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My Playlist 03 ー向うの見えない花束のようにー

My Playlistシリーズ、今回紹介するのはFlipper's Guitarフリッパーズ・ギター『Love And Dream Are Back / ラヴ・アンド・ドリームふたたび』だ。フリッパーズといえば、渋谷系というムーブメントの先駆けと言われ、軽音楽界に燦然と名を残した伝説的なバンドである。メンバーの小沢健二氏も小山田圭吾氏も近年まあ色々あったが、私にとっては自身の根幹を成すバンドの1つなので紹介させて頂こうと思う。そもそも私、パーフリ世代ではないのだけれど…。

さて、フリッパーズの曲と言っても色々あってどれを紹介するかずいぶん悩んだ。初期の『Samba Parade/サンバパレードの華麗な噂が』は歌詞はサンバが来るからつまりなんなんだ?となるがノリノリになれるのでお気に入りだし、『Young, Alive, in Love/恋とマシンガン』はもはや紹介するまでもなくメジャーな曲だろう。ネオアコースティックバリバリの『Knife Edge Caress / 偶然のナイフ・エッジ・カレス』も(歌詞はヤバいが)わりと嫌いじゃない。『The World Tower/世界塔よ永遠に』の謎めいた感じの中にあるバンドの終焉を伝えるような物悲しさも好きである(デジタル配信は…しないだろうなぁ)。そんな名曲のなかから今回選んだのが『Love And Dream Are Back /ラヴアンドドリームふたたび』だ。ただの音楽を越えて、自身の価値観や1990年代初頭の空気、そしてそこに生きる人々のやるせない感情をも切り取ったような生のサウンドと生の歌詞こそがFlipper's Guitarが伝説となった所以であり、今なお人々を魅了し続ける理由と私は考えるが、本曲はその集大成とも呼べるだろう。


『Love And Dream Are Back /ラヴアンドドリームふたたび』
(ベストアルバム『colour me pop』などに収録)

作詞・作曲 Double K.O. Corp.(実際には作詞が小沢健二氏、作曲は小沢氏と小山田氏の共作…らしい)

この曲の特徴は全体を通してぼんやりとした表現が多いことで、聴く人によって様々な解釈ができる。元々フリッパーズの創った楽曲は瞬間的な描写や感情を切り取ることを主としており、直接的な表現をすることのほうが少ない。そんな「意味のない言葉を 繰り返」しているように思えるこの歌詞にも物事の本質を捉えるような言葉が散りばめられているのがこの曲の魅力であり、ひいてはフリッパーズの楽曲の魅力だと思う。

Aメロの「あやふやで 見栄ばかり張る 僕たちの ドーナツトーク」というフレーズにドキッとしてしまう人がいるのではないだろうか。お互いに自分を取り繕いながら見栄ばかり張り続け、ドーナツの丸い穴のように空虚な会話をしてしまう…人間そんなものだ。「意味のない言葉を繰り返すだろう」「甘いニヒリズムが 笑う時にも」という歌詞からは文字通り虚無感が漂っており、それを歌う小山田氏も物憂げな雰囲気を醸し出している。のどかで(LILAC TIMEの 『THE GIRL WHO WAVES AT TRAINS』が元ネタと言われる)牧歌的なサウンドと虚無感や退廃的な雰囲気を感じさせる歌詞は彼らが影響を受けたネオアコースティックらしさがあるものの、これまでの曲のような洒落た言い回しが消えている。この気怠げであり諦観に満ちた表現はフリッパーズの音楽と思想の集大成であり、活動末期にリリースされた最後にして最高のアルバム『DOCTOR HEAD'S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』の収録曲と同じものを感じる。まぁ、本曲の方が後発なので当たり前であるが。

2番Bメロの「今何時か知ることより 時計のなかを開けて見てみたいから」という言葉からは好奇心と共に、何か破滅的な雰囲気を感じるのは私だけだろうか。サビの「気づくのはいつでも 過ぎた後だろう」やCメロの「可笑しい程いつもただすれ違うことがセオリー」という歌詞からは物事の本質が見えてくる気がする。失敗でも成功でも、答えはすぐには分からなくても後々から分かってくることがあるし、人生はすれ違いの連続だ。間違ったり分からないからこそ、いつも「ありふれた言葉を抱き締める」必要があるのだろう。

前述したが、フリッパーズの楽曲は(当事者2人が今もあまり語らないこともあり)分かりづらく、とにかく抽象的な表現が多い。今回の「ぼんやりとした表現のなかに物事の本質が隠れている」というのはあくまで私の解釈であり、その解釈すら聴くタイミングで変わることがあったりする。ただ、それゆえに聴いていて楽しい曲だ。固定の解釈がないからこそ、聴く人それぞれが無限に解釈することができる。本曲を意味のない曲と定義するも良し、私のように何か意味を見いだすも良し。私は音楽評論家ではないので今回はこの辺りで筆を下ろすが、曲の意味を安易に歌詞やサウンドから求めてしまうこの現代で、あえて謎かけのような本曲を聴いてみるのも面白いのではないだろうか。


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