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キューブラッシュのプリンシピア まえがき

本文を全て書き終えてから書く「まえ」がき.

キューブラッシュとは何か

おそらく今これを見ている方は, 「キューブラッシュ」とは何かを多少なりとも知っているとか, シューティングゲームに興味があってここにたどり着いたに違いないのだと思うが, 体裁として一応, 「『キューブラッシュ』とは何か」ということを述べておく.

ゲームの中の一場面

「キューブラッシュ」は, 1989年にKONAMIからリリースされた横スクロール型シューティングゲーム「グラディウスIII 伝説から神話へ」(以下「グラIII」)の中のとある場面を指す通称である.

あくまでもこれからテーマにするのは「キューブラッシュ」なのであり, やれシューティングゲームの歴史だ, 「グラディウス」シリーズの歴史だ, さらには「キューブラッシュ」以外の「グラIII」の内容といった話題についてはわざわざ詳しく語ることはしないが, とにかく「グラIII」というゲームは「難しい」といった評価がしばしばなされるゲームで, その難しさの最たるものとしてオールクリアに対する壁として立ちはだかるのが「キューブラッシュ」といったところだろう.

「グラIII」は全10面構成で, その中の9面はクリスタルをテーマとしたステージである.
時々「氷」とか「アイスキューブ」といった表現も見かけるが, PS2版のステージセレクトの画面で9面を選択すると「CRYSTAL」というテキストが表示されること, また, ステージBGMのタイトルが「Crystal Labylinth」であることから, クリスタルで合っているであろう.

曲タイトルよろしく, クリスタルのブロックで構成された狭く入り組んだ地形を抜けスクロールが停止すると, いよいよ「キューブラッシュ」の場面に入る.

そこでは破壊不可能なクリスタルのキューブが99個出現するのだが, それらを全てやり過ごすとボス戦に入るという仕組みで, 初代「グラディウス」に明るい人向けに言うと, 「ザブラッシュ」・「ザブ避け」の発展型と考えてもよいかも知れない.

各キューブは前方より出現し, 水平にゆったりと直進して来るのだが, 99個のうち約半数は, キューブごとに異なる決まった地点まで来ると突然自機を狙って高速で突っ込んで来るようになっている. その「高速」の度合いが問題なのだ.
シューティングゲームをプレイする以上は「避ける」という行動は常にさせられるわけで, 中には「速弾」というジャンルもあるくらいだが, それをも超越した桁違いの速さなのだ.

苦行になりかねない

99個のキューブを全て避けるのは決して不可能というわけではなく, 実際に筆者は常々全避けをしているくらい研究もやり込みもしているが, できるようになったら看板を掲げてもよいというぐらい, それは難しい.

そこで, 普通はキューブを全て避けなくてもよい手段を採る.
各キューブは画面端に触れると, そこで動きが止まるという性質があると共に, それら止まったキューブや地形に触れたキューブはそこで動きを止めて固着するという性質がある.
そうしてそうしてどんどんキューブを集めて固めていき, 自機をぐるりと囲むような防御壁, 通称「カマクラ」を作るのが王道とされる.
ちなみに, 99個全てのキューブが出現し終えると, 若干画面がスクロールしてから地形とキューブがフェードアウトしてボス出現という流れになるのだが, あまりにもカマクラ内部が狭いとスクロールで潰されてしまうので, 適度な広さも確保しなければならない.

そして残念なことに, キューブの出現にはランダム性を含んでいる.
もっとも「ランダム」とは言っても緩いものであり, これから続く本文のように理論体系を構築できるようなものではあるのだが, 完全なパターンとはならない.

そうして, いざ何も知らない者がいきなり挑もうにも, 訳が分からないまま高速で突っ込んで来たキューブにやられて, 一瞬で自機が宇宙の塵と化すのは実に想像が容易い.

要するに, ともすると「何をやらされているのか分からない」ただの苦行になってしまうような, そこだけ全く別なゲームをやらされるのだ.

本書の目的と内容

そこで, その「何をやらされているのか分からない」を解消して「キューブラッシュ」の実像を正しく伝えるのを目的として, 本書は「キューブラッシュ」の原理・原則から始めて攻略法に至るまでを詳しく述べたものになっている.

筆者は「キューブラッシュ」の攻略動画の制作も行っているが, その中でもメインとなるものが

  • リズムで避けるキューブラッシュ このようにきざむのだ

  • 数学で避けるキューブラッシュ このように求めるのだ

  • シミュレーションするキューブラッシュ このように避けないのだ

https://www.youtube.com/playlist?list=PLF85-drH7pc1EoQ_REspNy4NZLgtK5XxQ

の3タイトルで, 本書はそれらの内容を基本としている.

構成に関して留意した点

内容の順序

かつての動画は, 「キューブラッシュ」を体系的に学ぶには向いていなかった. なぜならば, 研究の成果が出た順に制作・発表をしたためである.

そのため, 「キューブラッシュ」の攻略法を網羅するためには, 全ての動画を見終わった上で, 内容を視聴者自身が頭の中で組み立て直す必要があり, それが視聴者への負担であると推察された.

そこで本書は,
「体系的に学ぶ」という点を重視し, 「キューブラッシュ」を最短の道筋で学べるように配慮
して, 内容の順序を構成してある.

数学的背景の削除

思い切ってごっそり削除した内容もある.

動画で扱った大きなテーマは

  • キューブが加速するタイミングに着目し, 「キューブラッシュ」を「リズムの正確性を競うゲーム性」と捉える

  • キューブが加速した後の軌道に着目し, 「キューブラッシュ」を数学的に解析する

の2つで, 本書もそのような内容になってはいるのだが, 後者に関して数学的背景の説明に関する内容は削除した.

かつての動画では, 内容を完結したものにするために, 数学的な前知識を持っていなくとも理解できるようにするという意図で, 解析に用いた数学的手法の背景にまで遡った説明を行っていた.
しかしそのせいで, とにかく内容が冗長なものになってしまったのは否めず, これもまた視聴者への負担であると推察された.

そこで本書における数学的内容は,
背景の説明を省いた簡潔なものとし, 数学的な前知識を持っていない場合でも結果だけ追えば, 「キューブラッシュ」の理解という目的を達成するには差し支えないであろうという立場
で述べる.

読み進めるにあたって

読者各位には,
少なくとも
「キューブラッシュ」が一体何をやっているのか
ぐらいは分かる

ことを目標に据えて, 少しずつ丁寧に読み進めてほしいと思う.

また, 今掲げた目標は, プレイヤーではないが他の人がプレイしているのを見て楽しむという者に対しても, ゲームをより深く味わうという意味で貢献するだろう.
それがきっかけで, 「今度は自分もやってみよう」となってくれれば筆者としてはもっと嬉しい.

どうせ一朝一夕にはいかないゲームなのだ. じっくりいこう.

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