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【解説】シンエヴァに納得できなかったアスカ派へ、「例のセリフ」の意味とストーリーを解説します【ネタバレ有注意】

※本文は映画の内容を含んでいます。映画を観てから読んでもらえると幸いです。

シン・エヴァンゲリオン劇場版:||、いかがだったでしょうか。
本作にも色んな要素、視点があり、どこに注目するかで感想や評価も変わってくると思います。
しかしタイトルにもある通り、式波・アスカ・ラングレーというキャラクターに焦点を当てた時、本作にモヤモヤとした不快感を覚えた方も多いのではないでしょうか。
私の感想はこうでした。

「自分はシンジのことを好きなアスカが好きだったのであって、消去法でクラスメイトとくっ付くアスカを見たくはなかった」

「だったら、破で見せたシンジへの好意や周りに嫉妬を撒き散らしていたのは何だったのか。破とQで会話すらしていない相田ケンスケとくっ付く事に何の面白味があるのか。ケンケンを許すな」

そして、シンジに対して言った


『でも、先に私が大人になっちゃった』


とは何だ。
シンジとの決別の言葉にも聞こえますが、そんな事が許されるのか。

と、つまりはアスカがケンスケに寝取られたように見えたので、ダメージを受けてしまったのです。他の人の感想を見る限り、同様のケースが相次いでいるように思われます。

しかし、上記に近い感想を持っている方は、どうか安心してください。

結論から言わせてもらうと
アスカ、シンジ、ケンスケ、
そしてアスカ派の人々全員が

最後の海辺のシーンで完全に勝利しています。
「シン」のアスカは、めちゃくちゃ可愛いです。

(無論、綾波派真希波派に対して勝利しているという意味ではないです。
綾波派も真希波派も今作では皆勝利しています)

以下、シンエヴァのストーリーをシンジとアスカ中心に出来るだけ簡潔に読み解きながら、その根拠を示していきます。
「シンではアスカが魅力的ではなかった」
「シンがそもそも良くわからなかった」という感想をお持ちの方の参考になればと思います。
(新劇場版をQまである程度理解していると、シンエヴァをより楽しめると思います。
「Qの意味がまったく分からん、めちゃくちゃだぁ」という感想をお持ちの方は、YOUTUBEの『エヴァファンch』がオススメですので、先にそちらをご覧いただくと、今からする解説もより理解しやすいかと思われます。)


全体の流れ

シンエヴァ全体の流れを、何となく思い出していただければと思います。


一行、第三村に到着する。動けないシンジ。

別波(黒波)と触れ合い、活力を取り戻していくシンジ。
村での生活、旧友との対話、別波の死を経て成長し、他人の想いを受け止められるようになる。

ヴンダー到着。乗船後ネルフ本部を強襲する事になる。
出撃直前、「寄り道したい」と、アスカとマリはシンジの元へ行き、話す。

特攻。ヴンダーがネルフ船と戦闘しながら、二号機と八号機を射出。
アスカ、マリは十三号機に接近する。

アスカが使徒の力を使い、十三号機を停止させようとするが、逆に十三号機に取り込まれることでインパクトが起こってしまう。

成長したシンジが現実と虚構の狭間、裏宇宙でゲンドウと対決。
戦闘後対話し、ゲンドウはシンジを受け入れ、ミサト達に届けてもらった新しい槍を使い、インパクトの中心がシンジになる。

槍の力を使い、初号機と第十三号機の中に保存されているアスカ・カヲル・破の綾波の魂を救っていくシンジ。最後は自らに槍を刺そうとするが、初号機の中の母が身代わりになってくれる。

別世界でマリと再会するシンジ。DSSチョーカーを外してもらい、駅の外へ駆けていく。

という構成です。
そして、アスカとシンジの部分だけを抽出すると、

第三村にて動かないシンジに怒るアスカ。

シンジが復活、同時に成長し、アスカと共にヴンダーに乗り込む。
成長したシンジに対し、同じく成長したアスカは自分の本心を告げた後、決戦に挑みます。
しかし13号機に吸収されてしまう。

シンジが13号機からアスカを救出し、アスカに自らも本心を告げ、
平和になった世界に帰してあげる

という流れになります。
以降は村編・特攻前後編・ラストと3つのパートに分け、勝利のシーンへ向かって詳細を解説していきます。

・第三村編


第三村に居る間、シンジに対してアスカは終始怒っています。
「ウザい」と罵声を浴びせ、激怒しながら乱暴に食事を口に突っ込む。
心無しか、Qの時点よりも激しい怒りのようにも見え、異様なほどです。
何故そんなに怒っているのか。

それは後のヴンダー内の会話にヒントがあります。
決戦前、ヴンダー内で『(Qで)何故私がアンタを殴ろうとしたか、わかった?』と、
アスカはシンジに問います。その答えは、
「アスカが三号機に居た時、シンジがなにも決めなかったから 助けることも殺すことも 責任を持とうとしなかったから」でした。

第三村に来た当初のシンジもそれと同じことをしています。
出された食事を食べるでもなく、かといって「いらない」と断るでもない。
何も決めず、責任を避け、黙って座っているだけ。
自分が起こしたニアサード、フォースインパクトについても同様です。
世界がコア化しつつある中、答えを出さず、行動せず、ただ時が過ぎるのを待っている。責任を持ちたくないから。

アスカはそこに激怒していたのです。
シンエヴァでは、このように何もせず他者との関わりを避け、責任から逃げている状態のシンジを「子供」と表現しています。
(ちなみに、Qの時シンジは『槍で全部やり直す』と、自分の行動とその結果を「無かったこと」にして責任から逃れようとしています。それを評しアスカは『ほんっとにガキね』と言ったわけです。やり直すという行動を取っていたQ時点と比べ、シンでは完全に何もしていないので怒りが増しているものと考えられます)

怒りと悲しみの累積

また、第三村編ではQでの「怒りと悲しみの累積」発言の詳細が分かるようになっています。Qでガラス越しにシンジを殴りつけるアスカですが、その理由は「怒りと悲しみの累積」だと言います。
Q時点では(シンジのニアサードインパクトで世界がめちゃくちゃになったせいで戦わされたり色んな人が死んだりした事を言っているのか?)と推測していました。
しかし、殴りたかった理由は『(破で)3号機にアスカが乗っていた時シンジが何も決めなかったから』だとシンで明言しています。つまり、「3号機の時」にシンジが何も決めなかった事により、「怒りと悲しみが累積」して殴りたくなったということで、どうもニアサーは関係無いらしい。「累積」とは何なのか?

本映画にはその答えが、丁寧に散りばめられていました。
アスカはシンジの口に食事を突っ込む際、「こちとらずっと水だけだ」と言い、夜は「寝たフリにも飽きた」と完全不眠である事を明かし、ケンスケは「アスカは人との接触を避けている」と言い、別波の来訪時には過敏な警戒態勢を取り、ヴンダー内のアスカ達の居住部屋には爆弾が仕込まれており、そもそも、アスカは首にDSSチョーカーが付いています。

アスカは三号機に乗っていたあの時、シンジが助けも殺しもしなかった結果として第9の使徒と融合してしまい人では無くなりました。
それどころか人間(リリン)と使徒の融合体がエヴァに乗ると覚醒出来てしまう(シンで13号機に対しアスカがやったように)ので、覚醒リスクとしてQでのシンジのような扱いを受けてきたということです。

食事の味も分からなくなり、眠れず、自分がもはや何なのかわからないまま、ネルフに狙われ、味方のはずであるヴィレ内ではいつでも爆発させられる小屋に住まされ、『ただいま』と普通に言ってしまうほど、長い期間そこで暮らしている。
そしてインパクトの原因となりうる自分は人の前に姿を見せることも出来ず、マリやミサト達数人を除き、誰とも関わること無く孤独に生きながら、ボロボロになるまで戦ってきた。

その14年間が、悲しくて、辛くて、許せなくて。
でも原因であるシンジは居ないため、ずっと怒ることもできなかった。
そしてQでやっと現れたシンジを目にして、アスカは『抑えきれない。ずっと我慢してたし』と、ガラスを割るほどのパンチを繰り出したのです。
人間でなくなった事により受けた14年間の間の苦しみ。
これが、「怒りと悲しみの累積」です。

村でのアスカの心情


そして上記で「孤独に生きてきた」と書いたことについて気になった人も多いと思いますが、ここで朗報かもしれません。


シン・エヴァンゲリオンの劇中時点では
アスカはケンケンこと相田ケンスケには心を開いていない。


これは確定と思っていいです。説明します。

第三村に居る間、アスカはゲーム機で遊んでいます。これは破の序盤、アスカが周りにまったく心を開いていない時と同じ行動です。
そしてこのゲーム機、文脈から察するにシンジにとっての音楽プレイヤー(S-DAT)と同じ意味を持つと考えるべきだと思われます。
つまりアスカはゲームをしている間は、他の人と関わらなくていいのです。
ゲーム機は自分を守ってくれる存在であり、逆を言えば孤独を感じている時にやるものです。
そしてそもそも、アスカは第三村の家で1人の時に人形に向かって「私は誰とも違ーう 今までも、これからも一人で生きていくしかないのよ」と、明言しています。

つまり、アスカは第三村の時点で誰にも心を許していない。そしてそれはケンスケも含まれている、ということです。
(ラストにも裏付けがあるので、繰り返しますが、これは確定だと思って大丈夫です。)
これは一部の人にとっては朗報なのですが、しかしアスカにとっては苦痛以外の何物でもないです。アスカは孤独をずっと感じています


そしてアスカのゲーム機はシンジの音楽プレーヤーと同様、
「子供である証」です。「自分が人間で無くなってしまった」という理由があるにせよ、後の回想で明らかになる『本当は褒めてほしい』『頭を撫でてほしかっただけ』という本当の気持ちを隠して、他者との関わりを避けるためのアイテムです。
第三村に居る時点のアスカは、シンジと同じくまだ「他人と関わることが怖い子供」です。これは重要な要素なので心に留めておいてほしいです。


第三村編をまとめると、
・アスカはシンジが何も決めず責任から逃げていることに怒っている。
・それはシンジのせいで使徒と融合した自分、
そしてその14年間分の怒りや悲しみに対する責任も全て放棄して何の返事もしないということなので、現在進行形でめちゃくちゃ怒っている。

アスカの心情としては「謝れ!」という事でも無くて、『助けることも殺すこともしなかったから殴りたかった』ということを考えると、とにかくどちらでもいいから決めてほしかった、というものだと思います。もちろん助けてもらえる方が嬉しいハズですが。なので、怒りや悲しみの累積に対してとりあえず何か返事していれば、内容に関わらずこんなには激怒してないと思われます。

(ちなみに、Qではマリ『せめて姫を助けろ!ぐずるな!』や、アスカ『ガキシンジ 助けてくれないんだ、私を』という発言がありますが、これはシンジの決断を求める台詞であると同時に、破のラストではシンジが「綾波を助ける」と自分で決断した事をマリやアスカは知っていて、『えこひいきの時は助けるって決めたのに私は助けないんだ』というジェラシーが入った発言にも見えます。可愛い)

・アスカは村に居る間はまだ他人と関わるのが怖く本心を見せることが出来ない
「子供」の状態である。

この第三村編をふまえて、次にヴンダー搭乗後の特攻前後編の解説です。


・特攻前後編

ヴンダー搭乗後~第十三号機に吸収されるまでのアスカの行動は、
「シンジに自分の気持ちを話す」「第十三号機に特攻する」の2つだけです。
しかし、ここがアニメ版旧劇場版序破Qシン、全ての集大成の肝となる部分なので、しっかりと説明したいと思います。

そして説明する点は
「ヴンダー内で、アスカは紛れもない本心をシンジに伝えている」
という点だけであり、その過程において、多くのミスリードを誘った悪魔のワードである


『でも、先に私が大人になっちゃった』

についての誤解も解けます。先に言っておくと、これはアスカがケンスケを指して言った「もう私他に好きな人いるんだよね」という意味の発言ではありません。死を前提とした決戦の前に、わざわざそんな事を言いに来るとは考えづらいです。

まずは「アスカがなぜ今までは本心を話せなかったのか」を解説することにより、「ヴンダー内ではシンジに本心を話せた根拠」を示そうと思います。
アスカが本心を話せなかった理由は二つのグループに分けられます。
・シンジ側の問題
・アスカ本人側の問題

この二つ。そしてこの二つは共通した問題でもあり、要するに
「シンジとアスカ、二人とも子供だったから」アスカは本心をシンジに打ち明けられませんでした。

言い換えれば、この両方が解決されたので、アスカは本心を話すことが出来たということです。以下、詳細を説明します。

シンジ側の問題

これはアスカが再三キレているように、
何も決めず責任から逃げるガキシンジ」であるところ、「子供だから」がアスカが本心を話せない理由です。
アスカが本心を伝えようとしても、子供のシンジではその気持ちを受け止められずまた逃げ出してしまうので、気持ちが伝わらないから言わないでおこう、というわけです。
第三村でアスカが怒っていたのは、
「シンジが子供のままだと、自分の言いたいことが伝えられないから」

です。

しかし特攻前のヴンダー内において、シンジはこの問題を解決しています。
村での生活、別波(綾波)の死を経験し、「大人になった」のです。
シン・エヴァンゲリオンにおける「大人」とは、
・医者であるトウジと話し、理解した「自分の行動に落とし前をつけること 責任を持つこと」と、
・ゲンドウの台詞『他人の死や想いを受け止められるようになったか 大人になったな、シンジ』からわかるように、「他人の死や想いを受け止められるようになること」の2つが条件だと考えられます。

シンジがヴンダーに乗りネルフに向かうという事は、「自分には父と向き合う責任がある」と自覚し、行動しているという証明です。
これは村で暮らし、トウジやケンスケと話すことで、責任を持てるようになったと思われます。
また、別波と接する事で想い(好意)と死を受け止められるようになりました。
第三村のシーンでは、食事やレーションが人の想い(好意、優しさ)の象徴となっています。

最初はアスカに無理矢理押し込められていたが(本人は『勝手に死ぬのは許せないだけ』と言っているが優しさです)、別波が持ってきたものを、時間をかけて少しずつ受け取れるようになっていきました。
『こんな僕なんてもう放っておいてほしいのに、何でみんな、こんなに優しいんだ』と言うシンジが、別波に『碇くんが好きだから』と返され、泣き、そして他人の気持ちを受け止める事を決意して成長する所はシンエヴァでも屈指の名シーンだと思います。

そしてその後別波は消えてしまいます。アスカ『初期ロットはまだ動いてるの?』の台詞から、アスカは別波がいつか消えてしまうことは知っていたようです。しかしヴンダー搭乗時以降、アスカが初期ロットについて尋ねることが無くなっています。ヴンダー搭乗時のシンジの泣き跡や表情を見て、別波が消えた事と、シンジが別波の死を受け止め、そしてその願いだった「稲刈りが出来て、もっとツバメが抱っこ出来て、ずっと好きな人と居られる」世界を作るために来た事をアスカが悟ったと考えられます。
よって、ヴンダー内に居るシンジは「大人」と呼ばれる状態で、かつアスカもそれを知っているため、特攻前の段階において、「シンジが子供だから」という理由でアスカが本心を話せなくなるということはなくなりました。

(ちなみに区別するため林原めぐみ氏の呼び方を使って「別波」と呼んでいますが、
あれは紛れもなく「綾波」であり、綾波派もまた勝利しています。念のため)

アスカ本人側の問題


こちらも、アスカが他人と関わるのが怖いと思っている「子供だから」というのが、アスカが本心を話せない理由ですが、細部がシンジの場合とは少し異なります。アスカの場合、「大人」の条件のうち、「自分の行動に落とし前をつける」の方はクリアしています。アスカは(半分シンジのせいとは言え)使徒と融合してしまった自分の現状を受け止め、覚醒リスクに対する罰の象徴「DSSチョーカー」を付けながら、ヴィレメンバーのエヴァパイロットとして自らの仕事をこなしています。その結果、北上ミドリの『式波少佐の回収はともかく、あの疫病神をこの艦に乗せるんですか』発言や、Qとシン両方で見られるミサトの『頼んだわよ、アスカ』発言などからわかるように、危険な存在でありながらもヴィレの面々からある程度の信頼を得ています。


アスカが「大人」になれない理由は「他人に自分の気持ちを伝えられないから」です。
「他人の気持ちを受け止められない」シンジとは、少し異なります。


「他人に自分の気持ちを伝えるのが怖い」から、他人と向き合えず、大人になれないのです。これはシンの終盤、アスカの子供時代の回想で明らかになります。
自分は周りと違うんだと自身に言い聞かせ、自分を追い詰めて、鍛え、他人に疎まれても競争に勝ち続けて、自分の価値を証明して…。『でも本当は誰かに頭を撫でて欲しかっただけ』だと子供アスカは言います。本当の願いは誰かに認めてもらうことでした。しかし他人に拒絶されるのが怖かったため、自分の殻に閉じこもるようになった。その結果、破のアスカのように『私はアイツらとも違ーう』『私一人で十分よ!』と発言し、ゲーム機を使い他人との関わりを絶つ人間になったのです。
これがアスカにとっての「子供」の状態だと言えます。

ですが実は、式波アスカは一度「破」でこの問題を解決しかけています。
シンジや綾波レイとの触れ合いを通じて、『最近他人と居るのもいいなって思うこともあったんだ、私らしくないけど』と、三号機搭乗前の電話でミサトに対し、他人との関わりも悪くないと思った、という本心を打ち明けているのです。
ミサトが『そんなことないわよ、アスカは優しいから』とアスカを受け入れている優しい返事をすると、アスカは
『こんな話ミサトが初めて。なんだか楽になったわ。誰かと話すのって心地良いのね、知らなかった』と続けます。誰かに自分の本心を話すのが初めてであり、それは心地よいものだったと言っています。
この調子であれば、程なくして自分を認め他人も認められる「大人」なアスカが見られるかと思うのですが、ご存知の通り第9使徒の襲来により、それは叶いませんでした。また第9使徒の襲来が原因で、アスカはまた他人との関わりを絶つようになってしまいます。

「人間ではない」から

これが、シンのアスカが再び他人との関わりを拒絶し、自分の本心を誰にも言えない理由です。

アスカは、自分が第9使徒と融合し、人間でなくなったことをすごく気にしています。「怒りと悲しみの累積」と言っているように、14年間のあいだに辛い事がたくさんあり、「自分はもう人間じゃないんだ」と思わされることになったのでしょう。
だから人間の事を「リリン」と呼び、ケンスケと接しながら暮らしているにも関わらず、人形に『今までもこれからも私は一人』と話しかけ、シンジに『あんたはまだリリンもどき!こちとらずっと水だけだ』と激昂するのです。

また、同じく自分が式波タイプのクローンだった事も心を閉ざした理由の一つです。
アスカは別波の事を「初期ロット」とモノのように呼びます。クローンは人間ではないという考えが表れているようです。
そして別波との会話で『あんたも造られたクローンで、感情もヒトっぽく見えるようにプログラミングされただけの作り物よ』と言い放ちます。クローンの持つ感情はくだらない、どうでもいいと自分を卑下しているようにも聞こえます。

人間ではない自分に絶望し、自分とは別種である人間に心を閉ざし、自分の気持ちを伝えることを拒絶している状態。
これが第三村時点でのアスカが「子供」である原因です。


『寄り道したい』


そうして第三村の時点では心を閉ざしていたアスカですが、シンジとほぼ同じタイミングで成長し、ヴンダー内では本心をシンジに打ち明けられるようになっています。成長の手助けをしたのはシンジの時と同じく別波で、
『綾波タイプはあのガキを好きになるようにプログラムされてる。作り物なのよ』と言うアスカに対し、別波は『それでもいい。好きだと思えて、良かったと思うから』と、自分がクローンであっても問題無いという答えをアスカに示します。

また、ヴンダー内ではマリに髪を切ってもらいながら、『姫が人間だっていう証拠だよ』と背中を押してもらいます。
「自分が人間ではない」という理由で他人に気持ちを伝えられないアスカでしたが、ここでゲーム機を置き、もう一度他人、そしてシンジと向き合う事を決意します。


白いプラグスーツを「死装束」と呼び、『最後だから』と何度も口にするアスカ。
この事から、ネルフに特攻する作戦にはアスカの死が含まれていることがわかります。
死ぬ前にどうしても伝えたい事があったアスカは『寄り道したい』とマリに申し出て、出撃直前にシンジの元へと向かいました。

シンジの部屋内で、まずアスカは
『私が何でアンタを殴ろうとしたか、わかった?』と尋ね、
シンジは『アスカが三号機に乗っている時何も決めなかったから』と答えます。

正解を受け取りシンジの成長を確認したアスカは『最後だから言っておく』と、前置きします。


シンジに言いたかったこと


アスカには、積み重なる怒りと悲しみの他に、シンジに抱いている気持ちがありました。
もう食べ物の味も、自分が人間なのかどうかもわからなくなって、それでもずっと忘れなかった気持ちがありました。
14年越しに、シンジに一番伝えたかった言葉。

『いつかのお弁当、おいしかった。
あの頃のアスカは、シンジのことが好きだったと思う』

他人と居るのもいいなって思わせてくれて、ありがとう。
人間だった頃、シンジのことが好きだった。
と、伝えます。


そして『でも、先に私が大人になっちゃった じゃあね』と続け、シンジの元を去ります。
「大人になっちゃった」とは、落とし前をつけるため、今から死にに行かなければならない事、14年経ち人間でなくなった今ではシンジを好きかどうかすらわからなくなった事を意味しています。
(同時に、このヴンダー内でアスカがシンジに本心を打ち明ける事によりアスカが「大人」に成長した事も表しています。)

Qではガラス越しにシンジを殴りつけ「怒りと悲しみの累積」を吐き出した時、マリに『これでスッキリした!』と言い捨てていたアスカでしたが、本心をちゃんと伝えられた今回はマリに『スッキリした?』と尋ねられ、穏やかに『うん』と答えています。

「大人」として落とし前を付けるため死地へ向かうアスカに、シンジは言葉を返せませんでした。
しかしQでのカヲルとの『君は君の安らぎの場所を見つければいい』『縁が君を導くだろう』という会話を思い出し、今の状態のアスカを「助ける」とはどういうことか考え、シンジはアスカに対しても責任を持つ事を決意します。


二号機出撃

そして、二号機は八号機と共に出撃します。
心残りが無くなり、作戦を成功させるためにマリと共に『どけェ!!!』と決死で第十三号機へと向かうアスカのシーンは、頑張り屋で責任感の強いアスカというキャラクターが表れており、素晴らしいです。
そして同じく、DSSチョーカーが発動され死が確定してしまう使徒化を使ってでも第十三号機を止めようとするアスカですが、ゲンドウの手によって第十三号機内に吸収されてしまいます。

裏宇宙へ向かったゲンドウを追うため、シンジは初号機に乗り込みます。
その際マリに『第十三号機内にアスカの意識が残っているかもしれない 助けてあげてほしい』と頼まれ、成長したシンジは『やってみるよ』と、マリの想いも受け止め、全てに決着をつけるためゲンドウの元へむかいます。


・ラストとその後

ゲンドウと対決、対話し、シンジを受け入れることが出来たゲンドウ。
その後ゲンドウの代わりにインパクトの中心になったシンジは、初号機と第13号機の中に保存されている魂たちを救っていきます。
カヲルとの会話で『僕のことはいいんだ。アスカやみんなを助けたい』と言っているように、槍を使って世界を変えるためには自らに槍を刺し、自分を犠牲にする必要があるため、この後平和になった世界にはシンジは存在できません。

アスカの幼少期の記憶を見て、アスカの願いを知るシンジ。
自分は元の世界に存在できないため、シンジはアスカを人間に戻した後、アスカを受け入れてくれる他の誰かの元へ送ることでアスカを助けることにします。

そして『誰かに頭を撫でてほしかっただけ』というアスカの願いを叶えてくれるのは、『アスカはアスカのままでいいんだよ』と言ってくれるケンスケでした。
ケンスケが選ばれた理由は、これも第三村編にきちんと散りばめられています。

ケンスケが選ばれた理由

第三村編での別波との会話で、アスカは第三村を『ここは私の守る場所よ』と言っています。これはシン時点で新たに出来たアスカの役割ではなく、以前から行われている任務です。(これは第三村に居るあいだ、アスカが直接ミサト達と連絡を取っているシーンがなく新たな命令も受けていないだろう事と、シン序盤でシンジ達を迎えに来た時点でケンスケはアスカと面識がある口ぶりのためわかります)

第三村、ヴィレ、アスカ、ケンスケの関係をまとめると、こうです。

・ヴィレは支援物資を送り、コア化を防ぐ封印柱を設置し、第三村を支援している。それだけでなく、アスカを配置し、第三村を物理的に防衛している。
しかし北上ミドリのシンジに対する態度を見ればわかる通り、家族を奪われた人間がインパクトに関わる者に対する態度は厳しい。

・そのため使徒と融合しておりインパクトの原因となりうるアスカは第三村の人の前に姿をあらわすことなく、好きな赤色ではなく目立たない色の服を着てフードを被り、離れたところから第三村を守っていた。

ケンスケは、「何でも屋」を自称しており、ヴィレと第三村の間をつなぐ連絡役となっていました。ヴィレからアスカへの連絡も仲介していましたね。
そしてケンスケは、アスカが暮らしていた家を『廃材を利用して作った』とシンジに説明しています。
また、『ニアサーも悪いことばかりじゃなかった』とシンジに言って励ましているように、ケンスケはニアサードインパクトの原因がシンジだと知っています。
その上でケンスケは、シンジに『俺は碇と無事にまた会えて嬉しいよ。困ったことがあったら何でも言ってくれ。友達だからな』と伝え、以降も第三村内でシンジが立ち直る手助けを続けます。
そしてこれは、村を守るアスカの手助けもしている事から、第三村を初めて訪れた頃のアスカに対してもケンスケが同じ態度で、近い言葉を伝え、サポートしてくれるようになった事を意味しているのではないでしょうか。


つまり、ケンスケは村を守るため孤独に防衛の任務を続けているアスカのために、あの家を造っています。さらに、ニアサーを経験していながらケンスケはアスカやシンジを拒絶しておらず、ありのままの二人を受け入れ、見返りも求めずずっとサポートしてくれています。この辺りが、ケンスケがシンジに選ばれた理由だと思います。(ちなみに、ケンスケやトウジがシンジやアスカを拒絶していない理由として、『序』の初号機内で戦うシンジの姿を見た経験が大きいと思われます。)

先ほど記述した通り、村に居る時のアスカは誰にも心を開かずゲームをしており、また鈴原トウジを「トウジ」と呼ぶことからケンスケは親しい人間を名前呼びする傾向がありますが、アスカのことは「式波」と呼んでおり、ケンスケ側も壁を感じているようでした。
あの時点で二人の関係は「アスカが他者と関わるのが怖い子供だった」のが原因で、『仕事上の知り合い』ぐらいであり、心を開けないアスカに対しケンスケが一方的にサポートを続けている状態でした。

そしてシンジはインパクト中にカヲルに対し『アスカも、戻ったら自分の居場所に気づくと思う』と言ったように、今の成長したアスカならケンスケの優しさを受け止めることが出来、またアスカも自分の気持ちをちゃんとケンスケに伝えられるようになっていると信じて、アスカのエントリープラグをケンスケの建てた家の前に帰すのでした。


元の世界に帰す前に

そして海辺のシーン。
シンジはアスカをケンスケの元へ送る前に、自らの責任を果たすため、アスカと会って、話します。

このシーンでは旧劇場版と同じ構図が使われ、対比されています。(混同しやすいかと思いますが、シンジの台詞からこのシーンに居るのは旧劇場版の惣流アスカではなく、破~シンの式波アスカです)

海は青く、そしてアスカは大人びています。死装束の白いプラグスーツではなく赤いプラグスーツを着ており、エヴァの呪縛が解かれ28歳の人間の姿になっています。第9使徒が封印されていた左目も元に戻っています。

『…バカシンジ』と目を覚ますアスカ。
お互いもう大人なので、ガキシンジとは呼びません。

そしてシンジにはヴンダー内で自分の気持ちを伝えてくれたアスカに対して、自分もまたこの世界を去る前に言っておきたい事がありました。
子供の時のシンジなら第三村での食事のように、受け止めるでもなく断るでもなくただ黙っていることしか出来なかったかもしれません。
しかし成長したシンジは返事をします。


『好きって言ってくれてありがとう。僕もアスカのこと、好きだったよ』

と、アスカの気持ちを受け止め、そして自分の気持ちを正直にアスカに伝えます。
するとアスカは、本当に嬉しそうに、顔を背けてシンジに背を向けます。


アスカが他人の気持ちを受け取れるようになっていることを確認したシンジですが、『アスカが好きだった』と過去形にしているように、自分は元の世界には戻れず、アスカのそばには居てあげることはできません。
なので、『ケンスケにもよろしくね』と、自分の好きなアスカを、こちらも自分の大切な友達であるケンスケに託して、アスカを元の世界に帰しました。

そしてシンジは母とマリの助けによって、別の世界で生きていくことになります。DSSチョーカーはマリの手によって外され、「エヴァの呪縛」から解放されたシンジは、エヴァ作品内では現実逃避の象徴である電車にはもう乗らず、駅から駆け出していきます。



以上が、シン・エヴァンゲリオン劇場版:||を、アスカとシンジ二人を中心にまとめたストーリーになります。

結果として、アスカとシンジがくっつく事は無く、シンジはマリと、アスカはケンスケと生きていくようです。

しかし、アスカ派の皆が何年、何十年と待ち望んだだろう答えが、
「シンエヴァ」には示されていました。
旧劇場版では心の壁ATフィールドに阻まれ、他人に恐怖し、シンジはアスカの首を絞め、アスカは『気持ち悪い』と言いました。

そして新劇場版を通してシンジとアスカは成長し、心の壁を持ちながらも、自分の気持ちを相手に伝え、また相手の気持ちを受け止めることがお互いに出来るようになりました。

「アスカがシンジに正直に自分の気持ちを伝え」、

「シンジもまた正直に、『嬉しい、僕もアスカが好きだ』と返事し」、

「アスカが照れて顔を背ける」

以上の「一番待ち望んだ三つの要素」をもって、私は海辺のシーンを「勝利」と呼んでいます。
そしてシンジのおかげで他人を受け入れられるようになったアスカが、ケンスケと共に幸せに暮らしていけるのだとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
皆様におかれましても同様だと、幸いです。


以上で私の解説は終わりとなります。
またこれは「こうだったら良いなぁ」という個人の一つの解釈であり、各人にそれぞれ理想の解釈があると思います。

また、細かい所を掘り下げて考えるのも楽しいと思います。
自分の説ではケンスケとアスカは村時点ではデキていない、のですが、
アスカはケンスケを「ケンケン」と呼んでいます。
「ケンケン」呼びは宮村優子さんのアドリブだったそうですが、その理由や、庵野監督がOKにした理由等、気になるところはたくさんあります。

タイトルにありますように、もし「シン」を観てアスカを中心にモヤモヤした気持ちを持った人への、解消の手助けになればと思います。
私のように「本当に素晴らしい作品だった」と言ってくれる人が一人でも増えてくれると嬉しいです。

それでは、長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

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