吊られるイナンナ【オンライン・キャプション】
キャプション(作品の横にはっておく、作家名とか題名とかを書いたやつ)って小さすぎません?キャプションに書ききれない作品情報を解説するのが電脳キャプションです。
作品の制作手法はこちらのnoteで解説してます。
吊られるイナンナ
サイズ:SMサイズ
マテリアル:アクリル板 アクリルガッシュ ステンレスネジ
2019年8月
メソポタミア神話の豊穣の女神イナンナ(イシュタル)をモチーフにした作品です。
透明アクリル板と、不透明のイエローアクリル板の組み合わせです。
※以下は、わたしがWikipediaとか書籍などを読んで考えた自己解釈です。専門性はまるで無いので、信頼せず、娯楽作品としてお読みください。
元ネタ:イナンナの冥界下り
イナンナはメソポタミア神話の愛と豊穣の女神。彼女には冥府の女王エレシュキガルというヤバい姉さんがいます。(妹が美しい豊穣の女神、姉が醜い死の女神という構図は日本神話のコノハナサクヤビメとイワナガヒメの話にも似ているような気がします。)
何を思ったか、お姉さんに会いに冥府に行こうと思い立ったイナンナ。
冥府の女王に会うまでには7つの門があります。お姉さんは、門を通るごとに、身に着けているものを一つずつ置いていくことを条件に、妹が門を通るのを許します。受動的な追いはぎって感じですね。
で、お姉さんに会いたいイナンナは言われたとおりに門をくぐり、服やアクセサリーをバンバンはぎとられていきます。ちなみに、作品の右から伸びている7本の手は、冥界の門番たちのイメージです。
イナンナが身に着けているアイテムには魔力が宿っています。7つ目の門でドレスをはぎとられてしまったイナンナは素っ裸でエレシュキガルの前へ。そして、マジックアイテムをすべて失った状態のイナンナは、エレシュキガルの邪眼によって殺され(監禁されたという説もある)門に吊るされてしまいます。
冥界の女王という裏ボス的な存在に武器・防具ゼロ装備という舐めプをかましたらそうなりますよね、女神とはいえ舐めプしたら普通に死ぬということがよく分かります。
で、豊穣の女神が冥界から帰ってこない。これにより、地上では「子供が生まれない」というとんでもない危機が起こります。動物・人間問わず、出生率ゼロ。最悪。このままじゃ少子化からの滅亡待ったなしです。
さすがにヤバイな、と思った知恵の神がイナンナの従者とコンタクトを取り、従者に彼女を冥界から連れ戻させるプロジェクトがスタートしました。
従者が最初にやったのは、なんと「エレシュキガルとお友達になる」ことでした。(病気になっていたのを看病したとか、いろいろなバリエーションがあるみたいですが結論は同じです)
で、十分にエンゲージメントを高めたうえで「イナンナさんを助けてあげたいんだけど…」と切り出すわけです。決裁者の承認を確実に取りに行く、法人営業の鑑ですね。無事イナンナは復活し、門をくぐるごとにはぎとられたマジックアイテムをひとつづつ回収して無事現世に復活しました、めでたしめでたし。
他にもある「女神が囚われちゃった!」的なお話
「女神が冥界に連れ去られ地上が大騒動」というプロットは、ギリシャ神話のペルセポネーの話ともよく似ていて面白いなと思っています。
ペルセポネー(春の女神)がめっちゃ美人なのでハデス(冥界の王様)が誘拐して強引に妻にしようとする。で、ペルセポネーのお母さんのデメテル(豊穣の女神)がゼウス(ギリシャ神話で一番偉い人)に直訴するんですが
「冥界の王様に見初められるなんてラッキー!よかったね☆」
みたいな感じで全然取り合ってくれず、最終的にデメテルがブチ切れ、作物は育たず家畜も生まれずヤバいことになる…みたいな話がギリシャ神話にあります。
しかしゼウス、「社長の御曹司に交際を迫られたの!?玉の輿だね!ラッキー☆」ってのたまう親社長派の部長って感じで、現代的な感覚からするとかなりヤバいですね。母がめちゃくちゃ強い女神で良かったですねとしか言いようのないセクハラストーリーです。
「なんで季節があるの?」のアンサー
イナンナは美と豊穣の女神。そしてイナンナの恋人は植物をつかさどる神タンムズです。植物は芽吹き、実をつけ、枯れ、次の春にまた芽吹く…というサイクルを繰り返す。イナンナの「豊穣」という属性もあり、この話は実りの季節のサイクルを表しているのでは?という解釈がされているそうです。
ペルセポネーの話もほぼ同じ。最終的にペルセポネーは「1年の2/3は地上で、1/3は冥界で生活しましょうね」という契約で落ち着きます。ペルセポネーが地上におらず、実りの得られない期間を我々は「冬」と呼んでいるんですよ、というお話です。
春が来るって嬉しいですよね。明るいし、気持ちいいし、一年中ずっと春でいいのに…。
なんで心地よい季節が永遠に続かないんだろう?と問いにアンサーがほしかった人々の気持ちが何となく想像できる春分の日でした。
絵の解説はマガジンにまとめていますので、興味がある方は他のnoteも見ていただけると嬉しいです!
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