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改正電帳簿保存法とインボイス制度についておさらい

2022年1月に施行され、2年の猶予期間を経てスタートされる改正電帳簿保存法と、これに関連する、2023年からスタートされるインボイス制度について、どのような内容で、実際には何を対応すればよいのか?押さえておくべきポイントに絞っておさらいをしていきます。

1.      改正電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、端的には帳簿や請求書などの書類について電子化して保存することを認めるもので、今回の改正では電子化して保存する際の要件の緩和や電子取引における電子データ保存の義務化、罰則規定の強化などが行われました。

以下にそれぞれの変更内容をまとめます。

①      電子化しての保存に関する要件緩和
本来であれば国税関係の書類は紙媒体での保存が原則とされていますが、税務署長への申告や、保存時のシステム要件、規定された保存方法をクリアすることで電子データでの保存が認められていました。
これについて、今回の改正では大幅な要件緩和が行われ、電子化しての保存についてのハードルが引き下げられています。

具体的には以下の5点が緩和されています。

A)     税務署長等への事前申請、承認の廃止
従前では電子データの保存や紙媒体書類のスキャナー保存を導入するには導入の3か月前までに税務署長等へ申請し、承認を受ける必要がありました。
これが今回の改正で廃止されたため、事前申請無しで準備ができ次第電子データでの保存を実施することができるようになりました。

B)     システム要件緩和
電子データでの保存をするにあたって、その保存されているデータが本物であることが証明されること(真実性の確保)と、だれでも確認できること(可視性の確保)が求められており、これを満たすための要件が8項目にわたって規定されていました。
今回の改正では、システム概要書などのシステム関係書類が備え付けられていること、操作マニュアルが整備されており整然とされた形式かつ明瞭な状態で速やかに出力できること、税務署員の求めに応じて電子データのダウンロードができることの3点となりました。
一方で、これまでの要件を満たす場合には「優良な電子帳簿」として認定され、過少申告加算税が5%免税されることとされています。

C)     検索項目の限定
(可視性の確保)に関わるところですが、保存されたデータは検索して確認することができる必要がありましたが、これについての検索項目が日付、取引先、取引金額の3点に絞られました。

D)     適性事務処理要件の廃止
スキャナー保存に関して、これまでの規定では社内規程の整備、相互けん制、定期的な検査といった適性事務処理要件が課されていましたが、これが廃止されました。
これにより、定期検査に必要な原本が不要になったため、スキャン後の廃棄がすぐに可能になったほか、2名以上での実施が必要だった事務処理も1人で実施することが可能になりました。

E)      タイムスタンプ要件緩和
これまでのスキャナー保存では、受領者の自署と3営業日以内のタイムスタンプ付与が必要でしたが、自署は不要となり、タイムスタンプも最長で2か月と7営業日以内と緩和されました。また、保存先がデータの修正削除の履歴が残るか、若しくはできないこと、入力期限内の保存が確認できることが満たされる場合、タイムスタンプ自体も不要となりました。

②      電子取引における電子データ保存の義務化
①では紙媒体で受領した国税関係書類についてのものでしたが、その一方で、電子データで受領した同様の書類についても改正がありました。
すべての電子取引は紙媒体へ出力しての保存が原則不可となり、データでの保存が必須となりました。
また、データでの保存においても①と同様の要件となるため、これまで紙媒体ですべて管理していた企業でも、先述の要件を満たした保管運用に入り変える必要が発生しました。

③      罰則規定の強化
事前承認が廃止されることにより、罰則規定が強化されています。
税務会計処理上で不備があった際に隠蔽や偽装などの悪用が見つかると、申告漏れに生じる重加算税が10%加重されることとなっています。

これらの改正は、従前の規定が電子データでの保存運用も場合によって認めるというものから、電子データでの保存を優先させるものへと、明確にシフトしていることが分かります。
見積書などの契約書類についてメール等でのやり取りは一般的に交わされており、多くの企業で改正電子帳簿保存法への対応が迫られていると言えます。

2.      インボイス制度とは
インボイス制度は正式には適格請求書等保存方式といい、請求書等の交付や保存に関する制度であり、取引に関する消費税額を正確に把握することを目的に制定されています。
端的には、課税事業者は適格請求書発行事業者の登録を行い、登録番号を発行してもらい、この登録番号を請求書等に発行することで仕入税額控除を受けることができる形に変更される、となります。
ただし、消費税を除く売上高が1,000万円未満の免税事業者にも影響があり、こちらへの影響が大きいといえます。
課税事業者、免税事業者のそれぞれが受ける影響は以下の通りです。

①      課税事業者への影響
課税事業者は、適格請求書発行事業者登録を行うことで登録番号が発行され適格請求書(インボイス)を発行することができるようになります。
そして、適格請求書発行事業者登録を行うと、取引先の求めに応じて適格請求書を交付すること、公布した適格請求書の写しを保存することが義務付けられます。
また、適格請求書発行事業者登録を行った企業は適格請求書以外の請求書については仕入額控除を受けることができません。
適格請求書発行事業者登録を行わないことによる罰則などはありませんが、登録した事業者との取引を継続しようとする場合は、適格請求書発行事業者登録が事実上必須となる形です。

②      免税事業者への影響
免税事業者については、ベースとしては直接的な影響はありません。ただし、上記課税事業者と同じく、登録した事業者との取引を継続しようとする場合は、適格請求書発行事業者登録が必要となります。
ところが、適格請求書発行事業者登録を行った場合、これまで免除されていた消費税を納税する必要が出てきてしまい、結果として納税事業者と取引のある免税事業者は消費税の納税が必要となってしまい、最大で100万円程、これまでよりも多く納税する必要が出てしまいます。
関係者が(またその先の関係者を含めて)すべて免税事業者のみで完結することは考えづらく、事実上税抜き売上高1,000万円未満の事業者も消費税の納税が必須になったと言えます。

インボイス制度における罰則規定は、適格請求書発行事業者以外による適格請求書の発行や類似請求書等の発行を行った場合、または偽りの記載をした適格請求書を発行した際に1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
適格請求書発行事業者の登録をしないことや、適格請求書を発行しないことによる罰則などはないため、だれもが適格請求書発行事業者の登録をしない場合には何も起こらないこととなります。
とはいえ、そうしたことは考えづらく、また現時点においても登録済み事業者は多いため、ほぼすべての事業者が適格請求書発行事業者の登録を行うことになり、結果として課税事業者、免税事業者の区分は意味をなくし、免税事業者であることの多いフリーランスや個人事業主を中心に、納税額の増加による影響を受けてしまいます。一方で、益税がなくなり税の公平性が増すといった良い面もあります。