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感想:おちび(エドワード・ケアリー)

アルザスの小さな村に生まれた少女・マリーは、蝋彫刻家の「先生」の弟子として、混沌とした都・パリへ流れ着く。彼らは市井の人々から始まり、有名人、革命家、そして犯罪者の〈顔〉を写し取った蝋人形を製作して、見世物にする館を開いた。やがてマリーはその才能を買われて、ヴェルサイユ宮殿で働くことになるのだが、革命のうねりはすぐそこまで迫ってきていた。

絵がこわい。挿絵がこわい。
表紙に人体の部品や臓器が描かれているが、こういうイラストがご丁寧に本文中に散りばめられている。

最初から「後のマダム・タッソーの物語」という事は知らされているので「いつ成功するのか」と期待して読むのだが、来る日も、来る日も、マリーは蔑まれ、虐げられて、才能を発揮しても認められない。

ヴェルサイユにだって行くんですわ。
王女さまにだって会うんですわ。
でも、ちっとも華やかな舞踏会も綺麗なドレスも美味しい食事も出て来ないんですわ。
マリーは非人道的な扱いを受けながら、せっせと蝋細工の人体パーツを作るばかりなんですわ。

激動のパリを駆け抜けた、あらゆる人物の顔をマリーは写し取っていくが、歴史の傍観者という立場とは程遠い。

マリーはフランス革命という嵐の中で、くるくる飛ばされた小さな木の葉にすぎなかった。今にも腐って地べたに貼り付いてしまいそうな枯葉だ。
彼女の矜持は、物語の最後に、ささやかに読者に投げつけられる。

痛快とも思えない。
きっと枯葉が口をきいたらこんなこと言う。
そんなことを、マリーは言う。

そんな長い物語だった。
とにかく挿絵がこわい。

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