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《外川節》(秋山木流し唄)~秋山郷最奥の木流し職人が歌った三行詩(長野県下水内郡栄村)

秋山郷は新潟県津南町を流れる中津川の上流に位置する山里で、越後秋山(新潟県中魚沼郡津南町)と信州秋山(長野県下水内郡栄村)からなる地域の総称です。古くから、上野国(現在の群馬県)草津の平勝秀が源頼朝に敗れて落ち延びた等の平家落人伝説を残す秘境です。農業が主な産業でかつては焼畑も行われていたそうです。また豪雪地としても知られ、人々は雪の下に半年暮らさなければならず、「陸の孤島」と呼ばれるほど厳しい生活環境でした。
その秋山郷で最奥の雑魚川の支流、外川で木流し作業を歌った《外川節》があります。


唄の背景

秋山の木材を切り出し、木流しに従事した人々の唄
秋山郷では、木鉢や座卓などを製作する木工業が知られていますが、江戸末期までは木材の企画商品化は行われず、いわゆる林業は盛んでなかったようです。明治後半から大正年間にかけては、新潟県の業者が秋山入りして、材木を切り出すようになったのだそうです。秋山郷を流れる中津川は、大正時代になってその下流から水力発電の開発が進んでいきます。

中津川(屋敷集落付近)

温泉でも知られる秋山郷最奥の切明には、昭和30年に運用を開始した切明発電所がありますが、その付近で中津川に合流するのが雑魚川。その源流は志賀高原で、切明から雑魚川をさかのぼる途中のいくつかある支流の1つが外川です。

この地で、直江津(現新潟県上越市)のホーデン製材会社が、明治40年(1907)に「外川事業」として秋山郷の木を切り出すようになったのだそうです。

〽︎一つとセー
 人の通わぬ 外川へ
 数百年来 植え立ちし
 松や椹や 樅 桧

と歌われるように、秋山でもなかなか人が訪ねることのない場所であったようです。この場所で木を伐採し、木材を川に流して運搬したといいます。かつては水量も多く、滝もあるなど、大変な作業で、中津川のことを「人取り川」などと呼ばれるほど、危険な作業であったようです。

読売りの歌った数え唄が定着
この唄は1番から10番までの数え唄形式となっています。歌詞の構成は上の句が2句、中の句が2句、下の句が2句からなり、詞型は75+85+75調となっています。また、数え唄形式ですので、番数と各唄の出だしの詞の音を揃えるようになっています。
こうした数え唄は、全国各地に民謡として残されています。例えば、千葉県の《銚子大漁節》(千葉県銚子市)では、

〽︎一つとセー
 一番ずつに 積み立てて
 川口押し込む 大矢声
 エーコノ大漁船

がよく知られています。
数え唄にはいくつかありますが、この《外川節》の源流は、読売りの人々が歌っていた「読売り節」です。「読売り」とは、世の中の出来事を瓦版として印刷し、読み聞かせながら売り歩くことです。竹内によれば、客にその物語を語る「口説節」と、歩きながら客を集めるための「一つとせ」とがあるのだそうです。この《外川節》は、後者の「一つとせ節」のメロディに秋山の木流しのストーリーの歌詞を作って歌われたものです。
《銚子大漁節》よりも《外川節》に似た旋律の民謡には、伊豆七島は新島の《新島大漁節》(東京都新島村)があります。

〽︎一つとセー
 日の出に船ぎり 積み込んで
 前浜押し込む 賑やかさ
 コラ前浜押し込む 賑やかさ

また、秋田県の遊行の唄《八郎節》も同様の民謡です。歌詞は次のように歌われています。

〽︎一つとセー
 人は一代 名は末代よ
 恋に上下の 隔てなし
 八郎様には 田沢姫

《新島大漁節》は第3・4句目を再び繰り返す形になっています。《八郎節》は、第5・6句目までの歌詞となっています。《外川節》の歌詞は、《八郎節》に似たような歌詞の構造で、上の句、中の句、下の句と続く、いわば三行詩のような歌詞の構造です。
秋山郷では、この大変危険でもあった木流しに従事した人々が、この唄を歌い出しました。このように、各地に同系統の唄が残されていますので、秋山郷でもこうした読売りの唄に木流しの歌詞を作り、「木流し唄」として歌い出されたました。


音楽的特徴

拍子
2拍子系

音組織/音域
民謡音階/1オクターブと5度

外川節の音域:1オクターブと5度

歌詞の構造 
番数を示す「一つとセー」を歌ってから、上の句75調、中の句85調、下の句75調の3部分からなるもので、途中にハヤシ詞はなく、ソロで歌うことができます。特に下の句の第5・6句目はややはずみのあるリズムになる特徴があります。

〽︎一つとセー
 人の通わぬ 外川へ
 数百年来 植え立ちし
 松や椹や 樅 桧

演奏形態
歌(独唱)

下記には《外川節(秋山木流し唄)》の楽譜を掲載しました。

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