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物語を作る。

▶︎物語を作る。(雑学編)030

「物語は36通りしかない」ある脚本家を育成する専門学校の校長先生がおっしゃっていた言葉です。

世界中には何万、何十万の物語が存在しています。しかし物語を骨格だけで考えると確かに36通りに絞られるのかも知れません。

例えば、黒澤明の「七人の侍」は、毎年収穫の時期になると野武士たちがやってきて、せっかく作った米や若い娘たちを持ち去られ、すっかり疲弊した百姓たちが、強い侍をスカウトして来て一丸となって野武士と戦うお話です。おや、これって骨格だけで考えると「桃太郎」と同じ筋立ての物語じゃありませんか。この視点で辺りを見渡してみると「ドラゴンボール」も「ワンピース」も同じ。さらに「南総里見八犬伝」「水滸伝」も、みんな「勇者たちが集まって難関に立ち向かう」という物語です。

こんなふうに当てはめて行くと「マイ・フェア・レディ」は「シンデレラ」や「みにくいアヒルの子」だし、「13日の金曜日」は「オオカミと七匹の子ヤギ」です。つまり人間が思いつくストーリーは36通りしかないというご意見は正しいと言えるのかもしれません。

ある美術大学の教授が学生たちにこんな宿題を出しました。「地球上に存在しない花のデザインを考えて来なさい」と。学生たちはそれぞれ想像力を発揮してオリジナルデザインの花を描いて教授に見せました。すると教授は分厚い図鑑を何冊も開いて「君の花はこれと同じデザインだね」と次々に言い当てて行きました。けっきょく誰ひとりとして合格は貰えませんでした。つまり人間の想像力は大自然の想像力には勝てないというわけです。

黒澤明監督「隠し砦の三悪人」は当代切っての一流脚本家と黒澤さんを含め5人の共同執筆です。時は戦国時代、戦で負けた侍大将が世継ぎの姫をかくまって2人の百姓を従えて敵中突破する姿を描いた冒険活劇です。黒澤監督は脚本家を2対2のチームに分け、まずAチームが主人公たちを追い詰めるだけ追い詰めたところまで書きます。そしてその脚本をBチームが受け取って、今度は主人公たちを救う展開を考えるのです。このやり取りを繰り返して波瀾万丈の物語が作られて行くのですが、あとひとりの脚本家は執筆には加わらず、途中まで出来上がった脚本をチェックしアドバイスするだけの担当なのです。しかし、ギャラは5人で均等に配分したそうです。この斬新でユニークな執筆方法。黒澤監督の想像力には脱帽です。

この「隠し砦の三悪人」は、のちにアメリカの名監督が舞台を宇宙に変えて映画化しました。それがあの「スターウォーズ」です。なるほど侍大将がハン・ソロに。世継ぎの姫はレイア姫。2人の百姓はC3POとR2D2というわけです。ジョージ・ルーカス自身「スターウォーズ」は「隠し砦の三悪人」のオマージュであることを告白しています。だからこそのライトセーバー、ダースベーターのコスチュームは日本の鎧かぶとなのです。さらにジョージ・ルーカスは「インディジョーンズ」で黒澤監督の執筆方法も真似しています。「インディジョーンズ」の監督だったスティーブン・スピルバーグと2人で主人公を追い詰める側と助ける側になって執筆したそうです。

これらのエピソードは、32歳で劇団を作った僕に取って、とても勇気づけられるものでした。物語が36通りしかないと開き直れば、自分にも色んな物語を継ぎ接ぎして台本が書けるんじゃないか。そこで当時大好きだった映画「天国から来たチャンピオン」と「アパートの鍵貸します」をパクって、いやオマージュして処女作「黒いスーツのサンタクロース」を書きました。

クリスマスイブ、売れない女優のアパートに死神が訪ねて来るという他愛ないヒューマンコメディですが、黒澤さんに習って、僕は主人公を追い詰められるだけ追い詰めてドラマチックな展開にして行きました。ところがつい度を越してしまい主人公を自殺させてしまったのです。確かに展開は面白いけど、これでは物語に救いがなさすぎる。困り果てた僕は当時近所に住んでいた2つ年下の弟を呼び出し、ご馳走を振る舞い酒を酌み交わしながら一緒にクライマックスを考えました。そんなときSF好きだった弟が発した一言が主人公だけではなく僕も救ってくれることになるのですが、ご興味のある方は、是非、座キューピーマジックホームページのbookのページで無料公開している「黒いスーツのサンタクロース上演台本最新版PDF」を読んでみてください。

座キューピーマジックHP : http://cupid-magic777.com/

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