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休職新聞 夕刊あるいは短篇

近所の八百屋さんの女の子の猫に引っかかれた。
かなり強烈なガブリつき?であった。
久しぶりに利き手から血がダラダラ。

まぁ、猫のやることだし、私が可愛くてついなで過ぎたんだろうな。
たしか、人で言えば「熟女」にさしかかるお年頃と店主(飼い主)さんも言ってたよな。
猫にも更年期はあるのか?
あるとしたら、同士ではないか!
昔の少年漫画にありがちな殴り合った後、爽やかに「貴様」「俺」的な友情の証?!

でも猫的にはどうだったんだろう。
ということで小品を一つ。

『令和 妾(アタクシ)は猫である』

妾(アタクシ)は猫である。
名前は花(はな)。
都会のベッドタウンの小さな商店街の八百屋さんに住んでいる。今年で6歳。一昨年の秋までは夫もいたけど、夫は流行り病で呆気なく天国に行ってしまい、今は実の娘と養女と暮らしている。
(実の娘は、いわゆる『かまってちゃん』で1日中、ひっつくのでストレスがたまり、ヒステリーを起こしたアタクシのためにご主人が近所から養女をもらってくださったのよ)
娘たちとは日替わりでひがな店番をしている。

午前中は、いわゆる中高年の主婦がやたらと声をかけてくる。「かわいいわね〜、ミミ〜」だの「今日は天気良くてよかったわね」だの、人の名前を間違えるわ、どうでもいい話をふりならがら撫でてくる。
まぁ働き者のちゃんとした手だし、まだ店番前半戦、あたしもおとなしく撫でられてあげてる。

昼過ぎ、タバコ吸ったり(喫煙可スポットが近いの)隣のラーメン屋の客があたしに話しかける。何を言ってるかさっぱりわからない。早口過ぎたり、ヤニ臭くてあたくしが上の空だったり。そしてたいていそんな時間にあいつはやってくる。

数年前に飼い猫が天国に行ったという年齢不詳の女。手や爪にこだわりが強いらしく、消毒スプレーやハンドクリーム、ネイルケアオイルの匂いがプンプン。正直、あたくしのあまり好きではない、苦手な匂いをさせる女。その手がアタクシを撫でる。
「今日はさむいね。なのに店番して偉いね」とか「ダンナさんの分まで長生きしてね」とか語りかけながら撫でていく。正直、余計なお世話。夫がいようがいまいがアタクシはアタクシの生きたいように生きるし。ついでに朝の出掛けに夫の忘れ形見のあの娘が陽だまりで毛づくろいしてるのを見てたら、亡き夫の嫌なとこを思い出してアタクシ、イライラしてたのよね。(妊婦のアタクシを差し置いて、陽だまりで寝そべる夫とか)

そんなイライラのアタクシのとこに来たのが例の年齢不詳の女。アルコールスプレーをしたばかりの手で撫でくりまわしながら「今日も店番、偉いね〜。◯◯ちゃん(夫の名前)の分まで長生きしてね」とか言い出す始末。

夫の名前を聞いた瞬間、イライラ最高潮。
アルコールスプレー臭い、プヨプヨした手に研ぎ澄ました私の爪を食らわせてやったわ。
午前中にやってくる主婦連と違い、明らかに家事不慣れな手。トロい女は引っ込める前に血だるまに。

「あー。更年期復活かなぁ、花ぁ〜」と間抜けな言葉を残し手を振る女。
勝手に同族意識を持って、花持ちならない女である。あんたみたいなボヤッとした中年太り女と一緒にしないでほしい。
アタクシ、毎日朝晩、自宅で毛づくろいにストレッチに余念がないからこそのこの美貌。この天然の美しさに勝てると思って?

そうこうするうちに苦手な小学生軍団が。
子供って苦手なのよね。自分の子でさえ手に剰ってるのに、ヒトの子なんて。

奥の倉庫に移動しお気に入りの毛布の上でしばしお昼寝。パパ(飼い主)がちゅーるを持ってくるまでゆっくりさせてもらうかしらね。

追記
あの年齢不詳女ときたら夕方、もう一度、来たのよね。勝手に「絆創膏もしたし、仲直りしよ」ですって。図々しいわね。

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