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ブランド開発基礎(連続講座 第1回)

2022年5月13日(金)に、2022年度連続講座の第1回目として「ブランド開発基礎」を開催しました。株式会社スズサンCEO / Creative Director であり Creation as DIALOGUE の統括コーディネーターを務める村瀬弘行氏をゲストに迎え、本事業プロデューサーのミテモ株式会社 澤田哲也がお話をいたしました。

昨年度から展開してきたCreation as DIALOGUEは「日本のものづくりの中心地であり、その生活文化を支えてきた名古屋ならではの、技術、文化、精神性を活かしながら世界の需要を獲得し続け、自走できるブランドを創出する」をコンセプトとし、目指すものの一つに「ブランド」を掲げており、プロダクトそのものに加えブランドをどう作っていくのかについてが、テーマとなります。

海外進出に際して、グローバルマーケットで評価されるブランドデザインの哲学と手法を様々な角度から学び、今後の実践の基盤(共通言語と共通認識)を作るためのヒントを得ることを目的として、昨年度は5名の方々に登壇いただきました。⇒詳しくはnoteに掲載中の記事をご覧ください。

今年度も基礎編2回分に加え、実践編では各界の皆様からお話をいただきます。

第1部「ブランド基礎開発」

ブランドとは何か?

「ブランド」というと高価格帯の商品を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、ブランドとはどのような価格帯でも存在しています。例えば低価格帯の商品でも、商品の見た目は変わらないけれど誰でも知っている企業の1,900円の商品と、聞いたことのないような企業の1,000円の商品を購入する際に、品質の良さ、機能性などへの期待感をもって、1,900円の商品を選ぶ人は少なくありません。これは、一見しただけでは品質の差がわからなくてもブランドイメージで選ばれているのです。
本講座では、商品の価値をお客様が感じ取って、選びたいと思わせるものを、ブランドと呼びたいと思います。海外のラグジュアリーブランドでも、万人にとって価値あるものではなくても、ある一定数の顧客層にはブランドイメージによって高価格帯商品であっても、このブランドだからこそ買いたいと思わせるわけです。

なぜブランド作りに取り組む必要があるのか?

とにかくものが不足した時代、作れば売れるというプロダクトアウトの時代から、1970年代に入ると次第に供給過剰となり、「市場」の需要分析が必要なマーケット・インの時代になってきました。そして現在では、日本に居ながら海外の安くて良いものをいくらでも買える時代です。安くて良いものをいくらでも買えるけれど、情報が溢れていて、本当に欲しいものがお客様自身もわからない。現在は、お客様のニーズを掘り起こし、人生がより豊かになる価値観を提示することが求められる時代です。「敢えてこの商品を選ぶ理由」をしっかりお客様に認識してもらい、単なる価格競争から抜け出すためにもブランディングが必要になっています。

ブランディングとは?

ブランドというものは、違いを生み出すものであり、価値が上乗せされているものです。ブランディングとは、手に入れたくなるようなブランドイメージを作り出していき、顧客が手に入れたくなるものを作るためのプロセス・取り組みを意味します。その名前、ロゴを見た時に想起されるイメージを含めて、お客様は商品を手に取り、そのイメージによって価格価値が上乗せされます。ブランドイメージが高まることにより、付加価値、つまり製造原価に対する粗利益もより高くなっていき、売上と利益率が改善されます。十分な利益を確保することで次の商品・次の世代の育成に投資出来るようになります。

「価値を上乗せする」への勘違い

「もの(質)は良くて、値段も安いのだから、知ってもらえれば売れるはず」と言われることがあります。この考え方には注意する必要があります。価値があるかどうかを決めるのは、常にお客様です。たとえば「伝統的である」ことそのものはお客様にとっての価値ではありません。伝統的なものを暮らしの中に取り入れることで「誇らしい気持ちになる」ことが価値なのです。「地元素材で作っていること」そのものが価値なのではなく、「地元への愛を感じられて気持ちが満たされる」ことが価値なのです。言い換えると、どれだけ提供者側がいいもの・価値あるものだと考えていたとしても、お客様が価値があると思ってくださらなければ選ばれることはありません。

2つの価値

お客様が感じる価値は、機能的価値(機能、品質、価格など)と情緒的な価値(信頼感、幸福感、共感など)があります。機能的価値は、資本投下がものをいう世界であり、大企業に有利な領域と言えるでしょう。だからこそ、規模の小さな企業は情緒的な価値をどう作っていくのかを考えることが重要です。皆さんの強みから生み出される情緒的価値もしっかりとブランドとしてどう伝えていくかを考えることが重要です。

価値を形成する要素

顧客が価値を感じる要素にも様々なものがあります。特に近年では、商品の背景・周辺にある要素にお客様が接する機会もどんどん増えてきています。どんな生活文化、どんな価値観を大切にしている人が生み出したものなのか、歴史、作り手の人柄、どんな人間関係の中で作られているのか、地域固有の素材・風土とのつながり等、ものづくりを取り巻く周辺の要素からのストーリーを感じてもらえた時に、情緒的価値を受け取っていただくことができます。デザイン性、意匠性が優れている商品が非常に増えてきていますが、それだけで売れる時代ではありません。もの作りを取り巻いている要素を紐解きながら、商品と共にどのようなストーリーを届けるかを作り手とデザイナーが一緒になって考えていく必要があります。
伝統・歴史・地域性・手仕事だからこその人間性を含め、伝統工芸・伝統産業は情緒的な価値を生み出していくための大きなポテンシャルを秘めていると感じています。

ブランドイメージは、どのように作られるか?

お客様に、期待感を持っていただけるようになるにはどうしていけばよいかを考えていきます。いろいろな手法としてのHowはありますが、ブランドイメージを作るには、一つの取り組みだけでブランドイメージが形成されることはありません。一貫性のある取り組みを積み重ねることがブランドイメージを形成していきます。この点に関して、昨年度のKappelerさんのお話をnoteに掲載していますので是非読んできていただきたいです。

その中で言われていたこと抜粋してみましょう。
・商品がたくさんある中で、商品だけを提案してもあまり、消費者は魅力を感じない。
・良いものづくりと、ブランドイメージを作り伝えていくのは別の仕事
・イメージを作って徹底する(一貫性)
・いつの時代も大切なのは売り場の展示
・作り手のエネルギーとパッションを感じられる商品

ブランドを生み出す一貫性とは

皆様がブランドを作り、付加価値を高め、お客様が価値を認識し、対価を支払っていただくためには、いかのような積み重ねが信頼につながり、ブランドイメージを形成していくことになります。基本は以下の①から④のステップでブランドイメージを形成します。
① ブランドの核となる理念・信念・ビジョンの明確化
② ブランドビジョンに基づいた商品やプロジェクトを世に発信し続ける
③ ②を継続的かつ情熱的に発信し続ける
④ ②③を繰り返すことで、企業文化・伝統になる。

また、ブランドイメージを形成する上で一貫性を重視すべき領域は二つあると思っています。
1つ目はプロダクト、イノベーション活動における一貫性です。
ありとあらゆる商品はプロダクト・ライフ・サイクルを辿ります。企業は生活様式や時代の変化に合わせて、求められる商品を世の中に届け続ける必要があります。「伝統というのは革新し続けた結果、現在の世の中に残っているものは、時代ごとの価値観の変化に合わせて作り続けてきた、革新の果てに伝統産業が存在するのではないか。」ということをカペラーさんもおっしゃっていました。時代が変わる中で何を残して、何を変え続けるのか。企業として一貫した価値観やメッセージに基づいて一貫性のある商品・サービスを世の中に出し続けることがブランドイメージを形成していきます。

2つ目がお客様とのタッチポイントにおける一貫性です。ブランドイメージを認識されるのはお客様です。ありとあらゆる局面で作り手である自分たちが大事だと思っていることが一貫しているとお客様が感じるかどうかが、ブランドイメージを大きく左右します。
例えば、ブランドとしてサステナビリティを発信しておきながら、最後に渡される包装紙が過度にラッピングされていると、このブランドは本当にサステナビリティを考えているのかとお客様も疑ってしまうでしょう。ロゴ、職場、従業員の服装といったディテールに至るまで、お客様とのあらゆるタッチポイントに一貫性があるかどうかがブランドイメージを左右します。

ブランドの一貫性を保つ軸となるのが、ブランドビジョンです。これからブランド作りに取り組む人は、まず、どんな豊かさやどんな夢をお客様に届けていくブランドであるのかを、考えていただければと思います。そしてブランドビジョンは、作り手自身が心の底から大事だと思うことが表現され、かつ、お客様に共感してもらえるものであることが求められます。

第2部「ケーススタディ」

Suzusanのブランド戦略

村瀬氏:対話をしながら創造をするという意味のタイトルCreation as DIALOGUEがこのプロジェクトの名前です。そして、アートは自分自身でコントロールできる職業ですが、デザインとして会社で何かをやっていくことは、多くの業種の様々な人と仕事をしていくことであり、それを私は楽しんでいます。
2008年にスズサンというブランドを立ち上げました。元々、家業が有松で絞りをやっていました。6工程をすべて異なる家で行っていて、そのうちの一工程を家業として父が職人でした。昔は有松全体で1万人以上の職人が従事していましたが、時代の流れで私が子供のころには200人以下に減少してしまっていました。町全体でもこの産業に未来を感じられなくなっていました。
高校卒業後、美術大学を目指し当初はイギリスで、その後ドイツの大学で美術を専攻しました。展示会に来場された方は、絞りの文化がないために、只々美しい、珍しいものとして捉えてくださいました。その反応は、自分がステレオタイプとして持っていた絞りへの見方が変わるターニングポイントでした。また、友人に見せた時にこのテキスタイルはビジネスになると言われたのが、もう一つの転機でした。会社を作った時には下請けの一つだったので、顧客も、プロダクトもブランドもなく、ただあるのはあと数年で無くなると言われる伝統産業だけでした。様々な失敗を重ね、経験し、勉強を重ねてきた中で、現在は取引先で言えば23か国、ヨーロッパを主に、イスラエルやカリブ海地域見含め、行ったことのない国々にも広がりました。2008年当時は父が一人でやっていましたが、今はドイツ7人、日本では17人の会社になりました。20代~30代の職人さんも増えましたし、日本全国から集まってくるようになりました。スズサンというのは絞りの文化の中で、継続性と循環を生み出し、それが一つの会社のビジョンとなり、新しいビジョンを作り出す中で、無くなりそうな職人の技術を次の世代に繋ぐ役割を果たしています。
無くなりそうな技術がそこにある。この技術を残すために何を残すのか。コアである有松鳴海絞残したい、有松で手仕事であること、400年続いている歴史はほかの地域では別のコンテンツになるし、歴史的背景までは伝えられない。それ以外はすべて変えると考えました。木綿を使って絞りを施して浴衣を作るというのは400年変わらなかったが、ドイツへ持って行っても浴衣は着ない。では現地の、生活に取り入れるにはどうすればよいのだろうと考えた結果、素材と用途を考えカシミアと絞り、ポリエステルに絞りで、グローバルに表現することを考えました。素材と用途を変えるということを試行錯誤しています。その中で思うのが、ものづくりの人は細かい手仕事で評価されることを求めがちだが、それでは価格が上がりすぎ、時間がかかる。ユーザーの目線になって考えることが必要です。

澤田:素晴らしいプロダクトを作っていくことで、有松絞の地域性と絞りの技術を残し、マテリアルをニットやカシミアで、ものが良いと言われる軽くて暖かいにこだわり、用途を浴衣からショールに替えるなど、伝統的な有松絞のエッセンスを残しながら変えていかれています。村瀬さんはどういう風にスズサンのブランドイメージをお客様に伝えていくのか、心がけていらっしゃることがありますか?

村瀬氏:見せ方は工夫しています。正解がない中で考えながら、ファッションは年に2回、新しいものを作り出しますが、そのサイクルが自分に合っていると思います。ファッションは社会を映す鏡だとも思っています。あまりファッション誌は読まなくて、新聞やニュース、美術館に行くなどアプローチを考えています。自分たちの主張よりも対象からの跳ね返り、価値観も様々で、クロスパターン一つ取ってもキリスト教の中で象徴的シンボルであってもユダヤ系の方には受け入れられないといったこともあります。グローバルを考えると多くの地域の方々に受け入れられるものを考えています。向き合っているお客様、販売されるお客様もそれぞれ個人なので、ローカルに溶け込めるものでなくてはいけないと思っていて、ローカル同士を橋渡しすることだと考えています。
最初は、ものさえよければよいというアーティスト目線で作っていましたが、自分本位なアーティストのまま会社を立ち上げ、クリエイティブディレクターと名刺に書いた時に初めてデザイナーを名乗るようになりました。それから2年位かかり、良いデザイナー・良いディレクターと、アーティストは違う。作ったものを喜んで使ってくださるお客様がいらっしゃることがあってのデザイナーなんだと考えが切り替わりました。それからは変わらずその考えで、お客様と一緒にお話をしますし、新しいデザインを作った際には必ずセールススタッフに相談します。有松でダメと言われてもパリやドイツのセールススタッフは凄くいいと言ってくれることもあり、結果としてよく売れました。より、ユーザーやタッチポイントのあるセールススタッフの声を拾うということが、大事だと思います。


村瀬さんありがとうございました。
この後、参加者も交えての質疑応答のお時間となりました。


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