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Regonn&Curry.fm Episode 111収録後記 データ分析コンペで獲得した賞金の税金

このnoteは、Regonn&Curry.fm というポッドキャストの第111回の収録後記です。

話したことはこちらのscrapboxから。

111回では、KaggleOpsを考える ~ MLflow + Colaboratory + Kaggle Notebook ~やGPUについて話しました。
110回の放送で、コンペで獲得した賞金についても話しますと予告したのですが、放送で話せなかったため、この収録後記で書いてみます。

正確性のためにやや長くなってしまいました。

また、この内容は2021年1月時点の法令に基づき書いており、また、私の個人的な解釈で書いているため、実際に賞金を獲得した場合には、ご自身で法律を読んだり、税理士に相談するなどして判断ください。

また、このテーマについては、112回でも話す予定です。


所得税の仕組み

所得税の計算上、まず「総所得金額」という1年の所得の金額を算出する必要があります。

この「総所得金額」を求めるのは下図のようにかなり複雑になっています。(下図は税務大学校講本 所得税法(令和2年度版)50ページより引用)

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各所得の概要は下図の通り。(下図は税務大学校講本 所得税法(令和2年度版)40ページより引用)

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得た収入がどの収入にあたるかは、自分の好きに区分できるのではなく、その収入の態様に応じて区分する必要があります。

コンペで得た収入がどの収入にあたるか

データ分析コンペで得た収入は、一時所得にあたることが多いと思います。

一時所得について、所得税法の規定は次の通り。

第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。

税務大学校の講本だと、一時所得は次のように説明されています。

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営利を目的とせず、労務の対価性や資産の譲渡の対価性がないものは、一時所得とされます。

この一時所得の特徴としては、「50万円」と「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」を控除できること、及び合計所得金額を計算するときに、1/2することです。

先ほどの図でいうと、次の赤枠の箇所です。

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一時所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外」であることが要件となっているため、例えば営利を目的としてコンペに参加しているプロkagglerのような人の収入は、事業所得や雑所得に該当することになると思います。
このような方は、とても少ないと思われるので、一時所得に該当するとして話をすすめましょう。

一時所得の金額計算の仕方

一時所得の金額計算の仕方は、税務大学校講本 所得税法(令和2年度版)34ページでは次のように説明されています。

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一時所得の金額 = 総収入金額 - その収入を得るために支出した金額 - 一時所得の特別控除額(最高50万円)

「総収入金額」は、コンペで得た賞金の額なので、すぐに算出できると思います。

「その収入を得るために支出した金額」は、やや難しいです。
法律では次のように書かれているものです。

2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。

コンペの賞金を得るために支出した金額ということで、そのコンペにかかったサーバ代や書籍代などでしょうか。

細かい話になりますが、このサーバ代が、最終モデル作成に使ったものだけなのか、そのコンペにかかった全てのサーバ代なのかは、難しい論点な気がします。
(個人的には、そのコンペにかかった全ての代金全てが認められると思っていました。ただ、ハズレ馬券を経費に含められるかという事例で、当たり馬券と同一のレースのハズレ馬券は経費にならないとして、一旦課税と課税処分があったことを考えると(後に、裁判で一時所得ではないとされたので結論はわからず。馬券裁判より。)、簡単には判断できない論点だとも思います。)

「総収入金額」から「その収入を得るために支出した金額」を控除し、更に50万円を限度に控除できることになります。

税金の計算方法

所得税を計算するにあたり、次の3つのパターンを考えてみましょう。いずれも扶養などはなしとします。給与所得の計算など複雑であるため、細かい部分は省略し、国税庁の確定申告書計算コーナーで計算することにします。

1. 給与収入5,000千円、支払った社会保険料676千円
2. 給与収入5,000千円、支払った社会保険料676千円、コンペの賞金2,000千円、要した費用0円
3. 給与収入0円、コンペの賞金200万円、要した費用0円

1. 給与収入5,000千円、支払った社会保険料676千円の場合

国税庁の確定申告書計算コーナーで計算すると、所得税の額(復興特別所得税は除く)は、142,900円となりました。


2. 給与収入5,000千円、支払った社会保険料676千円、コンペの賞金2,000千円、要した費用0円の場合

2.のパターンは、年収500万円の方が、コンペで200万円の賞金を得た場合、どれぐらいの税金がかかるかという例です。

合計所得金額の計算する際、一時所得は、200万から50万円を控除し、1/2をするため、1.のパターンよりも75万円増えることになります。

所得税の額も、217,900円と7.5万円増えました。

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上の速算表のように、税率10%の区分なので、10%が税金になっています。


3. 給与収入0円、コンペの賞金200万円、要した費用0円の場合

これは収入のない学生がコンペで200万円を獲得したというような例です。

2.と同様の計算により合計所得金額は75万円となります。そこから基礎控除の48万円を引くため、課税される所得金額は27万円となります。

この5%が税金となるため、所得税額は13,500円となりました。

確定申告義務

一時所得は年末調整に含めることはできないので、確定申告をする必要があります。

ただし、次の規定のように確定申告を要しない場合が定められています。

(確定所得申告を要しない場合)
第百二十一条 その年において給与所得を有する居住者で、その年中に支払を受けるべき第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この項において「給与等」という。)の金額が二千万円以下であるものは、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税総所得金額及び課税山林所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。ただし、不動産その他の資産をその給与所得に係る給与等の支払者の事業の用に供することによりその対価の支払を受ける場合その他の政令で定める場合は、この限りでない。
一 一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について第百八十三条(給与所得に係る源泉徴収義務)又は第百九十条(年末調整)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合において、その年分の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額(以下この項において「給与所得及び退職所得以外の所得金額」という。)が二十万円以下であるとき。

給与等の金額が2千万円以下でかつ年末調整を受けた場合で、次の算式で計算される一時所得の金額が20万円以下である場合(他の所得がない場合、他の所得がある場合はそれと合計して20万円以下)は、確定申告は要しないこととなります。

一時所得の金額 = 総収入金額 - その収入を得るために支出した金額 - 一時所得の特別控除額(最高50万円)


なお、確定申告は要しないのは、確定申告をしない時だけであり、確定申告をする場合(例えば医療費控除や住宅借入金特別控除を受けるために確定申告をするなど)には、一時所得の金額が20万円以下であっても、申告する必要があるので気をつけましょう。

また、国税の申告は不要であっても、地方税の申告は必要なことにも気をつけましょう。

地方税(住民税)

確定申告をした場合、市区町村にも連絡がいき、所得税額の10%の住民税が課税されます。

収入の計上時期

少し細かいですが、いつの年度の収入にすべきかという論点です。

国税庁の通達では次のようになっています。

36-13 一時所得の総収入金額の収入すべき時期は、その支払を受けた日によるものとする。ただし、その支払を受けるべき金額がその日前に支払者から通知されているものについては、当該通知を受けた日により、令第183条第2項《生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算》に規定する生命保険契約等に基づく一時金又は令第184条第4項《損害保険契約等に基づく満期返戻金等》に規定する損害保険契約等に基づく満期返戻金等のようなものについては、その支払を受けるべき事実が生じた日による。(平11課所4-1改正)

基本的には、支払いを受けた日に計上しておけば問題ないと思います。

ただし、Winners callが終わって、賞金支払いの手続きがはじまったのに、口座番号をこちらの都合で教えなかった場合など、もしかしたら賞金支払いの手続きがはじまった時点が、収入とすべき年度となるかもしれません。

終わりに

途中、コンペで200万円の賞金を獲得した場合の例を書きましたが、意外と所得税はかからないんだなーと思いました。

国税庁の確定申告書計算コーナーで、簡単に計算ができるため、賞金を獲得した場合は、自身の年収の概算などで入力して計算してみると良いと思います。

また、kaggleで賞金を獲得した後の手続きについては、次の記事を参考にしてもらえればと思います。



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