Pier 8)フロント、3-5階がホテル客室となっています。 CIQはコロナ期間中、検疫所と十分な広さがあることから大規模ワクチン接種会場に使われました。

新港ふ頭客船ターミナルに着岸しているダイヤモンド・プリンセス(左)。
ターミナルには税関・イミグレーション・検疫所のほかに飲食店やホテルもあり、
人気の観光スポットになっています。

 ハンマーヘッドクレーンのある8号ふ頭は両側にふ頭があり、国際埠頭は大型クルーズ船用に延長され340メートル・水深9.5メートル、一方のビジターバースは長さ115メートルです。これによって国際埠頭は、110.000トンを超えるクラスのクルーズ船も着眼できるふ頭になりました。
開業間もない、2019年11月04日には、全長290m、115,875トン、乗客定員:2,760名のダイヤモンド・プリンセスが初入港しました。以後、コロナ禍でクルーズ船の入出港数は減少しましたが、ぱしふぃっくびいなす26,594トン、飛鳥Ⅱ50,142トン、セブンシーズ エクスプローラー55,254トン、にっぽん丸22,472トン、ボレアリス61,849、バイキング・オリオン48,000トン・・・などが着岸しています。
春や秋の連休の観光シーズンには、大さん橋、大黒ふ頭とともに3つの埠頭に大型クルーズ船が着岸し、それらの船を見ようと多くの見学客を集めました。ハンマーヘッドパークは、国際ターミナルにある飲食店とともに人気の観光スポットになっています。
おいでになった際には、国際ターミナルの影に隠れてひっそりとたたずむ、ハンマーヘッドクレーンの雄姿もぜひ見てください。対岸のホテル・パシフィコからも見ることができます。
●所在地:横浜市中区新港2-14-1


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