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馴れる脳。

▶︎馴れる脳。(概念編)026

世界で最初に映画を上映したのはフランスのリュミエール兄弟です。世界初の映画は白黒で、もちろん無声です。しかもわずか50秒の記録映画が2本でした。ひとつは「工場の出口」で、ただ大勢の人々が工場から出て来るだけのものでしたが、当時の観客は動いている写真に度肝を抜かれました。もう1本は「駅のホーム」遠くから線路上を走って来る汽車に観客はびっくりし、汽車が間近に迫って来るとみんな映画館から慌てて出て行ったそうです。

当時の人にしてみれば写真が動くというのは驚異的な事だったと思われ、現代なら目の前に存在すると思った人が実は映像だったというくらいびっくりな事だと思います。ところが脳は馴れる臓器と言われていて、昨日新鮮に感じたことも明日には飽きてしまいます。もし脳が馴れない臓器なら、リュミエール兄弟の「駅のホーム」を、今日も明日も、1年先も10年先でも新鮮に観ることが出来るはずです。しかし脳は馴れてしまう。最初、新鮮だと感じたものがどんどん色褪せて飽きてしまうのです。つまり観客を惹きつけて飽きさせないためには、新しい映像、新しい物語、新しい演技を常に追い求め刷新して行かねばなりません。ここにクリエイターと馴れる脳とのイタチごっこが繰り返されて行くことになります。

タイタニック号の沈没を題材にした映画は戦前戦後を通して何本も上映されました。古い映画ではタイタニック号は模型。海はプールで撮影してますが、当時の観客はそれでもハラハラドキドキしながら観ていたのです。1972年、画期的な映画が上映されました。「ポセイドン・アドベンチャー」です。設定は現代。タイタニック号ではありませんが、豪華客船が遭難するという物語で、なんと廃船になった本物の豪華客船を転覆させ、逆さまになった船内で主人公たちがサバイバルするという内容でした。なにしろ本物の豪華客船ですからリアリティは抜群です。その後、似たような映画もいくつか作られましたが、けっきょく本物主義も観客たちに飽きられてしまいます。

そしてCGの進歩とともに作られたのが1997年公開。ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」です。この映画にはCGはもちろん、スケールモデルやバハスタジオで製作されたタイタニック号の復元模型など、あらゆることを駆使して製作されました。当時はCG映像の素晴らしさに驚き感動しました。でも、あれから20年が経過した今はどうでしょうか。何となくCG映像に慣れて来てはいませんか?リアルというよりはよく出来た絵画、アニメーションのように感じませんか?こうしてイタチごっこは永久に続いて行くのです。

演技の場合も同じです。1950年代のアメリカ映画を観てみると、俳優たちは皆まるで舞台のような発声で、声を張って喋っています。ところがその中で唯一小さな声でボソボソと喋っていたのがマーロン・ブランドでした。

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