高志の国文学館編「堀田善衞を読む」集英社新書
副題は「世界を知りぬくための羅針盤」とある。この本を編集した「高志の国文学館」は富山市にあり、令和の名付け親である中西進氏が館長を務めている。この文学館では2020年に「生誕100年記念特別展 堀田善衞―世界の水平線を見つめて」が開催されたりしているが、それもそのはず、堀田氏は富山県伏木市の出身なのだ。
俺は富山弁でいえば「たびの人(他県からきた人)」なのだが、富山県の人たちがこの堀田氏をあまり知らないのが正直不思議だった。伏木中学校の校歌は堀田氏と団伊玖磨がつくったものだし、伏木中学校内には「海風会館」という展示館がある(去年行ってみた!)。あの宮崎駿をして本著の副題である「世界を知りぬくための羅針盤」と言わしめている作家なのだ。
堀田氏は「広場の孤独」で1952年に芥川賞を取り、その後「方丈記私記」「ゴヤ」「時間」「定家明月記私妙」「路上の人」「ミシェル 城郭の人」など、独特な視点による作品を多数残している。
堀田氏について池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大高保二郎、宮崎駿がコメントを添えている。
「海原に屹立している、鋭く尖った巌のような人」(宮崎)
「堀田先生は『一度距離を置いて、異邦人の目でもって、日本を見つめる。そうすると、日本で起きていることがよく見える』とおっしゃってました。」(大高)
「堀田さんにとって最も尊敬する、しかも模範とすべき理想の人物がどういう人かというと、独立独歩の人です。」(池澤)
北前船の廻船問屋の家に生まれ、宣教師のもとで英語を学び、スペイン語、フランス語もこなし、戦後は中国の上海に渡って戦中の状況を把握していた堀田氏は日本の大いなる過ちをよく知る人物であり、国家に翻弄される人間の赤裸々な姿をあらゆる題材をもって描いた社会派の小説家だ。
たくさんの方々に入門書として読んでいただきたいと思う。