果たして彼女は実在したか? 5
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清掃控え室に戻ると、ぼくたちは払い下げの古びた会議用テーブルに向かい合って座り、熱い玄米茶を飲みました。からだは疲れきっているのにこころはなんとも軽やかで、……なんというか……達成感のようなものがあり、気分はやたらと高揚しています。
ひと仕事終えた後だけに、Gさんは例のほっかぶりを取り、相撲取りの名前のたくさん入った大振りの湯飲み茶碗を両手で包み込むようにして静かにお茶を飲んでいます。
(あっ、結構白髪頭なんだな)
今まで気にも留めなかったことにふと気が向き、同時に、
(Gさん疲れたんじゃないかな?)
という思いが湧き上がってきました。
ぼくには「彼女はこれを喜んでくれるだろうか?」といった、ひとりよがりな思い入れがあった。でも、Gさんにはなにもない。
もしかしたら、自分のわがままに付き合わせちゃっただけなのではないだろうか?
「あの~、なんか……今日は……すいませんでした。俺……無理言っちゃって……」
ぺこり頭を下げると、Gさんはぼくの方を真っすぐに見つめながら、ゆっくりとした口調でこう言いました。
「人間は、ね……」
右手のこぶしで自分の胸をトントンと2回叩き、
「ここですから」
その目はなんだか
(大丈夫だ。心配するな!)
と言ってくれているようで、そう思った途端、目頭が熱くなる感じがして、ぼくは一言だけ
「はい」
と答えました。
どうにもこらえきれず、トイレに行くふりをして席を立ち、洗面所の鏡に向かい、そうして鏡の中の自分に向かってそっと呟きました。
「人間は、ね。(トントン)ここ……ですから……」
鏡の中のぼくのほほを、ひと滴の涙が流れていきます。
(終わっ)