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【EMARF】縫えるスツール ―木工CNCルーターの制約を長所として活かす― ①WHY?編

アートボード 12x

EMARFを使った1つ目の実践として、ある名作スツールのデザインを下敷きに、EMARFの加工の固有性を生かした家具を作ってみたいと思います。この記事はその考えにいたった理由を説明するWHY?編になります。

私はデジタルファブリケーションをより普通で身近な技術として捉え直すことをこの取組みの大きなテーマに据えています。そのために今回は加工上の制約を逆手に取ってデザイン要素に変えることをコンセプトに考えを進めました。

悩ましきフィレット穴?

はじめにCNC加工による制作物をいろいろと調べていて気になったのがフィレットという特徴的な形状である。

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画像引用:EMARFウェブサイト「3-3, 加工の特徴 - EMARFガイド」 より

CNCルーターはドリルが木材を切削していくため、入り隅部分の直角は通常では切削出来ない。また、かと言って角丸長方形にしてしまうと他の材とのかみ合わせられないため、画像のように少しだけ刃が逃げ込む耳のような部分を用意する必要がある。

これまでの木工細工では見られない特徴的な形状のため、一瞥して不格好だと思ってしまいがちだ。

とはいえ、このような制作上の制約から来るかたちを、そうかんたんに忌避して良いのだろうか。例えばコンクリートの「セパ穴」のことを思い出してみよう。

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コンクリートを流し固める際に両側の型枠を緊結するための部品の跡による丸いくぼみ。制作上の制約から来るかたちの代表格だ。このセパ穴もはじめは”美観を損なう”要素だったのではないか。ところが街中のおしゃれな打放し建築を眺めればわかるように、今では建築の一つのチャームポイント、ひいては一つの様式になっている。

同様にCNCルーター特有のフィレット穴も、うまくデザインに取り込めば、一つのスタイルになるはずだ。

このような発想からこのプロジェクトを考え始めた。

フィレット穴を面白く使うには

先に説明した理由から、EMARFのプラグインを使ってアラレ組とフィレットのコマンドを実行すると(制作の過程は次回の記事でより詳しく共有していく)、下の画像のように連続した穴が作られる。

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「この穴を上手く使えないか」「連続する穴を使ったデザインといえば?」と考えているうちに、「靴ひも」というデザインに思い至った。靴ひものように家具を結わえて緊結していけたら面白そうだ。

そして、「結わえてつなげていく」というアイデアと相性が良さそうな一つの名作家具のことが思い出された。

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Ulm Stool / Max Bill
By Christos Vittoratos - Own work, CC BY-SA 3.0

ウルムスツールは、バウハウスで学び、自身もウルムデザインスクールで教鞭をとったマックス・ビルが彼の思想を凝縮したスツールである。三枚の板と一本の丸棒という最小限の部材を、釘を使わず精密な技術で組み上げ、これ以上削ぎ落とせないシンプルな形に落とし込んだ傑作だ。

しかしそれだけではない。ビルはこのスツールをひっくり返して丸棒を掴んで本を持ち運ぶトレーとして使い、教場についたら再びひっくり返して腰掛けとしてそこに座っていたらしい(なんて美しいエピソード!)。積み重ねればかんたんなシェルフにもなるということは、容易に想像がつくだろう。トンチと思われるかもしれないが横に並べればそれはもうベンチである。つまり、このデザインは多機能性や拡張可能性まで視野に入れてデザインされているのである。この考え方は、紐で結わえてつなげるという今回のアイデアを適用するのにもってこいである。

また同時に、デザイン史の名作を実際に出力して組み立ててみて学ぶことにも意味があると考えた。写真だけ眺めていてもわからない寸法感覚を手と体で理解できるからだ。名作家具には難しい制作技術を要求するものも多いが、EMARFを始めとするデジファブ技術はそういったクラフトをDIYで(少なくともある程度)再現可能にしてくれる。

まとめ

このようなモチベーションから、最初のプロジェクトは「ウルムスツールをEMARF用にチューニングし、フィレット穴を活用した《縫えるスツール》を作る」という方針が固まった。

デジタルファブリケーションと聞くと複雑な最新技術という感じがして身構えてしまいがちだが、これからますます「普通」で「身近」なツールになっていくはずである。そうである以上「完璧な加工をしてくれるすごいやつ」という認識を超えて、さまざまな制約も楽しんで味方につけながらデザインや制作をしていきたい。これがこのプロジェクトの一番大きなモチベーションである。

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次回以降の記事ではより詳しく制作の過程を共有していきたいと思います。すこしでも興味を持っていただけましたら、ぜひフォローのほどよろしくお願いいたします。

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