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『トウキョウ ト キョウト ~空~』

東京から京都に引っ越してきて2年以上経ちますが、会社の飲み会では「関西もう慣れた?」といまだに聞かれますし、はじめましての人と出身の話になると「なんで京都(関西)に来たの?」「関西どう?東京と何が違う?」と毎回聞かれるので、その都度答えを考えるのが面倒になり、メモしておこうと思い立って始めた「トウキョウ ト キョウト ノ メモ」が20個以上溜まったのでnoteに書こうと思いました。
せっかくなので小説風にしようと思います。
関東から関西に(特に京都に)引っ越しを考えている人は新幹線の中ででも御笑覧ください。


『トウキョウ ト キョウト ~空~』
きゅうりは人生で2回目の物件巡りに興奮していた。
新しく住む場所を決めるということにただでさえ興奮するのに、そこが観光でしか来たことがない京都という土地だったので、不動産屋さんが運転する車の中で、ずっと外の景色を眺めていた。
京都の大通りはいまやビルやマンションが立ち並び、通り沿いに町家はほとんどないのだが、この町で暮らすことを想像しながら見る景色は旅行に来た時に見る景色とは格段に違い、風情を感じていた。

その興奮をわかっていたのか、運転する不動産屋さんの方もだいぶ饒舌できゅうりに話しかけていた。自分が知っていることはすべて語り尽くすと言わんばかりに目に入った景色に関係することはとにかくしゃべり続けていた。

京都の会社に転職が決まってから1か月近く不動産情報を眺めて、気になった物件や住みたい駅をチェックしておいて、京都に来る2日前に不動産屋さんに電話で内見のお願いをした。
しかし内見当日の今日になって、先に別の不動産屋が内見希望を入れたとかで第一希望の物件に内見が出来なくなり、それを不動産屋のせいにしていた。そのせいか、物件巡りに興奮しているものの、不動産屋の饒舌な喋りには空返事に思える相槌ばかりしていた。
物件への希望条件を考えている時、大阪に住む友人から
「そうは言っても物価は安いから、京都駅前とかじゃない限り
家賃の心配はしなくていいと思う」
と聞いていたので、東京で一人暮らしをしていた物件と同じ条件に加え、駅やスーパーが近いなどさらなる条件を伝えたが、想定の家賃内で10軒ほど候補が出てきたのに驚いた。
あおられた気になってもう少し欲を出して条件を伝えてみると、候補は3軒に絞られたので、事前に内見を希望していた2軒と合わせて5軒を見せてもらうことになり、その1軒目に向かっていた。
「ここは餃子の王将の1号店なんですよ。京都が餃子の王将の発祥って知ってましたか?休日は基本的に並んでいて、外国人の観光客も結構いらっしゃいますね。」
「へぇ~」

京都は縦横に道が伸びて「碁盤の目のようだ」と言われるが、実は所々に斜めの道がある。
今走っている“餃子の王将1号店通り”(後院通り)もそのうちの一つで、大きな交差点から北西に向かい綺麗に45度に斜めに走っている。
(川があったり、電車が走っていたりしたのだろうか)と思いを馳せていると
「こちらを入ったところが1軒目ですね。あそこの駐車場に停めますので
歩きましょう。」
1軒目の物件は先ほどの大通りから1本入ったところにあった。
「物件はこちらです。」
不動産屋さんに紹介されたマンションの外観はいわゆる〇イオンズマンションのような茶色のレンガのような壁で、汚れがあまりない所を見ると築年数も浅いようだが、何よりも目を引いたのが、マンションの入り口が半地下にあったことだった。
マンションに入る時に階段を10段ぐらい降りてから入る。その行為がきゅうりにはお洒落に感じてテンションが上がった。
物件はお洒落マンションの4階にあった。玄関から奥へ続く廊下まで内装はほぼ全て白い壁紙で、シンプルかつ綺麗だった。
廊下の左にキッチン、右には扉が2つあり、それぞれトイレとお風呂だった。
突き当りの扉を抜けるとリビングになっていて、リビングも壁紙は白、床は明るい茶色のフローリングだったので北向きと聞いていたが全体的に明るい印象を持った。
靴箱や浴槽など細かい所をチェックしてから、日当たりが気になりベランダに出た。
周りの建物も同じぐらいの高さはあったが、距離が離れていたので空も十分に見えた。その時ふと「不動産を見るときは雨の日に行った方がいい」という特集をテレビでやっていたのを思い出して(雨の日に見るポイントがあるのはわかるけどやっぱり晴れている日の方が気持ちいい)とぼんやり考えていた。


2軒目は5分ぐらい車で移動したところにあった。「少し古いが打ちっぱなし」と聞いていた通りで、ところどころ雨染みのようなものがあるものの、コンクリート打ちっぱなしのお陰で外観からは結構新しい物件に思えた。内見する部屋は2階だった。
角部屋だったが西側の建物は隣の家と手が遠く距離で、コンクリートの壁も相まって、中は少し涼しく思えた。コンクリートの中に少し古そうなインターホンやエアコンのリモコンが取り付けられていて、キッチンも真っ白ではなく少し黄ばんでいるように見えたのがちぐはぐに思え、この物件は少し違うかなと思いつつも最後にベランダに出た。中の少し暗い印象とは異なり、ベランダに出ると十分に日差しがあり明るかった。1軒目の時も感じたが、空が広いというか、周りの建物が低いような印象を受けたので不動産屋さんに聞いてみることにした。
「なんか空が広いというか、全体的に建物が低くないですか?」
「そうなんです。よくお気づきですね。京都市内は景観保護地域なので建物に高さ制限というものがありまして、マンションだと大体10階以上の建物は建てちゃいけないことになってるんです。」


大学生の時に旅行で何度か京都に来たことがあったのに、空が広いと思ったこともなければ、建物の高さに制限があると聞いたこともなかったので新鮮な驚きだった。
高さ制限と聞いてなるほどと思った。物件に向かう途中もなんとなく今日は天気がいいなと思う回数が多かったのが、建物が低かったからだとわかった。 

京都の空が広いと思った理由はもう一つ思い当たるものがあった。きゅうりが東京にいた時に勤めていた場所は東京の中でもオフィス街の中心地と言われる「丸の内」だった。
毎日ビル群の中で生活していて、上を見上げてもビルに切り取られた一部の空しか見えていなかった。そもそも社会人になってから上を見上げることは少なくなっていたかもしれない。
京都の空は広いー。
それだけでも京都に住めることが嬉しくなった。

「あれ?でも京都タワーって結構高いですよね?」
「それもよく聞かれるんですけど、あれは特例です。」
不動産屋さんの「よく聞かれるんです」と言った後のしたり顔を見て、きゅうりはやはりこの人苦手だと思った。

ーつづくー

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