デレマス曲から辿るFuture BassとJersey Club 〜 Taku Inoue・石濱翔の楽曲から

先日の『アイカツ!曲とR&B/Funk/ブラコンについての長文』と『アイカツ!と渋谷系/ラウンジ/世界のポップスについての長文』がご好評頂けたようで、ありがとうございました。

今回は『アイドルマスターシンデレラガールズ』シリーズからTaku Inoue氏と石濱翔氏が手掛けた5つの楽曲を解説します。

ジャンルとしてはFuture BassとJersey Clubを紹介します。元ネタ紹介と言うよりは、様々な楽曲やアーティストを知るきっかけになったらと思います。

また、Future Bassが発生した過程を詳しく書いたので、興味のある方はこちらもご参照下さい。→『Future Bass黎明期を辿る80曲

1. はじめに 〜 Future Bassについて

今回取り上げる『デレマス』シリーズの5曲は、全てFuture Bassの影響下にあると筆者は考えております。なので最初にFuture Bassについての前知識をお話しておきます。

現在ではFuture Bassと言う言葉は、幅広い楽曲群を指します。広義には「Trapのリズムとメロディアスで特徴的な音色のシンセサイザーによる2010年代以降のベースミュージック」と言えます。

Future Bassに多く見られる特徴を、下記に列記します。

・BPM130〜160でTrap(*1)のビートを基本として、ハーフのリズムを取る。
・きらびやかな音作りで、デチューンした音色のリードシンセが使われる。
・クラーベ(*2)のリズムやキメを多用した派手な展開が見られる。
・アルペジオが鳴らされる。(アルペジオとは和音を構成する音を一音ずつ順番に弾いていく奏法のこと)
・ピッチアップされたボイスサンプルが使われる。
・特徴的なシンセの音色が使われる。例を挙げると、ローパスフィルターを数十msで開くことで作る「ミョワン」「ポワン」と言う音色。「ヴァヴァヴァヴァ」と言うノコギリ波を細かく刻んだ音色。サイドチェインコンプ(*3)かオートメイションで描いた「ッヴァーッヴァー」と持ち上がってくる音色。LFOの周波数を変化させるかそれに類するオートメーションを描くことで実現される「ミョワワワ〜ン」と言う音色。または、ノコギリ波を「ジャーン!」と盛大に鳴らし、リリースは残さず切ってしまう使い方など。

今回取り上げる5曲にも、以上の要素が大なり小なり取り入れられています。この辺りのアレンジ上の特徴を踏まえながら、解説して行きたいと思います。

*1 TrapとはHip Hopのビートの1つで、TR-808と言うドラムマシンを用いて、ハイハットが「チキチキチキチキ」と8分、16分、32分と変化しながら細かく刻まれ、キックとスネア(またはクラップ)はハーフのリズムを取り、1拍目にキック、2拍目にスネアが置かれます。例えばBPM140の楽曲では、ハイハットは16分で「チキチキチキチキ」と細かく刻まれますが、キックとスネアはBPM70のテンポで配置されます。まぁこんなリズムのことです→参考曲:「21 Savage - a lot feat. J. Cole」(21 Savageなのは筆者の趣味です)

*2 クラーベとはラテン音楽によく見られるリズムで、ここで言うクラーベはソン・クラーベです。
譜面に表すと↓こうです。(引用元:クラーベ - Wikipedia

画像1

特に前半の3音のことです。次の参考曲の0:58から聴けるリズムのことだと思っておい下さい。→参考曲:「Nadus - Nwxrk

*3 サイドチェインコンプとは、簡単に言うと別の音が鳴っているときに他の音を下げるように設定するテクニックです。例えば「シンセにサイドチェインコンプをかける」と言った場合、キックが「ドンッ」と鳴っている間はシンセの音は小さく、キックが鳴り止むと同時に「ッヴァ〜↑」っと音が大きくなります。元々は音を被らないようにミックスする為のテクニックですが、これを楽曲のアレンジ方法として用いています。Future Bass以前から、Dubstep、EDM、LAビートなどでも同様の手法が見られます。

2. TOKIMEKIエスカレート -Tropical Summer Nude Remix- 〜 Wave RacerとKawaii Future Bass

まず全ての始まりとして、Wave Racerについて話したいと思います。

【Foster The People - Best Friend (Wave Racer Remix)(2014年6月)】

Wave Racerは2013年6月に登場したオーストラリアのトラックメイカーで、今日皆さんがFuture Bassと言われて思い浮かべる音楽の大本となったアーティストと言えます。Wave Racerの楽曲の特徴は、どこか可愛らしいメロディに「ホワン」と言う気持ちの良い音色のシンセ、「ピロリロリロリロ」と言うアルペジオ、ピッチアップされた声ネタなどで、それらがきらびやかでポップなサウンドを成しているところにあります。

Wave Racerのサウンドは多くのトラックメイカーに模倣され、いくつか種類のあるFuture Bassの中でも一大勢力と言えます。

勿論、日本のアーティスト達もWave Racerに多大な影響を受けました。中でも特筆すべきは、TomgggとUjico*/Snail's Houseです。

【Tomggg - Popteen(2013年12月)】

【Ujico*/Snail's House - Grape Soda(2015年7月)】

彼らはWave Racerの影響を受けながらも、その可愛らしい世界観を更に突き詰めることでFuture Bassを更に発展させました。最大の特徴はおもちゃの木琴とグロッケン(鉄琴)がコロコロと転がるようにメロディを奏でるアレンジです。このアレンジは「Tomggg - Popteen」によって発明され、国内の様々なアーティストに模倣されました。Ujico*/Snail's Houseもこれを取り入れた楽曲が海外で評価され、現在では「Kawaii Future Bass」と言うFuture Bassの派生ジャンルを形成するに至っています。

こうしたWave RacerとKawaii Future Bassの影響を受けているのが「TOKIMEKIエスカレート -Tropical Summer Nude Remix-」です。

【城ヶ崎美嘉(CV:佳村はるか) - TOKIMEKIエスカレート -Tropical Summer Nude Remix-(2017年8月公開)】

石濱翔氏によるこのRemixは、直接的にか間接的にか、Wave Racerの影響下にあり、Kawaii Future Bassの木琴とグロッケンを取り入れ、トロピカル要素としてコンガを加えたアレンジとなっています。

0:57以降の展開の中で聞かれる「ミョワーーン」と言うアタック・タイムを長く取りながらローパスフィルターを開いていくシンセの音色は、もしかすると、TomgggによるこのRemixの影響があるかも知れません。

【happy machine - まあいっか (Tomggg Remix)(2015年8月)】

0:29以降に同様の「ミョワーーン」シンセが聞かれます。 

その他の注目ポイントとしては、試聴動画内では聴けないのですが、3:33以降のクラーベのリズムでのキメ展開です。この展開は石濱翔氏もよくやるアニソンなどの大サビの頭でキメを作る展開をRemixでもやっているとも言えますし、「Tomggg - Popteen」1:43にも見られるFuture Bass的なキメ展開だとも言えます。どちらにしても、このクラーベのリズムで「ジャーン!ジャーン!ジャーン!」とキメる展開は、その後の石濱翔氏の楽曲で度々登場するようになります。

また、この4ヶ月前に発表された同じく石濱翔氏作編曲の「りさ/みほ from AIKATSU STARS! - Bon Bon Voyage!」はTropical Houseな音作りが一部で話題となりました。「TOKIMEKIエスカレート -Tropical Summer Nude Remix-」にも、このシンセの音作りが反映されていると思われます。

【りさ/みほ from AIKATSU STARS! - Bon Bon Voyage!(2017年3月)】

3. さよならアンドロメダ 〜 アンドロメダ、インベーダー、革命について

【渋谷凛, 森久保乃々, 大和亜季 - さよならアンドロメダ(2017年10月)】

「さよならアンドロメダ」はTaku Inoue氏作編曲の楽曲です。Aメロなどではドラムンベースと2stepの中間のようなビートを使い、歌唱はしっとりと歌い上げ、サビではFuture Bass的展開で盛り上げる構成になっています。

「さよならアンドロメダ」では、サビのアレンジに絞って解説させて貰います。「さよならアンドロメダ」のサビでは「ヴァヴァヴァヴァ」と言うノコギリ波のシンセが16分で刻まれ、そこにハーフのリズムでキックとクラップが置かれています。

このサビの直接的な元ネタは「Yunomi - さよならインベーダー」の0:55のドロップと思われます。「さよならインベーダー」ではドロップ、いわゆる音サビになっているパートを「さよならアンドロメダ」ではサビに使っています。

【Yunomi - さよならインベーダー (feat. TORIENA)(2017年2月)】

YunomiはUjico*/Snail's Houseと共にKawaii Future Bassの代表格として名前が挙がるトラックメイカーで、ペンタトニック・スケールのメロディを用いた和風で可愛いらしいFuture Bassと、ハードなTrap展開を合わせた強力なトラックが人気を集めています。

「さよならアンドロメダ」と「さよならインベイダー」、曲名も似せているので両方知ってる人ならニヤリとする関係です。(「さよならアンドロメダ」の方がレコード会社からリリースする都合、制作から発表までに数ヶ月以上のスパンがあるはずなので、単なるネタ被りの可能性もある時系列ではあります)

では、この「さよならアンドロメダ」「さよならインベイダー」で登場する「ヴァヴァヴァヴァ」と言う特徴的なシンセはどこに源流があるのでしょうか?

おそらくこれは、2012年に<Future Classic>からデビューしたFlumeというアーティストに遡れます。Flumeの楽曲には、サビやドロップで特徴的な音色のシンセが使われる展開が多く見られます。その中の1つに、「さよならアンドロメダ」の「ヴァヴァヴァヴァ」シンセの源流が見られます。

【Flume - Insane feat. Moon Holiday(2012年11月)】

この「Insane feat. Moon Holiday」の0:41以降に、16分で「ヴァヴァヴァヴァ」と鳴るシンセが聴けます。シンセの音作りに違いはあるものの、おそらくこれが他のアーティスト達に模倣され、「さよならアンドロメダ」に辿りついているものと思われます。

もっと直接的に「さよならアンドロメダ」に似た音作りの楽曲を挙げると、<Monstercat>リリースの「Conro - On My Way Up」です。

【Conro - On My Way Up(2016年1月)】(0:55以降です)

他にもオランダ人アーティストSan Holoがこの手の音を得意としています。

【San Holo - Victory(2015年5月)】

また、「さよならアンドロメダ」に絡めて言及しておきたいのは、サビのビートです。

Future Bassにおいて重要なのはTrapのようにハーフのリズムを取ることです。16分または8分で鳴らされるメロディに対して、ビートはハーフのリズムを取っていることがFuture Bassらしいエモさを生むのです(先に紹介した「Conro - On My Way Up」の様に4ビートや4つ打ちのものもありますが)。

「さよならアンドロメダ」では、サビ1でハーフのリズムを取り、サビ2はAメロと同じくドラムンベースライクな4ビートになりますが、ラスサビではまたハーフのリズムになり、エンディングを迎える構成になっています

Taku Inoue氏は「Pon De Beach」(2015年4月)の時点からハーフのリズムを取ることでダイナミズムのあるサビを作ってきました。「だから今夜きみと」(2016年11月)や「Light Year Song」(2017年10月)でも同様の手法を用いています。

これは筆者の考えですが、Future Bassがアニソン・ゲーソンに取り込まれることで真に重要なのは、こうしたハーフのリズムのサビが生まれることだと思います。アニソンのサビと言ったら、Rockのような速いテンポの4ビートか8ビート、もしくは4つ打ちが一般的です。しかし、サビにFuture Bassを取り入れた展開をやろうとすれば、先述のTaku Inoue氏の楽曲のように、ハーフのリズムを取ることになります。ハーフのリズムを取り、尚且ちゃんとサビで盛り上がる。実はこれって、これまでのアニソン・ゲーソンではあまり無かったことであり、アレンジ上の革命だと思っています。

このTaku Inoue氏以降の革命を意識的に取り入れたアニソン・ゲーソンに『キラッとプリ☆チャン』の「フォーチュン・カラット」があります。

【白鳥アンジュ(CV:三森すずこ) - フォーチュン・カラット(2018年10月)】

この楽曲はストリングスとピアノから成る伝統的なバラードの編成にTrapのビートを取り入れたコロンブスの卵のようなアレンジになっています。編曲の酒井拓也氏自身も言及している通り、オーソドックスな楽器編成のアニソンに、Future BassやTrapからビートと言うエッセンシャルな要素を取り出して組み込んだ、革命的な楽曲になっています。

「さよならアンドロメダ」の話からだいぶ逸れてしまいましたが、Taku Inoue氏が始めたアニソン・ゲーソンにおけるビートの革命が、現在進行形で進んでいると言うお話でした。

4. クレイジークレイジー 〜 ニュージャージーの向こう側へ

【一ノ瀬志希, 宮本フレデリカ - クレイジークレイジー(2018年8月ゲーム内実装)】

「クレイジークレイジー」はTaku Inoue氏による、Jersey ClubとFuture Bassを融合させた楽曲です。2014年後半のSoundCloudを思い起こさせるバランスなのがニクいアレンジとなっています。

まずFuture Bassの側面について解説すると、サビではサイドチェインコンプのかかったノコギリ波が4/4拍子で「ヴァーヴァーヴァーヴァー」と鳴るアレンジとなっています。

このシンセアレンジは非常によく見られるパターンです。有名なものだと「Rustie - Slasherr」「San Holo - Light」があります。「クレイジークレイジー」はこれに切なげなアルペジオを乗せることで、非常に高揚感のあるアレンジとなっています。

【Rustie - Slasherr(2013年3月)】

【San Holo - Light(2016年11月)】

もう一点注目したいのは、0:38などに見られる「ミョワワワ〜ン」と言うシンセの音色です。これは2014年頃からFuture Bassに登場したシンセアレンジで、ローパスフィルターやゲインにアサインしたLFOの周波数を変化させることで実現されます。例えば、LFOを1/16→1/8→1/4と変化させることで、細かい周波数から広い周波数に変化する「ミョワワワ〜ン」と言う音作りができます(またはDAW上でそれに類するオートメーションを描いてしまう方法もあります)。

このシンセアレンジをフィーチャーした楽曲に「Grant Bowtie - High Tide」「Ujico*/Snail's House - 桜流し feat. Sennzai」が挙げられます。

【Grant Bowtie - High Tide(2015年7月)】

【Ujico*/Snail's House - 桜流し feat. Sennzai(2017年7月)】

以上まで「クレイジークレイジー」のFuture Bassの側面について解説しましたが、しかしこの曲はなんといってもJersey Clubが肝です。

Jersy Clubはその名の通りアメリカのニュージャージー州ニューアーク市で生まれたクラブミュージックです。(その源流はニューアーク市から車で数時間のメリーランド州ボルティモア市発祥のBaltimore Club(B-More)にあります)

 Jersy Clubの特徴は「ドン ドン ドッドッドッ」と1小節にキックを5つ置くスタイルと「Lyn Collins - Think」のブレイクを使うこと、声ネタがリズミカルに鳴ること、そして「キコキコ」と言うベッドスプリングが軋む音がよく使われます。「キコキコ」は「クレイジークレイジー」でも0:54で聞けます。

Jersey Club自体は2000年頃からニュージャージーに存在していましたが、地元のクルー<Brick Bandits>がMyspaceで楽曲を発表したり、DJ Sliinkが<Mad Dcent>と絡んだり、2011年にフランスのDJ、トラックメイカーのSam TibaがMixtapeでJersey Clubを紹介するなどして、好事家達の間で人気を博すことになりました。

本場ニューアークのJersey Clubはかなり無骨で、滅茶苦茶バウンスしていて中毒性があります。

【Dj Sliink - Put Cha Back In It(2012年2月)】

【DJ Lilman - Team Lilman Anthem(2014年10月)】

しかしながら、世界的に流行したきっかけは、2013年3月頃から複数のトラックメイカー達が、R&BのJersey Club RemixをSoundCloudで同時多発的に発表し始めたことです。主にTrippy Turtle、DJ Hoodboi、DJ Sliink、DJ Rell(R3ll)らによるこの動きは、SoundCloudで爆発的な反響を呼び、R&Bの過去の名曲から最新曲までJersey Club化したもので溢れかえる事態となりました。「クレイジークレイジー」もこうしたR&BのJersey Club Remixを意識したアレンジとなっています。

この時代のJersey Clubをいくつか紹介します。

【Ciara - Body Party (DJ Sliink & Nadus Remix) (2013年6月)】

【R. Kelly - Number One (DJ Hoodboi Remix)(2013年11月)】

【Future - Honest (DJ Hoodboi & Arnold Remix)(2014年2月)】

中でも謎のトラックメイカーTrippy Turtleは、2013年3月から6月に矢継ぎ早に8曲を発表して人気を博します。その後も続々とRemixを発表し、最終的に自分のキャラソンまで発表します。しかもTrippy Turtleと言うアーティスト名がミーム化して、同じ様に頭文字2文字を同じにした動物の名前のアカウントが乱立し(Drippy Dolphin、Girly Gorilla、Booty Beaverなど)、FoFoFadiクルーを名乗って皆でJersey Clubを作ると言うふざけた状況がありました(実を言うと、彼らは有名なトラックメイカー達の覆面アカウントだったのです)。

【Ellie Varner - Only Wanna Give It To You (Trippy Turtle Remix)(2013年4月)】

【Robin Thicke - Give It 2 U (Trippy Turtle Remix)(2013年11月)】

その他にもSoundCloud上で無数のトラックメイカー達がJersey Clubを制作し、名Remixを生み出しました。「クレイジークレイジー」が好きな方に紹介するならこの辺りとかでしょうか。

【Ghost Town DJ's - My Boo (Wave Racer Remix)(2013年6月)】

【Sci-Fi Scheme - Hold On, We're Going Home(2014年3月)】

【Sevyn Streeter feat. Chris Brown - It Won't Stop (Manila Killa & Hunt for the Breeze Remix)(2014年5月)】

「Ghost Town DJ's - My Boo (Wave Racer Remix)」を聴いていただくと分かるように、2013年にブームとなったJersey Clubには、時を同じくして登場し始めたFuture Bassの要素が取り入れられる場合も多くみられました。「クレイジークレイジー」もそのアプローチに倣っていると言えます。

日本のトラックメイカー達もJersey Clubブームに反応し、国内のR&BやJ-pop、アニソンをJersey ClubにRemixするなど様々な試行が為されました(特に「ドンドンドッドッドッ」と言うJersey Clubのキックパターンは、Jersey Clubを離れて様々なクラブミュージックの中で使われるようになりました)。

一例として、現在では作編曲家として不動の人気を誇るfu_mou氏が2014年に発表した、トーニャハーディングと言う2人組アーティストのJersey Club Remixを挙げます。

【Joy Time People (さよならは笑顔でRemix) by fu_mou(2014年6月公開)】

あと文脈的に挙げておかないといけないのはこれです。韓国と日本のトラックメイカーPure 100%とKOTONOHOUSEによる「Girlfriend」とR3llによるRemixです。

【Pure 100% & KOTONOHOUSE - Girlfriend(2017年9月)】

【Pure 100% & KOTONOHOUSE - Girlfriend (R3LL Remix)(2017年9月)】

原曲にもJersey Club要素はありますが、Remixでは本場ニュージャージーの<Brick Bandits>クルーのR3llによってイカついJersey Clubに仕上げられています。

以上のように「クレイジークレイジー」では、2013年以降のJersey Clubムーブメントの要素である「R&BのJersey Club化であること」と「Future Bassが取り入れられる」の2点が踏襲されています。この点で「クレイジークレイジー」はただ単にJersey Clubを取り入れた楽曲と言う以上に、SoundCloud以降の世界的なJersey Clubムーブメントと地続きな楽曲であると言えるのです。

Taku Inoue氏のこのツイートにはこういった文脈があったわけですね。

5. Pretty Liar 〜 ノルウェーに愛を込めて

【高垣楓, 速水奏 - Pretty Liar(2018年9月ゲーム内実装)】

「Pretty Liar」は石濱翔氏作編曲の楽曲で、一聴するとドラムンベース曲の様に思えますが、実はあるアーティストへのリスペクトが込められた楽曲だと思われます。

そのアーティストとは、Lidoと言うノルウェー出身のトラックメイカーです。

「Pretty Liar」とLidoの楽曲との共通点を解説します。

まず、「Pretty Liar」0:17以降の展開です。8/8拍子の中でクラーベのリズムで5回コードを鳴らして「ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!」とキメを入れています。この展開はLidoの楽曲に頻出する展開です。似た展開を持つ楽曲を2曲挙げます。

【Banks - Drowning (Lido Remix)(2014年6月)】(1:34から)

【Peking Duk - Let You Down (Lido Remix)(2017年12月)】(0:47から)

「Pretty Liar」以降、石濱翔氏はこのクラーベのリズムでキメる展開を好んで使うようになり、「Run Girls, Run!- 秋いろツイード」のサビなどは「Banks - Drowning (Lido Remix)」の影響を強く伺わせます。

【Run Girls, Run!- 秋いろツイード(2018年10月)】(YoutubeになかったのでSpotifyで)

また、「Pretty Liar」でのキメを多用したイントロからAメロに移行する0:27以降の展開は、「Lido - I Love You」のイントロからAメロへの展開を思わせます。

【Lido - I Love You(2014年6月)】

しかし決定的なのは「Pretty Liar」の0:15に登場する「ティロリロリン」と言うピアノのメロディです。このメロディはKeyCmで【ミbレシbソミb】です。

このメロディはLidoの楽曲に登場するサウンドマークを意識していると思われます。Lidoのサウンドマークは、上記の「I Love You」の0:00や「S-Type - Billboard (Lido Remix)」の2:02などで聞けます。このメロディはKeyCmなら【ドソミbレ】です。ちなみに「I Love You」のジャケはこのサウンドマークの譜面です。

【Cashmere Cat - Kiss Kiss (Lido Remix)(2013年4月)】

2つのメロディは共通してナチュラルマイナースケールの特性音であるミbを通り、1オクターブ下まで下降し、ソミbの動きが一致しています。ぱっと聴いた感じでも似た印象を受けると思います。

以上の推察通り石濱翔氏がLidoの影響を受けているならば、「Pretty Liar」と言う楽曲は、Lidoの楽曲に見られる特徴的な要素を抽出し、BPM的に相性の良いドラムンベースと融合させるというアイデアに基づいていると解釈できます。

ここで、Lidoについて改めて紹介しておきます。

Lidoはノルウェー出身のアーティストで、元々LidoLidoと言う名義のラッパーとして活躍していました。子供時代から楽曲を発表しており、2012年と2013年にはラッパーとして2枚のアルバムをリリースし、ノルウェー国内ではポップシンガー的な人気がありました。

しかしその裏で<Pelican Fly>と言うレーベルに所属し、SoundCloudで楽曲をリリースし始め、2014年2月に発表した楽曲「Money」で一気に注目を集めました。

【Lido - Money(2014年2月)】

その後、様々な楽曲のRemixを公開し、同年6月のEP『I Love You』、他アーティストとのコラボEP2枚を経て、2016年10月に1stアルバム『Everything』をリリースしました。特に2014年にSoundCloudで発表したRemix群やEP『I Love You』の楽曲は、マイナーキーの洗練されたコードワークと唸らされるようなカッコいいキメで構成されていて、どの曲も溢れんばかりのアイデアと、これまで聴いたことのない様なズバ抜けたセンスの良さを誇っていました。

【Lilangelboi - Why I'm Single (Lido Remix)(2014年12月)】

キメを多用した楽曲のみならず、誰も想像だにしなかった、フレッシュなシンセアレンジでも我々を驚かせました。

【ZHU - Faded (Lido Remix)(2014年6月)】

彼の楽曲は瞬く間に世界中で支持を受け、日本のクラブシーンでも絶大な人気を誇りました。

このように、2014年に発表された楽曲群によってLidoの名前は大きく知れ渡りましたが、実は我々はもっと早い段階でLidoを知っていたのです。

何を隠そう「クレイジークレイジー」の章で紹介した、Jersey Clubブームの火付け役であるTrippy Turtleの正体がLidoなのです。ちゃっかりLido名義でもJersey Clubを作っています。

【LIZ - Y2K(Prod. by Lido)(2014年2月)】

画像2

↑Lido(ちょっと若い頃) ↓Trippy Turtle

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いやーびっくりしましたね。筆者はあれから5年経った今でもまだびっくりしています。

つまりですよ。「クレイジークレイジー」がTrippy Turtleが流行らせたR&B風のJersey Clubで、「Pretty Liar」はLidoをリスペクトしているとするなら、『デレステ』に2018年8月〜9月と2ヶ月続けて実装されたこれらの楽曲は、両方ともLidoの存在を意識して作られたと言うことになるんじゃないでしょうか?どうでしょう?(ほぼこれを主張したくてこの記事書いてる)

6. 秘密のトワレ -Midnight Lab Remix- 〜 関西アンダーグラウンド

【Taku Inoue - 秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-(2017年8月公開)】

最後はTaku Inoue氏による「秘密のトワレ」のRemixです。この楽曲は2010年代前半の関西のクラブシーンからの影響を色濃く感じさせる楽曲になっています。

まず言及したいのはSeihoと言うアーティストからの影響です。

Seihoは独自の耽美的・官能的なセンスを軸にダンスミュージックを作るアーティストです。そのスタイルは時期によって異なるのですが、ここで取り上げたいのは2012年後期以降に確立された彼のスタイルです。

Seihoは2009年頃から活動を開始し、2010年代前半に関西のエレクトロニック・ミュージックシーンで活躍しました(現在は活動の拠点を東京に移しています)。2011年に自身のレーベル<Day Tripper Records>を立ち上げ、1stアルバム『Mercury』をリリースしました。その後、2012年8月に発表した「underwater」に現在のスタイルの原型が見られます。同年10月には「I feel Rave」がアンセム化し、2013年6月の2ndアルバム『ABSTRAKTSEX』を経て、この時期のスタイルが確立されます。代表的なものとして「Night Of Liar」「Double Bed」を挙げます。

【Seiho - Night Of Liar(2013年10月)】

【Seiho - Double Bed(2014年2月)】

聴いて頂くと分かるように、メランコリックな世界観と、空白を意識してデザインされた音像が独特の美しさを放っています。鼓膜に触れてくる1音1音の感触は極めて官能的であり、聴いている間中、常に次の展開を期待させる魅力に溢れています。

「秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-」にはキメの展開とタムによるフィルインに「Night Of Liar」の影響が伺えます。特にSeihoの楽曲を意識していると思われるのは、「秘密のトワレ」の2:03からの間奏のアレンジです。まず間奏に サックスが登場しますが、Seihoも間奏にサックスを使うことが多いです。「Double Bed」の1:15以降で聴くことが出来ます。また、「秘密のトワレ」の2:08に現れるTR-808のClavesとRim Shotの連打音は、「Double Bed」の0:07などにも見られます。それ以外にもスラップベースのアレンジや、シンセの音作り、メランコリックな曲想そのものにも類似性が見いだせると思います。(8/27 9:09訂正 ミュートトランペット→サックスでした…)

また、「秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-」に影響を与えていそうな楽曲として海外から「Bobby Tank - Undone」も挙げておきます。

【Bobby Tank - Undone(2014年5月)】

また「秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-」では、1:17以降の展開で、Juke/footwork(以下Juke)が大きく取り上げられています。

Jukeはシカゴのダンスミュージックで、BPM160前後でTR-808のキックが3連符で鳴り、多くの楽曲でチョップされた(刻まれた)サンプリングの声ネタが延々とループされるのが特徴です。

Jukeはシカゴでは00年代から存在してましたが、『Bangs & Works Vol. 1』(2010年)というJukeのコンピレーションが<Planet Mu>からリリースされ、世界的に話題となります。その後も2011年にテクノのアーティストMachine DrumがJukeを取り入れたり、2012年にシカゴの重鎮トラックメイカーTraxmanがアルバム『Da Mind Of Traxman』(2012年4月)をリリースし、人気に火が付きます。

【Traxman - Callin' All Freaks(2012年4月)】

Jukeは楽曲としてだけでなく、足を高速でステップさせるfootworkと言うダンスが有名です。シカゴには古くからfootworkのスキルを競う文化があります。

また、日本では2008年から大阪で<Booty Tune>と言うJukeやそれに影響を与えたGhettotechを扱うレーベルが活動しており、早い段階でJukeが輸入されていた経緯があります。ダンスバトルとしてのfootwork文化も<Booty Tune>が存在する関西圏を中心に日本でも根付いて行きました。

日本のJukeのトラックメイカー、DJには<Booty Tune>主催DJ Fulltono、Keita Kawakami、CRZKNY、Satanicpornocultshopなどがいますが、ここではSeihoのレーベル<Day Tripper Records>からJukeのアルバムをリリースしたトラックメイカー2人組ユニットのdoopiioを紹介させて下さい。

【doopiio - Syrup Gang(2013年2月)】

以上のようにSeihoを思わせるアレンジやJukeを取り入れた「秘密のトワレ -Midnight Lab Remix-」は、筆者としては2010年代前半の関西(てか心斎橋)のクラブシーンの空気を感じてしまいます。『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS TO D@NCE TO』や、それに続く『AIKATSU! ANION “NOT ODAYAKA” Remix』の先鋒を切ったのがこのRemixだったのは、当時を体験した身としては、なんだか感慨深いものがありました。

7. 最後に

筆者がアニソンを聴き漁る理由は、自分の好きなジャンルの要素が入っているアニソンを聴くとものすごくワクワクするからです。そのワクワク感は、そのジャンルの楽曲そのものを聴いても得られません。アニソン・ゲーソン・声優ソングが自分の好きなジャンルと繋がっている時にだけ得られる、不思議な高揚感があるのです。この高揚感の正体は未だ持って説明が出来ません。

同じ様な感覚を持っている人は多いと思います。その証左がSoundCloudにも存在する無数のアニソンブートレグRemixです。アニソンのアカペラをぶっこ抜いて自分の好きなようにアレンジし直してしまう行為は、誰かから見れば褒められたものではないのでしょうが、筆者のような人間からするとワクワクして仕方がありません。

そういう人間にとっては「もしそれを公式がやったら?」「もしRemixのような感覚で作られたアニソン・ゲーソンがあったら?」と言うのは一種の夢でした。この夢は、古くは「いちごコンプリート (Jelly Remix)」にまで遡れます(『Cowboy Bebop Remixes "Music For Freelance"』もありますがね)。

【いちごコンプリート (Jelly Remix)(2005年7月)】

(ご存知無い方は「なにこれ?」と思われるかも知れませんが、アニメ『苺ましまろ』のOPには公式Remixがあり、原作者のばらスィーがファンを公言しているAphex Twinを意識したアレンジになっています)

今ではそれも夢の話ではなくなっています。公式のRemixアルバムが出て、まるで既にRemixされているかの様なエッジの聴いたアレンジのアニソン・ゲーソンが次々に生まれています。

あの「2014年」から5年経った2019年にこれを書きました。Jersey ClubもFuture Bassも昔話になつつあります。これからどんな音楽が流行り、私達を魅了し、アニソン・ゲーソンに取り入れられていくのでしょうか。

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