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《秋山三階節》~越後から伝わった江戸の流行り唄の系譜(長野県下水内郡栄村)
秋山郷は新潟県津南町を流れる中津川の上流に位置する山里で、越後秋山(新潟県中魚沼郡津南町)と信州秋山(長野県下水内郡栄村)からなる地域の総称です。古くから、上野国(現在の群馬県)草津の平勝秀が源頼朝に敗れて落ち延びた等の平家落人伝説を残す秘境です。
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農業が主な産業でかつては焼畑も行われていたそうです。また豪雪地としても知られ、人々は雪の下に半年暮らさなければならず、「陸の孤島」と呼ばれるほど厳しい生活環境でした。その秋山に、信州では唯一、越後由来の《三階節》が歌われてきました。
唄の背景
最後の文句を3回繰り返す「三回節」
《三階節》の「三階」とは、素唄の最終句を3回繰り返すために「三回節」と呼ばれ、やがて「三階節」の字を当てたものとされています。その源流は江戸などで流行った《ヤッショメ節》であるといわれています。
〽︎[音頭]
チョイト京橋 日本橋 ハイ両国
[付け]
両国 板橋 どちらへ 行こかの思案橋
[返し音頭]
チョイト行こかの思案橋 ハイ両国
[付け]
両国 板橋 どちらへ 行こかの思案橋
この歌詞では、音頭の最終句 〽︎行こかの思案橋 を3回繰り返します。この形式の「三階節」は越後由来の盆踊り唄として知られています。
越後の三階節の移入
「三階節」といえば、《柏崎三階節》(新潟県柏崎市)が全国的にもよく知られています。その源流とされるた《ヤッショメ節》が柏崎の花街にも伝えられ、お座敷唄として三味線や鳴り物入りで歌われるようになりました。
〽︎柏崎から 椎谷まで 間に
荒浜 荒砂 悪田の渡しが 無かよかろ
ハァー無かよかろ 間に
荒浜 荒砂 悪田の渡しが 無かよかろ
(ハ ヤラシャレ ヤラシャレ)
また、出家した方を呼ぶ「出家さん」を「しげさ」とか「しゅげさ」といい、その歌詞の出だしをとって「しげさ節」ともいわれてきたそうです。
〽︎しげさしげさと 声がする しげさ
しげさの御勧化 山坂越えても 参りたや
ハァー参りたや しげさ
しげさの御勧化 山坂越えても 参りたや
柏崎市周辺では、いわゆるお座敷唄調の《柏崎三階節》の他に、盆踊り唄として素朴な《野良三階節》が歌われています。また、それよりも古調と思われる《おいな》や《三階節》とは同系統の《しげさ》という曲名の唄も歌われています。そして、これらの唄は柏崎を中心に頚城地方から魚沼地方にも歌われています。
なお、隠岐島を代表する《しげさ節》(島根県隠岐島)も「しげさ(しゅげさ)」の同系統の民謡として伝わっています。また、俗曲《猫じゃ猫じゃ》(オッチョコチョイ節)も同系統唄として歌われています。
一方、「三階節」は頚城地方だけではなく魚沼地方でも歌われています。《十日町三階節》(新潟県十日町市)では、
〽︎チョイト立てる風車 人が
行くやら来るやら くるりと回るのが 風車
回るのが 風車 人が
行くやら来るやら くるりと回るのが 風車
といった歌詞で歌われています。
秋山郷へはどのように伝わったものでしょうか。
独特な曲調に変化した秋山の三階節
詞型からはまちがいなく「三階節」と同系統で、曲名のとおり3回の繰返しも同じです。旋律のリズム感は、お座敷唄調の《三階節》よりは、《十日町三階節》や柏崎の《おいな》に似た雰囲気を感じさせます。高田瞽女一行が秋山に伝えたという説もあるようですが、高田瞽女は《三階節》より古調の《しげさ》を稽古曲として伝えていますが、曲調としてはむしろ《しげさ》に似た雰囲気を感じさせます。
ところで、この旋律は大変独特なメロディラインであると感じます。音組織は[ソ-ラ-ド-レ-ミ-ソ]で、音階の構成音としては民謡音階のようですが、旋律の動きが日本民謡には珍しく音階を順次進行するよりも、跳躍する音程が多いところが大変特徴的であると思います。
音楽的特徴
拍子
2拍子
音組織/音域
民謡音階/1オクターブ
![](https://assets.st-note.com/img/1704609239910-KoHT20Uhcu.jpg?width=1200)
歌詞の構造
詞型は冒頭の「チョイト」を外せば、上の句が45調、「ハイ」を挟んで、下の句の前半の詞(3文字あるいは4文字)を歌って上の句を切ります。続けて、下の句が885調で付けます。その後、音頭が最終句(5文字)を、その直前の歌詞(4文字)から返します。その後は、再び885調の下の句を付けます。従って、素唄の終わりの9文字を三回繰り返すこととなり、曲名の「三階節」の特徴となっています。
〽︎[音頭]
チョイト京橋 日本橋 ハイ両国
[付け]
両国 板橋 どちらへ 行こかの思案橋
[返し音頭]
チョイト行こかの思案橋 ハイ両国
[付け]
両国 板橋 どちらへ 行こかの思案橋
演奏形態
歌(音頭の独唱)
付け(複数人)
下記には《秋山三階節》の楽譜を掲載しました。
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