見出し画像

ローズタウンモーターズ(ティッカーシンボル:RIDE)について

1月11日に公開されたプレゼン資料を中心にローズタウンモーターズの事業・製品・現在地・今後などを読み解いていきたいと思います。

企業自体に興味のない人も『8.まとめ』を見ていただけるとどのようなイベントを気にすれば良いか分かると思いますのでまとめだけでも読んでいただけると嬉しいです。

⒈ローズタウンモーターズとは

企業プロファイル

画像10

Lordstown is an automotive company founded for the purpose of developing and manufacturing light duty electric trucks targeted for sale to fleet customers. Located in Lordstown, Ohio, Lordstown’s facility spans 6.2 million square feet. Since inception, Lordstown has been developing its flagship vehicle, the Endurance, an electric full-size pickup truck.
ーhttps://investor.lordstownmotors.com/より

ローズタウンモーターズはオハイオ州ローズタウンを拠点として、商業用の軽量EVトラックを開発・製造する自動車会社です。
元々はシボレーなどを製造していたGMの工場であったローズタウン工場をそのまま買い取って2019年4月に設立された会社です。

経営陣

画像8

経営陣は基本的に自動車会社とスタートアップをバックグラウンドとしている人で揃えられています。特にCEOであるスティーブ・バーンズは前職Workhorseで共同設立者として働いてきた人物であります。Workhorseという企業はLordstownの兄貴分とでも呼ぶべき企業で、USPS(郵便局)の受注を争っていましたが、先日受注競争に敗れたとしてニュースになり株価が半減したことも記憶に新しいです。ただ、スタートアップであるWorkhorseでの経験が既にあるということはローズタウンモーターズにとっては信頼できるという点でメリットですね。

⒉マーケット・製品は?

マーケット

アメリカで売られている新車の7割は、ピックアップトラックです。皆さんは、日本を基準にして「普通乗用車のマーケットのほうが大きい」と思っているかもしれませんが、それは間違いです。ピックアップトラック市場こそ全米最大で、最も儲かるマーケットなのです。
ーhttps://diamond.jp/articles/-/258612『世界投資へのパスポート』より


じっちゃま (広瀬隆雄氏)が上記の通りアメリカのピックアップトラックマーケットは儲けることのできるマーケットと説明されています。

画像3

ただし、プレゼン資料を読み解くと7割というのは軽量トラック=SUVs, CUVs, ピックアップを合わせたものという記載があり、ピックアップだけで7割のマーケットが存在しているとはならないように思います。私の理解が正しければ、ピックアップトラック市場は下図の3百万台つまりアメリカの年間自動車セールス台数の17%相当になると考えます。

画像7

その一方で、ローズタウンが狙うマーケットは軽量トラックの内のフリート(いわゆる事業用=配送業者など)のピックアップ市場で、上図の青色の一番濃い部分になります。1.3百万台の約6兆5千億円の市場規模のマーケットのシェアをターゲットにしています。

製品

そのようなマーケットの中でローズタウンモーターズはフラッグシップである『Endurance』《意味は忍耐や耐久性などと訳せ、質実剛健なイメージの名前となっています。個人的にはスペースシャトルの名前にありそうでかっこいい!!と思いました。》を2021年9月に販売開始予定となっています。
これが実現すれば、最初に市場に登場するEVピックアップトラックの一つになります。


⒊『Endurance』のセールスポイントは

コスト面
ローズタウンのHPのEnduranceという製品の紹介ページをクリックすると下図のようなライバル製品であるフォード社のピックアップトラック『Fー150』との比較が出てきます。

画像1https://lordstownmotors.com/pages/endurance

イニシャルコストこそEnduranceの方が少し高いものの、燃費効率やメンテナンスコストが優位であることやEVの連邦税控除などから5年所有した際のトータルコストは200万円ほど安い結果となっており、事業用ピックアップトラックのターゲット層である数十台をまとめて購入するような事業会社にはかなり魅力的に映るはずです。
特に燃費はリッター約31km相当とされており、ピックアップトラックとしてはかなり魅力的です。(フォードは現行F-150はリッター約10kmとしています。)

性能面

画像7

普通のピックアップトラックは、1つのエンジンを持ち、そこで生じた回転をシャフトを通じて前輪や後輪に伝達してゆく方法を採っています。その過程で、ピストンやギア、シャフト、バブルなど、約2000点もの「動く部品」を使用する必要があります。それらの多くは潤滑油を必要としており、使っていくうちに消耗し、金属疲労を起こします。
それに対してローズタウン・モーターズの「エンデュアランス」は、ハブ・モーターという方法を用いており、4つの車輪の内部にそれぞれモーターを組み込んでいます。動力部が直接タイヤにつながっているので、エネルギーを伝播するチェーンもベルトも必要ありません。万が一、車輪の一つが動かなくなっても、スペアのモーター入り車輪に履き替えるだけでOKです。
ーhttps://diamond.jp/articles/-/258612『世界投資へのパスポート』より

上記はじっちゃま (広瀬隆雄氏)からの引用になります。これよりも上手く説明できる自信がありませんでした笑 のでそのまま引用させていただきました。

⒋競合について

画像6

EV業界はTESLAを筆頭に群雄割拠の時代に突入しています。主な競合相手との比較は上図の通りです。プレゼン資料上はフルサイズピックアップトラックで且つ商業用フリートの競争相手となるのはフォードとなっています。
ここは、先ほどのコスト面での比較から分かる通り、ライバルをフォードと置いてフォードのシェアを奪うことがローズタウンの成功につながると考えているようです。

画像11

2019年のピックアップトラックの売り上げ一覧(YTDの列)を見てもフォードのFシリーズが90万台弱の販売でトップであることから見てもここをベンチマークとして捉えていることがわかります。2024年にはトヨタのツンドラ程度の売り上げを目指していることから意欲的な目標かもしれません。

一方、気になるテスラですが、商業用フリートではぶつかる相手ではないと考えているようです。そのため、むしろこれらのプレゼン資料や現在の売り上げ一覧に入っていない新興企業の方が手強い相手となる可能性もあります。

参考までにEVSPAC会社との比較です。特に注目したいのが、事業計画上の販売台数です。ピックアップ市場をターゲットにしているということもありますが、他と比べるとかなり控えめ・現実的な計画となっており、堅実且つ実直な印象を受けました。
これは唯一ローズタウンモーターズのみが本社をオハイオ州に置いていることと無関係ではないと思います。他は全てスタートアップの総本山と言えるカリフォルニア州を本拠地にしており、この点もローズタウンが他と一線を画すもので、良くも悪くも旧来のいわゆるBIG3(GM、フォード、クライスラー)からの流れを感じます。スタートアップといえども地に足がついている経営ができる土俵があると感じました。

⒌事業計画

画像9

SECに提出されているInvestor Materialsから2024年までの事業計画が公開されています。2024年には年間およそ10万台を販売する計画としており、これはピックアップトラック市場の3.5%(フリート市場に限ると約8.1%)のシェアを獲得する前提となっています。粗利益は$1,076M、EBITDA $600Mとしており、かなり無理のない事業計画であるように感じました。
当然この中には、Enduranceの製品売り上げ分しか反映されておらず、他の製品のアップサイド(逆にダウンサイドも)も織り込まれていないことはこれからの新製品発表が楽しみですね。

⒍現状の契約・開発状況

現在

画像4

現在既に10万台の予約販売を受け付けています。また、1注文当たりの注文台数平均は580台となっており、これらの事実から大型の契約を中心に強い引き合いが見て取れます。

今後

画像6

既にEnduranceの最初のプロトタイプ(アルファ版)は昨年の6月に完成しています。現在は、ベータのプロトタイプ57台について製造・開発中で3月中の完成を目指しています。このベータ版は実際に一部顧客に使用してもらいフィードバックをもらったり、クラッシュテストなどに使用するそうです。また、既にソフトウエアのクラッシュ(安全)シミレーション上はで5つ星を獲得しています。

ベータ版は21年の4ー6月にテストを実施し、完成品を9月に製造・販売を開始したいと考えています。
既に10万台の予約注文があります。製造目標は
・21年0.2万台
・22年3.2万台
・23年6.5万台
・24年10.7万台
となっていて、既に10万台の注文を受けていることを考えると23年の製造分までは既に予約が入っている状態と言えます。
つまり、注文キャンセルは可能なものの販売のメドは既に立っており、今後を左右する要因としてはいかにスケジュール通りに製品を出荷できるかにかかっています。

他の製品について

◆RV

The Lordstown Motors Electric Van is in development with plans to be unveiled in June and production starting in the second half of 2022. Based on the Endurance platform, the van will utilize hub motors to achieve all-wheel drive and low ground clearance, and have a class-leading range. An initial use case of the van will be as the world’s first production all-electric RV, produced in partnership with Camping World. The van will be priced competitively with comparable internal combustion-based vans.
ーニュースリリースより

ローズタウンはバンも開発中で今年6月にお披露目、22年の後半に製造開始を予定しています。こちら予定通りいけば世界初の商用電気RVとなるとしています。

◆SUV

将来的には参入の意思ありとしていますが、詳細は発表されていません。

⒎懸念点

競合激化

Analyst Adam Jonas: "RIDE benefits from a nearly free plant (acquired from GM) and a highly experienced management team with a plan to enter the commercial pickup market. However, the company faces a flood of new competition in EV pickups from startups and legacy OEMs with far greater scale and distribution advantages."

競合他社のトピックでも取り上げた通り、EVは非常に有望な市場ゆえに競合の参入が相次いでいます。
モルガン・スタンレーのアナリストであるアダムジョーンズもローズタウンの優位性があること(GMからのタダ同然の工場の移転や経験値のある経営陣)は認めているものの、スタートアップの新規参入やスケールメリットや販売戦略でアドバンテージのあるフォードなどの大手他社との競争にも晒されていると分析しています。
特にフォードはEV版のFー150を2022年に販売すると発表しており、この車のスペックや値段によってEnduranceの販売は非常に大きな影響を受けることが予想されます。

画像12

法的拘束力のない(Non-binding)予約

フリート契約をする顧客は大半が自治体、ガス・水道の作業員や建設会社となっています。彼らは約$50,000という価格に魅力を感じて予約をしていると考えますが、実はこの予約は(100ドルの手付金を除き)法的拘束力のない予約となっています。つまり、ひとたび他の競争相手が値段且つスペックで優位な競合製品を投入した場合や製品の製造・販売スケジュールが遅延した場合、100,000台の予約はたちまちキャンセルされるリスクに晒されているのです。

⒏まとめ

①ローズタウンモーターズは他のEVメーカーと比べて事業計画や経験豊富な経営陣など他のスタートアップのEVメーカーとは一線を画し堅実なイメージを受ける企業

②既に100,000台の注文を受けているが法的拘束力がないのでこの予約通りに販売できるかは販売スケジュール(9月販売予定に間に合うか)と他社の製品(値段、性能及び販売時期)に左右される。また、ハブモーターは商用化されていない技術のため、スケジュールの遅延を招くリスクがある。

③一方で、アップサイドとしてはバイデン政権によるアメリカ産且つEVで政府車両の入替実施すると発表しておりその契約を一部でも勝ち取ること、スケジュール通りに製品を販売すること(今はスケジュール通り)、GMとのパートナーシップの深化(現在は資本・技術支援という形)もしくはRIDEの買収、新たな製品(RV)の発表が考えられる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?