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再掲:「葦笛の踊り」について

この記事はnoteで初めて投稿したものです。
公開してしばらくたって一旦引っ込め、また公開し、それからまた引っ込め、ということをしていました。
今さらもういいかな、と思ったんですが、結構労力を割いて書いた記事だったのでやっぱり表に出しておこう、と思いました。(2024.8.10)

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(以下、一旦引っ込めた後、2023.2.17に追記した文章です)

だいぶ前(2022年6月)に書いた記事です。
公開範囲設定等も忘れていたのですが、確かあるブログへのコメントからしか跳べないようになっていたのではないかと思っていたのですが、その割にはたくさんのアクセスがあるので、もしかしたらどこからでも読めるようになっていたのかもしれません。

私もこの記事書くにあたっては相当な労力を割いたのでした。図書館で調べものしたり、外国語の文献読んだり。
ただ、専門外のことですし、思いつきで書いていますので、いろいろ誤りもあるかとは思いますが、一旦公にさらすことでご批評ご意見賜れれば嬉しく思います。

-------------------------------- 以下、本記事-------------------------------------

チャイコフスキー作曲の「くるみ割り人形」に登場する「葦笛の踊り」のタイトルについて、なぜそのような名前となったのかを調べてみました。

最初から結論を申し上げて恐縮ですが、今のところ答えは出ていません。理由は以下の文章の中で述べていきますが、最後に一応の現時点での推測みたいなことも書いておきたいと思います。

1.「くるみ割り人形」成立史
これについては調べればすぐに見つかることなので簡単に触れるにとどめておきます。
原作:E.T.A.Hoffman『Nußknacker und Mausekönig』(邦題『くるみ割り人形とねずみの王様』)1816年
         ↓
翻案:Alexandre Duma『Histoire d'un casse-noisette』
(邦題では『ハシバミ割り物語』などとなっているが、原題を直訳すれば『くるみ割りの歴史』)1845年
         ↓
チャイコフスキー、バレエ初演に先立ち8曲のみで「バレエ組曲 くるみ割り人形」発表 1892年3月
         ↓
バレエ音楽「くるみ割り人形」Op.71 作曲、バレエ初演 1892年12月

ここでふと疑問が。チャイコフスキーが作曲した時のタイトルは何語だったのか?ロシア語?フランス語?
結局、今のところここがわからないため答えを出すのに難航しているのですが、それはさておいて。

2.〈mirliton〉についてのあれこれ
フランス語の〈mirliton〉についてはいくつかの異なる意味があります。
①葦の横笛 ②鉄道標識の一種 ③騎兵の帽子 ④お菓子の名前
④のお菓子の名前の由来は、③の騎兵の帽子に形が似ているから、だそうです。

①「葦の横笛」について、一説では「カズー」というおもちゃの笛とするものもあります。が、見た目がかなり葦の横笛とは違うような気がします。

ついでに。②について。

見た目が横笛と似ている。


ここでは②と③は関係ないので、①葦の横笛、④お菓子の名前、についてみていきたいと思います。

3.チャイコフスキーが作曲した時のタイトル及びバレエ作品のタイトルがフランス語〈Les Mirlitons〉であったと仮定した場合
「仮定」も何も、たぶんこっちなのでは?とは思うのですが、とりあえず。
〈mirliton〉に複数の意味があることは上述した通りです。
だとすると、この踊りは「笛の踊り」なのか、「ミルリトンというお菓子の踊り」なのか。
この曲はバレエ音楽「くるみ割り人形」では第2幕第12曲のディヴェルティスマンとして登場します。1.「スペインの踊り(チョコレートの精)」,
2.「アラビアの踊り(コーヒーの精)」,3.「中国の踊り(お茶の精)」4.「トレパーク:ロシアの踊り(大麦糖の精)」,5.「葦笛の踊り:フランスの踊り(笛?それともミルリトン?の精)」,6.「ジゴーニュ小母さんと道化たち」(ジゴーニュ小母さんの大きなスカートの中からボンボンが飛び出してくるのでボンボンの踊り?)

更に第2幕第13曲「花のワルツ」は粉砂糖の精の踊り、第14曲「パ・ド・ドゥ」は金平糖の精、より正しくはドラジェの精の踊り。

こうしてみてみると、踊りはいずれもなにかしらの食べ物・飲み物の精の踊りとなっている、とすれば「葦笛の踊り」も「笛」ではなく「ミルリトン」の精の踊りと考えた方が妥当なのではないか、と思ったのです。
しかし、実際のバレエの映像を見てみると、何の踊りなのか実はよくわからなかったりします。「3本の笛の踊り」とするもの。これなら「葦笛の踊り」です。また一方で農婦風の人物が出てきて踊るので「フランスのお菓子の踊り」とする解釈もあります。結局のところ、よくわからない。
(※ついでながら私が観たものの中では2007年マリインスキーで3匹のミツバチみたいな恰好で踊っているのもありました・・・ "Щелкунчик" Балет Мариинского театра - YouTube 58分あたりで出てきます)

4.チャイコフスキーが作曲した時のタイトル及びバレエ作品のタイトルがロシア語〈Танец пастушков〉であったと仮定した場合
そもそもチャイコフスキーはロシア人。それならばロシア語で表記したとも考えられなくはないか?(バレエ作品であること、バレエ作品としての「くるみ割り人形」成立の過程、また当時のロシアが強くフランス文化の影響を受けていることなどから考えてタイトルはフランス語であると考えていますが、ロシア語の表記となっている場合もあるようです)
ロシア語の〈пастушков〉(”パストゥシュコフ”みたいな発音。”パストラル”に通じる発音。だから羊飼いとか牧人とか)は「羊飼い」という意味。どこにも「葦笛」(やお菓子の「ミルリトン」)の意味はありません。
となると・・・この場合、「羊飼い」が笛吹いて踊っている→「葦笛の踊り」となった?
実際、音楽の方はフルート3本で羊飼いの踊りを表現しているとされています。

5.では、原作と翻案ではどうなっているのか?
実は原作にしても翻案にしても、”羊飼いが笛を吹くのに合わせて踊った”というようなことがごく簡単に書かれているだけです。今回ホフマンの原作は日本語で書かれたもの、デュマ父子の翻案はフランス語で書かれたものを見ましたが、いずれにせよ「ミルリトン」も「mirliton」もありませんでした。

6.バレエ「くるみ割り人形」の日本での初演
「葦笛の踊り」はなぜそのようなタイトルなのか?ということについて考えたとき、ではなぜ日本語ではこのように訳されたかが問題となるわけですが、これも現時点では誰が何語からこのように訳したかが不明です。
バレエの日本初演は1953年貝谷バレエ団による、というところまではわかったのですが・・・

7.結論
調べれば調べるほどわからなくなりました。
「葦でできた笛の踊り」なのか「ミルリトンというお菓子の踊り」なのか?
いろいろな資料では「アーモンド菓子でできた羊飼いが笛を吹きながら踊る」となっていることが多い?これなら「笛」であり「羊飼い」であり「菓子」でもある。

現時点での推測としては、
①ロシア語であれば「羊飼いの踊り」である。「笛」の意味はないが、羊飼いが笛を吹いて踊ることから「笛」の踊りとなった。
②フランス語であれば「葦の横笛の踊り」の意味を持つ。更にmirlitonがお菓子の名前でもあることから二重の意味を持つこととなった。

なんだか、もうどちらでもいいのでは?という気もします・・・どちらでもいい、というか、両方の意味がかけあわされているのかもしれません。
日本で「葦笛の踊り」となっているのはフランス語から「笛」の方の意味として訳したか、あるいはバレエがロシアで初演→アメリカで上演、「Dance of the reed pipes」を訳したからか。これについてもよくわかりません。

8.おわりに
ネット上の記事をいろいろと調べていると、やはり同じように「これは何の踊りなのか」という疑問を呈されたものもいくつか見つかりました。それぞれにいろいろな見解を述べられていておもしろいと思いました。
今回調べる過程で Чайковский の発音は「チャイコフスキー」というよりも「チィコフスキー」に近いという、昔習ったけどあやふやになっていたこともはっきりしました。
そういえば数年前に実際の舞台を鑑賞したことがありました。あの時はストーリーが謎な部分もありましたが、今回調べてみてなぜ疑問を感じたのかがわかりました。原作・翻案とバレエ作品ではストーリーが異なること、またバレエ作品も脚本が数種類あることもわかりました。原作も翻案も読めたので、またいつか機会があればバレエ、もう一度きちんと観てみたいです。
原作・翻案には「マリー」「フリッツ」という兄妹が登場しますが、森鷗外の長女は「茉莉」次男は「不律」だった、などということまで思い出してしまいましたが、こちらは「くるみ割り人形」とは無関係でしょう。
ちょっとした好奇心から調べ始めたことがここまでひろがるとは・・・おもしろかったです。

《参考文献その他》
『くるみ割り人形とねずみの王さま / ブランビラ王女』(ホフマン著 ; 大島かおり訳 / 光文社新書 / 2015)
『Histoire d'uncasse-noisette(Annotee)』(Aleandre Dumas著 / A&C PUBS)
『プチ・ロワイヤル仏和辞典』(田村毅他 編/ 旺文社)
『岩波ロシヤ語辞典』(八杉貞利 著 / 岩波書店)
Wikipedia 他インターネット上のサイトもいろいろと参考にさせていただきました。





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(以下、後記。2024.8.10)
最初に「あるブログへのコメントからしか跳べないようになっていた」と書きました。
「あるブログ」とは、前に習っていたピアノの先生のブログでした。
この記事を最初に投稿した2022年ころ、先生(たち)は定期的に演奏を動画サイト上にあげるという企画をやっていました。その動画に付随して曲の説明や背景等をブログに書いていたんです。それで、ある時チャイコフスキー「くるみ割り人形」より「葦笛の踊り」の演奏をあげた時のブログに「『くるみ割り人形』の他の曲はいずれもお菓子の曲なのに『葦笛の踊り』だけタイトルがお菓子ではない。それではこの曲は何のお菓子の曲なのか。私は分からなかったので、誰か知っている人がいたら教えてください」みたいなことが書いてあったんです。で、「それならば」と調べた。そして先生のブログからこの記事に跳べるようにした、ということだったんじゃないかな、と思います。

図書館で調べたり、洋書を読んだり、と結構頑張ったんですよ。
ま、あんまりたいしたことない文章ですけど。

頑張ったんだけど、先生からは「コメントありがとう」とは言われたけど、中味については何も反応がなくてかなりがっかりしました。
期待しちゃいけなかった。

先生からの反応はあんまりでしたけど、でも自分の勉強にはものすごくなったのでそれはそれでよかったと思います。



今回、なんで再びこの記事を出そうと思ったのかというと・・・「カズー」の実物を見たからでした。
「カズー?あれ、この名前、記憶にある」と思ってよくよく思い出したら、この記事書いた時に見た名前でした。
「カズー」はオカリナみたいな見た目の楽器で、「葦笛」とは違うかな?
ということで。「カズー」はやっぱり「葦笛」ではなさそうです。





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