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シャビ監督本人が語るアル・サッドでの彼の戦術・哲学とは

先日Youtubeアカウント「The Coaches' Voice」にて現アル・サッドの監督「シャビ・エルナンデス」が出演し彼の監督としてのプレイスタイル、戦術、哲学についてシャビ本人が説明・紹介してくれました。その動画は英語字幕付きで勿論誰でも無料で視聴できますが、今回は「それはちょっとめんどくさい」という方向けに彼の言葉を引用しその内容をご紹介していきます。シャビはロナルド・クーマン現監督の後任候補筆頭のバルセロナのレジェンドですが、実際に彼の監督としての考えや手腕を知る機会は殆どなく「監督としての彼を全く知らないからこそ怖い」という方も多いと思います。そんな方々含め多くの方にこのnoteが少しでも役に立てばなと思います。では始めます。

Playing style at Al Sadd SC


シャビ:それではまずシステムについて話す前に私たちのアル・サッドでのプレイスタイルについて少し話しましょう。結局のところ、僕が一番重要だと思うのはフォーメーションではなくプレイスタイルだと思うからです。

僕にとって明らかなのはボールの主導権を握らなくてはいけないということで、逆にそれができない時は僕たちのチームは試合に苦しみますし、これは僕の現役選手時代もそうでした。そこで僕はボールの主導権を握るためにあらゆることを行います。ボールの主導権を握ることは僕にとって本当に重要なことで、僕はこの点を入念に評価します。ただこれはボールを持つためにポゼッションするのではなくて、攻撃し、得点のチャンスを増やし相手を苦しめるためにするものです。

アルサッドでは僕は「3-4-3」のフォーメーションを組みます。これは3人のCBと2人の守備的MF、2人のサイドアタッカーと9番で構成されます。それはボール保持時にできる限りサイドを広く、深く使うことが重要だからです。

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※白色がアル・サッド(以後同様)

相手が4-4-2で来た時は僕たちはこのようにプレイます。

僕は自分のIHの選手には常に「四角形」について話します。相手のフルバックとインサイドorサイドMFにより形成される四角形のことです。相手が4-4-2の場合は僕たちのIHはここ(下写真参照)でプレイする必要があります。そして2人の守備的MFと3人のCBをその後ろに配置します。これは相手が4-4-2で守備をしてきているからで僕の関心は常に「如何に数的有利を作るか」にあります。ここでは相手の2トップに対して3枚のCBで数的有利を作っていますね。

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仮に相手が前線に1枚増やしてくれば僕たちは後方に更に1枚選手を足します。例えば2人の守備的MFのうちの一人を最終ラインに下げますね。こうすることで相手の3トップに対して4枚を作り、数的有利を生み出せます。

この時中盤でも数的有利が生み出せています。

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「ボールの主導権を握り攻撃し、相手より多くのチャンスを作るための有的有利を生み出すこと」これが僕が得ようとしていることです。


In possession against a high press


それでは次にビルドアップについて話しましょう。ボールはGKが持っていて私たちは「3-4-3」でプレイします。僕たちはWGを非常に高い位置にセットします。相手の最終ライン4人をピン留めするため幅を取って深さを作ります。GKがボールを持った時3CBのうち2人がGKの近くに開き、守備的MFの一人が(CBがGK横にスライドして空いたスペースに)落ちていきます。(この時最終ラインはCB-CB-CB-DMFという形になる)。

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その守備的MFはこの時CB(SBの位置ではなく)CBの位置に降りてくることができます。(その時外角 CB2人がSB化)。そうすると残った守備的MFの一人はソロピボーテの時の場所に動きますね。(可変で4-3-3が完成)。この時後方から中盤にかけて私たちはGK含めて8人の選手がいて相手の6人に対して数的有利を生み出します。この動きを僕たちは日々練習しているのです。

この時フリーの選手は何人いると思う?2人だよ。チームはその選手を常に探さなくてはいけない。相手の2トップの1人がCBに、相手の2ボランチのうちの1人がピボーテにマークしてきた時は僕たちのIH1人がフリーになります。僕たちはこの選手を探さなくてはならない。全ての選手は相手のハイプレスの中どこにフリーの選手がいるのか把握する必要があります。このフリーの選手が生まれる流れは相手が他のやり方を取ってきても起こります。相手がハイプレスをかけてきた時に大事なのは相手のMFラインを破り相手のコートに侵入し攻撃することです。

僕たちが相手のコートに侵入した時すでに僕たちは攻撃のフェーズに入っています。基本的にvsアルサッドになると対戦相手は皆ボックスの付近でゴールを死守しようとします。ですので僕たちはその守備ブロックを破壊するための解決策を模索する必要があります。vsアルサッドでハイプレスを仕掛けてくるチームは滅多にありませんが、それでもその時の解決策を準備しておく必要があります。

Creating numerical superiorities

 

 相手の引かれた守備ブロックを攻撃する時のことについて話します。アルサッドでは90~95%がこのシチュエーションになり、非常に難しい仕事になります。大抵僕たちの対戦相手は「5-4-1」で守ってくることが多いです。この時前線に残った相手の1枚はフリーマンとなりカウンターの機会を伺いますので僕たちはこの選手を警戒する必要があります。

僕たちが攻撃する時2人のCBとピボーテで数的有利を生み出します。繰り返しますが「数的有利」という哲学は私たちのプレイスタイルの鍵です。

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もしボールを持っている守備的MFの選手に相手がプレスをかけてきた場合この選手は前方にいる選手5人(両WG、両IH、9番)のいずれかに直接パスを出すのが基本ですが、もしそのパスコースが遮られて直接パスが出せない場合でも相手の5-4のラインを突破する解決策があります。

もし相手が中盤の4人をコンパクトにしてきて中を固めた場合、中盤の位置で私たちは数的有利を作れていません。しかしサイドを見てみましょう。サイドで幅を取るWGにオーバーラップするSBもしくはチャンネルランを狙い高い位置を取るIHによってサイドで数的有利を生み出せます。飛び出してくるIHに相手がついてこなかった場合マンチェスターシティでデブライネ、ギュンドアン、ベルナルドシウバでよく見るように2vs1の状況を生み出せます。

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仮に上がってきたIHの選手に相手がついてくるとサイドで同数になりますが、この時SB→9番へのパスコースが開きこれで相手のブロックを一気に壊すことができます。これは相手の選手がサイドいっぱいに引き寄せられているから起こることです。このパスはGK vs 9番の1vs1を生み出すことができる、非常に相手に脅威となるパスになります。

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他の解決策としては同じようにサイドのWGとIHが鍵になります。

守備的MFの選手にプレスがかかった時高い位置をとっていたIHの選手が落ちてきて相手を引きつけます。こうすると相手のSBと中央CBの間にスペースが作られますので、そこにサイドのWGが斜めに裏抜けをします。このWGの選手はパスに的確に反応したり、相手の選手間を狙う動きが必要になりますね。

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5バックを崩すためにはより多くの解決策、より多くの働きかけが必要になり、これを私たちは日々の練習で勉強します。


Pressing without the ball and the importance of the second ball


私たちは今守備時は「4-3-3」でハイプレスをかけています。では具体的に何をするでしょうか。大抵相手はGKの近くにCB二枚を配置し、2人の守備的MFをその前に配置します。対して私たちの守備的MFは決まった約束事は設けずフリーマンに近い形となり、私たちがハイプレスをかけにいく時に上手く臨機応変に手助けしてもらうようにします。

相手のGKがボールを持っている時私たちの9番は相手のCBの1人にプレスをかけにいきます。そしてIHの選手がでてきてもう1人のCBにプレスをかけにいきます。そこで相手のCBとGKを助けにきた選手に対して私たちの守備的MFがついていくのです。そこで逆に相手の守備的MFがフリーになるので私たちのCBの1人はこの選手を注意深く警戒しなくてはなりません。

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この時実質的に私たちはマンツーマンディフェンスの形をとっていることになります。

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もし相手のCBがGKにボールを戻す場合そのCBにマークしていた選手はそのCBへのパスコースを切りながらGKにプレスをかけにいきます。ここでGKに違うサイドにボールを追いやりプレスを活性化させます。

マンツーマンディフェンスではデュエルに勝利し、バックポジションでも勝利する必要があります。

CBは非常に重要です。どのように重要な役割か、ですが、先ほど述べたようにフリーになった相手の守備的MFが驚異となり、僕たちのCB1人がプレスをかける際には僕たちは相手の1トップと残ったCB1人で後方で1vs1の状況になるというリスクに気づかなくてはなりません。しかしこれは私たちがとる「リスク」なのです。私たちは相手のコート半分でボールを即時奪取したいと思っていて、もしより早くボールを回収できればよりボックス付近に侵入できます。

これは私たちが毎試合で行ってるやり方です。

もし相手のGKが前線の選手に向けてロングボールを蹴った時私たちの選手は自分のマークしている選手よりも早く自陣に帰還しなくてはなりません。

相手がロングボールを使うということは私たちは逆にカウンター攻撃を活性化させる機会があるということです。現代サッカーで何よりも大切な「セカンドボールの回収」このために私たちは相手より1m前に出る必要があります。セカンドボールを回収できれば私たちはカウンター攻撃を仕掛けることができます。相手がデュエルに勝利するためにロングボールを使うのはセカンドボールを回収し再びハーフコートで攻撃する利点を活かせるという点で私たちにとっても重要なことになります。

このやり方でアルサッドでは非常に攻撃的に、そしてゴールチャンスを増やすことができます。重要なのは相手のハーフコートでボールを回収することです。


Changing mentality to treasure the ball


私は自分自身もプレイしたアルサッドのチームではそれまでブロックを構えてそこからのトランジションの中で”どうにか”得点していることがわかりました。そこで僕たちはこのチームの哲学を少々変える必要がありました。ですので選手には「ボールは爆弾ではなく宝物」ということを理解してもらいました。そしてこれが僕たちにとって一番重要なことです。私たちは自分たちを組織化してボールを動かし、ボールの主導権を握ることが非常に重要で、私たちが選手に植え付けたものはボールを持つことに対する責任感に苦しむ必要はないということ、みんなボールを持つということを楽しむべきだということでした。僕たちはボールと一緒に日々練習しています。ロンド(鳥籠)から始めて、ポジショナルゲーム、ポゼッションゲームを楽しんでいます。僕たちは選手に今日のフットボールではボールの主導権を握ることが非常に重要だということを主張し、この考えを選手に植え付けています。そこから僕たちは攻守両面においてボールを握るためのチームを組織化しています。全く異なるプレイモデルで長年プレイしていた選手を変えるのは簡単ではありませんが、達成できると思います。結果と内容に基づいたやり方でね。


簡単なまとめ


いかがだったでしょうか、シャビ自身が語る自身の戦術・哲学は以上になります。ここからは私が超簡単なまとめとその私見、そして実際に彼の戦術にバルセロナの選手を当てはめてみようと思います。

まず攻撃面を振り返ります。シャビは攻撃時の戦術を語る中で基本フォーメーションを「3-4-3」としていました。基本フォーメーションの「3-4-3」の「4」はフラッド型でもダイヤモンド型でもなく「スクエア形」あまり聞かない形ですね。基本的にサッカーで四角形を作ると相手もパスコールを切りやすくビルドアップが不安定になることが多く、実際20/21のクーマン×バルサでは「4-2-3-1」の両CBと両ボランチでその問題が生じてしまっていました。その問題はシャビはフォーメーションを可変する形で解決しているようですね。守備的MFの1人がSB化したり、CB化することで4-3-3に可変し、そこから四角形ではなく三角形を生み出していました。この時3CBを形成する外角の選手は時にSBになったり、時にCBになるので大変そうですね。そしてIHの選手はシャビ自身が選手にも言っているように「四角形の中でプレイすること」が求められます。これは簡単な言い方をすれば「ライン間で受ける」ことを意味していて、その中でより細かくポジショニングの決まりがあるのでしょう。それこそ一時期のマンチェスター・シティのように2IHがFW化して擬似5トップになったり、そこからハーフスペースをつくチャンネルランが求められますね。WGは所謂「古き良きバルサの伝統的なエストレーモ」像のソレですね。サイドで張りながらスペースを見つけて斜めにランニングする賢さと個の技術が求められます。9番は偽9番タイプではなくストライカータイプのものだと思います。近くでプレイする2IHの「聖域」に侵入してしまうとシャビの考える崩しの形は難しくなりますから。シャビ自身ポジションを守らない選手は嫌う印象があります。「ボールに寄ってくるな、俺らを信じろ、お前がきちんとポジショニングしていれば自然とお前にボールは集まる」とか前に言ってましたよね。攻撃面はかなり面白そうな形ですよね。よく海外ツイッタラーからシャビは「4-3-3」から可変して「3-4-3」にしていると言われますし、僕自身以前2.3試合ほどアルサッドを視聴した時はそう思いましたが、シャビ自身の考えとしてはむしろ逆ですね。再現性のある崩しの一例を紹介したり、ケースバイケースで崩しのアイデアを持ち合わせていたりと、攻撃面は引き出しは多そうです。

次に守備ですね。これはちょっとリスキー。シャビはボールの即時奪取とボール保持のために冒すリスクと言っていましたが、想像以上にリスキーでした。相手の守備的MFにCBの片方がマークをした場合、最後方で常に1vs1の状況になります。「アルサッドのACLでは同じ形のカウンターから失点し敗退している」とアルサッドサポの方から聞いていましたがこのことかと思いました。それでもカタールリーグ国内では失点数は少ないようですが、これはアルサッドと他のチームの戦力差も関係してそうです。バルサの場合、鉄壁のアラウホがいるとはいえ、それで守れるほど甘くはないので、シャビがそのやり方が通じないバルサにきた場合どうするかは怖さ半分楽しみもありますね。

では本記事も長くなって参りましたので、ここで実際にバルサの選手をシャビのやり方に当てはめてみましょう。ポジション別の具体的な役割は前述した通りです。

まずはFW、これはアグエロとブライスワイトでしょう。互いにオフザボールの動きに長けています。メンフィスは偽9番気質の強い選手なのでベストではなさそう。

次にWG、これはアンスとデンベレですね。後者はオフザボールの動きが気になりますが。。。デミルとコジャドはタイプが違います。あとは補強候補にも上がるスターリングも合いそうですね。

次、IH。まずはペドリ。この役割やらせる最適解の選手です。もう1人はガビ、デミル、コジャド、ここら辺は上手くやると思います。ルイス・エンリケのラロハのIHと役割似てますよね、そう考えるとセルジロベルトもやれそうです。あと、ここなんですが補強候補にも上がってるダニ・オルモはめちゃくちゃ上手そうです。ライン間でボールを受けて前を向き、時に仕掛けたり、時に裏抜けしたり、、、容易に想像できますね。スターリングにダニオルモ、バルサの補強候補がシャビのやり方に完璧にフィットしそうなのはただの偶然か、それとも。。。

次、守備的MF2人。1人は時にSB化したり、CB化して、もう1人はその時ソロピボーテになります。後者に関してはブスケツとニコでしょう。ただブスケツは「被カウンターの時に相手よりも1m早く帰陣する」の点が不安です。前者ですが、、、これこそデヨングですね、完璧です、本当に。一番合いそう。

GKは省略しますので最後CB。内2人は時にSB化します。これは1人はミンゲサでしょう。20/21クーマン×バルサでの彼の役割と合致します。あとは昨夏ベティスに行ったフアンミランダも合いそうです。もう1人の「常に対人守備が求められるCB」もうこれはアラウホですね。

2021年10月18日追記

「3-4-3」→「4-3-3」可変の形をフォーメーション図を使って紹介します。背番号は適当ですのでご注意下さい。まずは基本の「3-4-3」の形です。

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[パターン1]守備的MFがSB化し、外角CBの1人がSB化する形。

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[パターン2]守備的MFの1人がCB化し、両外角CBがSB化する形。

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こんな感じですね。そう考えるとミンゲサの他にもSB化出来るCB欲しくなりますね。

追記以上。

以上です、気がついたら非常に長くなってしまいました。

「ロナルド・クーマンの去就はクラシコまでの3試合で決まり場合によってはクラシコ後解任、しかもアルサッドのカップ戦決勝がクラシコと同日にある」という報道もあり、依然とシャビの名前はメディアの好物になっていますが、違約金問題、FFP問題の影響で実際問題監督の途中交代は難しそうです。ただ遅かれ早かれシャビは来ます。その挑戦が成功するか否かは誰のもわかりませんが、その時を楽しみにバルサを応援しましょう。

最後までご覧いただきありがとうございました。感想、要望、アドバイス等ございましたらお願いします。

引用及び参照:Youtubeチャンネル「The Coaches' Voice」,「Xavi • Playing style, tactics in and out of possession at Al Sadd SC • Masterclass」,2021年10月16日視聴

https://youtu.be/3yR5B8viTWQ

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