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『食人宴席 抹殺された中国現代史』

鄭義著 黄文雄訳 光文社カッパブックス 214p 1993

 見ると、私はこのところ中国ばかりを話題にご紹介しているようだが、特に中国に関心をもって調べているわけではない。読む本も乱読で、この間積み上げるとかなりの高さになるがご紹介するまでもないと思い紹介していないだけのこと。中国関係の書籍紹介が続いているのは、中国関連で読む書籍の内容が重く、1冊読むと、参考文献にいろいろな図書が紹介されていて、つい興味を持って読むと、また次の参考図書が気になり・・・と繰り返している結果に過ぎない。専門家でも何でもないので、図書を拾い読みした結果の要約なので、思い込みや誤解もある。正確を期したい方は私の文章をうのみにせずに、原典を確認していただいた方がいいと思います。

■「ドタマかち割って脳みそストローで・・・」
 「ドタマかち割って脳みそストローでチューチュー吸ったるで!」というのは関西文化の華、吉本新喜劇の未知やすこのセリフだ。
 やくざに襲われた食堂の従業員らがやり込められて難儀しているところで、一番後ろにいたウエイトレスの未知が「待て!待て!待て!」としゃしゃり出て出てきて、冒頭のセリフをかまして、逆にやくざをビビらせる。と決まったところで、未知が「ああ、怖かった!」と本音を吐いて、観客がどっと来るという吉本新喜劇おなじみの光景だ。
 「脳みそストローで吸う」というギャグは、いかにも関西人が喜びそうなものだが、この発想はどこからきたものなのだろうか。
 いまでもたまに思い出したように中国のある田舎町の店で、人肉でスープを取ったとか、人肉を提供していたとかいうニュース、うわさが飛び交う。
 古典の水滸伝などを読むと、強盗が人肉で宴会をしたとか、憎む相手に対して「食ってやるぞ!」とののしったり、恨みで人肉を食ったとかいう話が出てくる。
 いまでも、「中国では四つ足なら机以外はなんでも食う」というジョーク?が語られたりしている。
 「脳みそストローで・・・」というのも、そんな中国からの移入なのだろうか?

■文化大革命の裏側
 本書がとりあげているのは「広西大虐殺」事件で、文化大革命当時に、広西チワン族自治区で人民による殺戮、食人が繰り返されていたという事件。事件としてほとんど闇に葬られていることに憤った著者・鄭義氏が1986年、1988年の2回、現地で取材、調査しまとめ、発表したもの。
 鄭義氏は1989年6月4日の民主化運動「天安門事件」の指導者の一人で、その後、指名手配となり、3年間の地下逃亡生活を送り、本書を執筆した。また妻・北明は逮捕され、9ヵ月間、監禁された。1993年香港に脱出し米国に亡命。

鄭義をご存じのない方も多いと思うが、張芸謀(チャンイーモウ)主演で知られる映画「古井戸」の作者である。
 内容は、余りのひどさに読むに堪えない。文化大革命の名のもとに行われた悲惨な殺戮があまりにも残虐でひどい。一般の市民がここまでやるとは信じられない。しかも、1967-68年、戦後、中華人民共和国として独立して20年も過ぎたころの話である。未開の中世の話ではないのだ。

■「広西大虐殺」事件―――その残虐さの背景には何があるか

   中国の歴史のなかの、現実のこのような血塗られた事実は、決して民族的な因子あるいは、人間性の欠落というようなものが原因ではない。逆に、ただ残酷なる独裁政治が人間性をねじ曲げたことからくる歪みにすぎないと思う。たとえば、今日までの共産主義理論と共産主義運動の歴史は、人道主義に対する猛烈な攻撃を一度といえども、中止したことはなかった。共産党の暴君たちは、徹底的に人間性を抑圧し、抹殺させることによってのみ、人間が彼らの残虐なる権力闘争の従順な道具となり、より容易に人々をそそのかして野獣のように彼らの政敵に襲いかかることができることを、だれよりも十分に知っているのである。

  文化大革命(一九六六-七六)に起こった「広西大虐殺」事件の悲劇は、まさしく共産党の非人間的な理論の必然的帰結である。そそのかされた「階級的な恨み」とか、「異なる政治的意見の人間」ということを理由にした「食人」行為は、人類の文明史上、かつてなかった非人間的な犯罪にちがいない。赤い中国で生じたこの暴虐行為は、殺害された人数では、ドイツのヒトラーの集団虐殺にはやや及ばないとしても、その残虐さはファシストの及ぶところではなかろう。

■中華人民共和国政権下の殺戮の死者
 食人の習慣は、人類始まって以来、世界のあちこちで見られたものらしいが、開高健「最後の晩餐」でもそのことは紹介されている。問題はその規模である。

  鄭義がとりあげたところによると、中華人民共和国政権下の殺戮の死者は、次のようである。
 地主・富農への弾圧による死者・百万〜二百万人。政治的反対者の処刑者・一千万人。右傾党内粛清者・四百万人。強制移住者・四百万人。大躍進政策(一九六○年)の失敗による餓死者・二千万~三千万人。文革当時の死者・数百万人、被害者は億単位に近い。「広西大虐殺」事件(広西食人事件)の犠牲者・約九万人—————。

『食人宴席』P.210

  文化大革命(一九六六-七六)に起こった「広西大虐殺」事件の悲劇は、まさしく共産党の非人間的な理論の必然的帰結である。そそのかされた「階級的な恨み」とか、「異なる政治的意見の人間」ということを理由にした「食人」行為は、人類の文明史上、かつてなかった非人間的な犯罪にちがいない。赤い中国で生じたこの暴虐行為は、殺害された人数では、ドイツのヒトラーの集団虐殺にはやや及ばないとしても、その残虐さはファシストの及ぶところではなかろう。

『食人宴席』P.5まえがき より

 中国共産党にとって毛沢東は建国の父である。これまで、「70%は正しく、30%は誤り」と評価しているが、毛沢東・江青の指導のもとで進められた文化大革命で起きた出来事や責任の所在をめぐって本格的に議論することを認めてはいない。

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