愛知県の民謡~岡崎五万石
この唄は岡崎市(愛知県岡崎市)の花柳界のお酒の席で歌われたものです。別名としては、単に《五万石》とも呼ばれます。
■曲の背景
木遣りをもとにしたお座敷唄
岡崎といえば徳川家康が生まれた土地として知られています。「五万石」とは領地としては決して大藩ではありませんが、岡崎の人々は家康の出身地ということで、誇りとしてきました。
〽︎五万石でも 岡崎様は アーヨイコノシャンセ
お城下まで 船が着くションガイナ
アーヤレコノ船が着く
お城下まで 船が ン着くションガイナ
アーヨーイヨーイヨイコノシャンセ
まだまだ囃そう
詞の基本は、以下の通りです。
〽︎五万石でも 岡崎様は
お城下まで 船が着く
7775調の甚句系の詞型となっています。そこにハヤシ詞「アーヨイコノシャンセ」「ションガイナ」等が添えられます。これらは歌い手とは別の歌バヤシが歌うものではなく、歌い手がすべて歌います。
この「アーヨイコノシャンセ」「ションガイナ」といったハヤシ詞は、木遣りや作業歌で見られます。竹内勉は東海地方の「ヨイコノ木遣り」という歌が源流で、それがお座敷で歌われるようになったとしています[竹内 2018:483-484]。
これが江戸でも歌われるようになりますが、地元の岡崎ではあまり歌われなくなり、むしろ端唄や小唄として歌われていました。
一方、岡崎では新民謡運動の頃、昭和2年(1972)に、野口雨情が作詞、中山晋平が作曲した《岡崎小唄》が歌い出されるようになり、古くからの《五万石》についても再び歌われるようになり、詞を整え、格調高く演奏されるようになりました。
■音楽的な要素
曲の分類
お座敷歌
演奏スタイル
歌
三味線
※篠笛、小鼓等を入れて、お座敷の雰囲気を感じさせる伴奏もあります
拍子
2拍子
音組織/音域
都節音階/1オクターブと3度
曲の構造/特徴
①すべて独唱。7775調の歌詞を一通り歌うと、アーヤーレコノで最終句の第4句目「船が着く」を歌い、続けて下の句(第3・4句目)を再び同じメロディで繰り返します。最後は「まだまだ」までメロディックに歌い、「囃そう」で高らかに歌い上げて曲を閉じます。
②歌と三味線の旋律が、不即不離の関係でズレていく、端唄調の特徴を有しています。
③臨時的に半音上がるメロディライン(歌詞では「おかざ(ア)きさまは」の「ア」、「ふねがつく」の「ふ」等)が特徴的で、律のテトラコルドの雰囲気を醸し出し、曲全体の中で粋さを感じさせます。
■評価例
[知識・技能]
①三味線の伴奏に乗って、宴会のお座敷で格調高く歌われていることに気付いている。
[思考・判断・表現]
①都節音階のもつしっとりとした感じを聴き取り、宴会の席での上品な雰囲気につながっていることとの関わりについて考えている。
②歌パートと三味線パートの旋律が全く同じではなく、ズレていることを聴き取り、その働きの面白さを感じ取りながら、曲全体を味わっている。
[主体的に学習に取り組む態度]
①《岡崎五万石》が宴会の席で歌われてきたことや、歌パートと三味線パートのズレがあることなどの特徴などに興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に学習に取り組もうとしている。
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