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組織不正の対話 (「組織不正はいつも正しい 中原翔 著」の読書から)

読者: 組織不正が起こる仕組みについて教えてください。なぜ人や会社が悪いわけではないのに、不正が起きてしまうのでしょうか?

聞き手: 良い質問ですね。中原翔著『組織不正はいつも正しい』にその答えがあると思います。この本では、組織不正がどうして起こるのかを詳細に説明しています。まず、不正のトライアングルという概念がP21で紹介されています。これは「機会」「動機(プレッシャー)」「正当化」という三つの要素で説明されています。

読者: 機会、動機、正当化ですか。それがどのように組織不正に繋がるのか、もう少し具体的に教えてください。

聞き手: 組織の中で働く人たちは、日常的に熱心に仕事に取り組んでいます。しかし、ふとしたきっかけでその取組が組織不正として判断されることがあります(P33)。これは、組織内部の視点では正しいと思っていることでも、外部の第三者から見ると不正と見なされるからです。

読者: なるほど。外部の視点で判断されるのですね。では、組織内部での「正しさ」が不正に繋がることもあるのですか?

聞き手: そうですね。例えば、東芝の不正会計問題について、中原氏はP110で、トップとミドルの間での時間的な差が齟齬を生じさせたと述べています。トップは短期間で利益を出そうとし、ミドルやロワーは長期間での利益を考える。その結果、ミドルがトップに合わせようとして、不正会計が生じたのです。

読者: 皆が正しいことをしようとしているのに、結果的に不正が起こるのですね。それは他の組織でも起こり得るのでしょうか?

聞き手: もちろんです。どの組織でも起こり得ます。P44で中原氏は、「組織不正とはどんな組織においても『起こりうる』」と述べています。また、全員が「正しい」ことをしているにもかかわらず、全体として「危うい」方向へ向かうことも考えられるとも言っています(P76)。

読者: それは怖いことですね。組織内での「正しさ」という概念は、しばしば個々の判断や立場に依存して変わることがあります。それが結果的に不正の温床と第三者から指摘されることもあるのでしょう。
では、どうすれば組織不正を防ぐことができるのでしょうか?

聞き手: 一つの方法は、組織全体での透明性とコミュニケーションを強化することです。P112では、短時間で利益を生み出すように命じられた場合、現場の社員が不正に手を染めるほかないと述べています。トップとミドル、ロワーの間での時間的な差を解消し、全体として一致した目標に向かうことが重要です。

読者: 組織全体でのコミュニケーションが鍵ですね。では、組織が倫理的になるほど非倫理的な行動が誘発される可能性が高くなるというのはどういうことでしょうか?

聞き手: これは経営学者ムエル・カプタインの主張で、P203で引用されています。組織が倫理的になるほど、非倫理的な行動が隠ぺいされやすくなるというのです。絶対的な正しさを追求することが、かえって大きな間違いに繋がる可能性もあります(P225)。

読者: 組織不正を完全に防ぐのは難しいですね。しかし、その仕組みを理解することで、未然に防ぐ手助けにはなりますね。

聞き手: その通りです。組織不正は、人が悪いとか会社が悪いということではなく、皆がそれぞれ正しいことをしようとした結果、起こることが多いのです。その仕組みを理解し、適切な対策を講じることが大切です。

読者: 組織不正がどのようにして起こるのかを、興味深い説明がされていますね。例えば、P37で「どちらか一方が正しく、もう一方が間違っているのではなく、『正しさ』がせめぎ合うものとしても考えることができる」とありますね。それは組織内で人々がそれぞれの立場で正しいと思って行動しているからこそ起こる現象なんですね。P99の「私利私欲の追求ではなく、会社を存続させるという『正しい』目的の下で、どの会社でも『起こりうる』不正会計であったこと」も印象的です。

聞き手: そうですね。特に組織全体が「正しい」と信じている行動が、実は不正である場合、捜査機関などの第三者から見ると問題となることが多いですね。P209の「『正しさ』とは決して絶対的なものではなく、むしろ相対的なものなのです」という言葉も深いですね。

読者: 組織内では個々の行動が「正しい」として積み重ねられていく過程で、結果的に全体としては危うい方向に向かってしまうこともあるんですね。P76の「全員が『正しい』ことをしているにもかかわらず、全体として『危うい』方向へ向かうことも当然ながら考えられるからです」というのがその典型ですね。

このように、組織不正が起こる背景には、単純な「人が悪い」や「会社が悪い」というよりも、各個人が正しいと信じて行動している中で生じる複雑なダイナミクスが関与していますね。

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